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十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノ③

 日が暮れ、本日もスカピーノのステージが始まる。

 スカピーノは、楽屋で髪のセットをして、相棒である『エレキギター』を手にニヤリと笑う。


「ヒュウ!! さーて、今日も楽しくハジけに行こうか」


 楽屋には、配下でありバンドの一員である『メンバーズ』たちが揃っていた。

 それぞれ、バンド前の精神統一をしている。

 すると、ベースのリディックが言う。


「……スカピーノ様。毎日音楽をやれて楽しいが……『魔王の骨』はどうなってるんだ?」

「あん? ははは!! まあ、いずれ見つかるだろ。気にすんなベイベェ」


 そして、キーボード担当のミーティムも言う。


「毎日楽しいけど、音楽じゃない刺激もそろそろ欲しいかも。あ、そういえばさ、スカピーノ様知ってるよね、スカラマシュと、プルチネッラ様が死んだの」


 スカラマシュは序列十二位。スカピーノ配下であるミーティムは呼び捨てしていた。

 スカピーノは肩をすくめる。


「ダンナが死んだのは弱いからさ。ソウルが足りてねえ証拠……まあ、その気になればオレでも倒せるジジイだったしなあ? 知ってるか? あのジジイ、恋をしていたんだぜ?」

「わお、だれだれ?」

「知らね。でも、あれは恋だね恋。くぅぅぅ~!!」


 スカピーノは馬鹿にしたように笑う。

 すると、ドラム担当のフェノーラが呟く。


「……そういえば、報告があった」

「あん?」

「最下層の採掘場で、大規模な崩落があったとか」

「関係ないね。だから何だっての。まさか、噴火でも?」

「……それはない」

「だろ? 下民のドワーフ、技術力だけはスゲーからな。あいつらの作ったステージに、火山抑制装置があれば、ステージはいつもアツアツで最高の舞台だぜ!!」

 

 すると、歓声が聞こえてきた。  

 前座が全て終わり、いよいよシメであるスカピーノたちのステージである。


「さぁて、今夜もハジけに行くか!!」


 紫電を纏い、スカピーノたちはステージへ向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』の大トリ、執政官スカピーノが率いる『メンバーズ』のバンドが始まろうとしていた。

 客は全員が魔族。そして、超満員。

 ステージに立ち歌う……それこそ、スカピーノが生きる目的。

 正直、『魔王の骨』はどうでもよかった。


『イェェェェェ!! 今夜もノッてるかお前らァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

「「「「「イェェェェェイェェェェェ!! イェェェェェ!!」」」」」

「最高だぜ……!!」


 スカピーノは紫電の弦を鳴らし即興でリズムを奏でる。


『そんじゃあああ!! 今日の処刑いくぜェェェェェェェェ!!』

「「「「「ウオオオオオオオオオ!!」」」」」


 スカピーノは、ステージ前に処刑をする。

 ドワーフの処刑。ステージ前のルーティンみたいなものだ。

 そして、ステージ中央の昇降機が静かに上昇……処刑の対象であるドワーフたちが。


「……あ?」


 困惑だった。

 いつもと違う。なぜなら、昇降機に乗って現れたのは。


「お、おいカイト、マジで大丈夫なのかよ」

「……さ、作戦は聞いていたが、ふ、不安しかにゃいぞ。なな、何万の魔族が、いるんだだだだ」

「あは、目立ってる~!! なんて言えればいいんだけどぉ……」

「……」

「い、イザナミさん。まだですよ~」


 現れたのは、人間、混血人。

 ドワーフではない。スカピーノは首を傾げた。

 会場内も困惑が始まっている……すると、海斗が前に出て、なんとマイク要求をした。

 スカピーノは目を細めつつ、小さく顎でしゃくる。そしてそれが合図になったのか、海斗は叫ぶ。


『会場内にいる魔族の皆さま、こんばんわ……ククク、本日の処刑は趣向を凝らしてみました』

『ああん? おいおいおい、なんで人間がここにいるんだよ?』


 スカピーノは言う。

 海斗は頷いた。


『まあいいじゃないですか。いつもドワーフじゃ飽きるでしょう? なので、たまにはね。それに……噂のステージを一度、見て見たくてね』

『ほぉぉ、オレのステージを見たいって? なかなか度胸ある人間じゃん。だったら、見せてやろうじゃねぇか。いくぜ!!』


 スカピーノがエレキギターを鳴らすと、『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』が展開。周囲にいくつもの筒が伸び、魔石によるライトアップ、そして、筒から一気に火を噴いた。



 ◇◇◇◇◇◇



 次の瞬間、筒から爆炎が放たれた。

 スカピーノ以外のメンバーが持つ楽器が、爆発した。

 ステージの至る所で爆発が起き、火山抑制装置にも異常が出たのか地震も起きた。

 いきなりのことで叫び、怯え、わめく魔族たち。

 スカピーノが唖然として、周囲に向かって叫ぶ。



 ◇◇◇◇◇◇


『お、落ち着け!! おいおいおい、なんじゃこりゃあ!!』

『り、リーダー!! トルトニスに繋いでいた楽器がぶっ壊れた!!』

『あぁん!?』


 周囲から困惑、怯え、そしてこの異常事態はただごとではないと感じさせた。

 そして。


『く、ふふ、ははは……あっはっはっはっはっはっは!! あははははははははははははっはははっは!!』


 狂ったように、海斗が笑い出した。

 腹を押さえ、涙を流し、人生でこれだけ笑ったことはないとばかりに爆笑。

 その様子に、会場内は静まり返った。


『あぁぁ~楽しい。まさか、こんなに上手く行くなんてなあ?』

『て、てめえ……何を』

『簡単だ。火の水に大量の発破石の粉末を混ぜただけ。あとは、トルトニスと起動すれば一気に爆発……ステージの機能はオシャカになるって話だ』

『……な』

『いやあ。実に楽な仕事だったぜ? ってか、馬鹿だよなあ? 最下層の検閲も碌に機能していない。俺たちがこうして侵入できたのも、魔族がドワーフに無関心だから。だから、馬鹿みたいに簡単な仕事だった』

『な、なんでこんなこと』

『決まってんだろ。お前を殺すためだ』


 海斗はスカピーノを指差した。

 そして、周囲を見回して言う。


『あれあれ~? おいおいおい、観客の皆さん、これから楽しいステージが始まるんだぜ? 歓声はどうしたんだよ? もっと楽しく騒げよ!! これから!! 俺が、俺たちが!! 十二執政官序列十一位、『楽師』スカピーノをブチ殺すんだからよぉぉぉぉぉ!! ぎゃあっハッハッハッハッハッハ!!』


 会場内は凍り付いていた。

 海斗はハイになっていた。あまりにも策がハマり、こうして最高に目立てていることに、胸の内側から高揚感が、そして脳からドーパミンがドバドバドバ溢れていた。


『教えてやる。十二執政官序列十二位スカラマシュ、序列五位プルチネッラは、俺たちがすでに討伐した!! この俺、救世主カイトと、その仲間がなあ!! なあなあ楽しいなあ? 不敗の執政官がもう二人も死んだ!! あと十人……いや、九人か』

『……ッ!!』


 スカピーノに向け、海斗は邪悪に微笑む。

 もはや、このステージは海斗のものだった。

 そして、ダメ押しとばかりに海斗は言う。


『ああ、スカピーノ。最後に教えてやる……お前が馬鹿みたいに歌って遊んでる間に、俺はこの国で『魔王の骨』を見つけた』

『……へ?』

『さらにさらに? 見せてやる。こいつが右腕』


 海斗は、『魔王の右腕アームズ・オブ・サタナエル』を顕現させ見せつける。

 巨大な右腕の骨は、その威光を見せつけつように輝いて見えた。


『そしてこいつ……『魔王の左足フット・オブ・シャムシエル』』


 海斗は、アイテムボックスから『魔王の左足』を出し、掲げた。


『『魔王骨命(オーバー・リ・ボーン)』!!』


 骨が砕け、粒子となり海斗の左足へ。

 新たな能力を獲得……左足で地面を踏みしめ、叫ぶ。


『さあ、開演だ!! 十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノ、お前を倒す!!』


 そして、ハインツたちが近付いて来た。


「な、なあマルセドニー……オ、オレらって正義のガワなんだよな? なんつうか、物凄え悪役にしか見えねえんだが」

「は、激しく同意する。ガストン地底王国を解放するためなのだが、なんだか侵略者のような気がしてならない」

「か、カイト……マジ悪役だよね」

「……素晴らしい男だ。私は決めたぞ」

「え、えと、イザナミさん? あの、何を決めたんです?」


 どう見ても、海斗たちが悪にしか見えない状況での戦いが始まる。

 海斗は、右手をスカピーノに向けて叫んだ。


『さあ、ここからのシナリオは、俺たちが作る!!』

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