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十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノ①

 ガストン地底王国の最上層にある『噴火口』……ここに蓋をするように、一つの都市があった。

 魔族の自治区。そして、都市そのものがドワーフ族の技術の結晶であり、執政官スカピーノ専用の特別ステージである。

 その名も、『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』。

 それは、自治区の中心部にある巨大な『ドーム』だった。

 自治区に住む魔族たちの日課。それは、スカピーノのステージを聞くこと。

 

 その日の夕方。太陽が落ちる少し前……スカピーノの配下である『前座』のバンドが終了した。

 魔族は基本、仕事などしない。

 支配した地域の種族が食事を作り、掃除をし、家事の全てを行う。

 なので、魔族は朝から晩まで、好きなことをして過ごせるのだ。


 現在、『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』には、自治区に住む魔族三万人で溢れていた。客席は常に満員で、魔族のバンドたちでいつも盛り上がる会場だが、大トリを務める最後のバンドになると、その盛り上がりは違う。


 そして、日が沈み……ドーム状の『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』が一気に展開。会場内に設置された『ファイアブラスター』という筒から、業火が噴き出した。

 そして、会場のステージが少しずつせり上がり……四人のバンドが姿を現る。


『みんなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!! 今夜もキタぜェェェェェェェェェェェェ───ッ!!』


 会場内に、爆音のような叫びが広がる。

 ステージの中央に立つのは、パイプを合わせて作ったような『ギター』を手にした男。

 箒を逆立てたようなヘアスタイル。魔族は白髪なのだが、男は一部を紫に染めていた。

 素肌の上に紫のジャケット、ズボン、ブーツを履き、指ぬきグローブをはめた指はワキワキと動く。

 そして、男の身体が紫電に包まれ、どこからか大量の『蝙蝠』が飛び去った。


『さぁさぁさぁさぁ、ノッてるかぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~いっ!!』

「「「「「イェェェェェイェェェェェ!!」」」」」

『ありがサンキュウベイベェ!!』


 低いハスキーボイスで、よくわからない礼をすると、女性魔族の黄色い声が響き渡る。

 

『さあ、今夜も楽しもうぜェェェェ!!』


 十二執政官序列十一位、『楽師』スカピーノ。

 本人曰く『執政官イチの音楽家』であり、『ロックの化身』である。

 スカピーノは、鉄パイプを合わせたようなギターを手にする。よく見ると弦が張られていない……が、スカピーノの放つ電気が弦となる。

 ジョブ『雷帝』……雷系ジョブの最上位。

 そして、コウモリを無限に使役する『蝙蝠王カマソッソ』の力。

 これらを合わせ、スカピーノは『ステージ』を盛り上げる。


『さあ、イカレたメンバーズの紹介だぁ!!』


 まず、スカピーノの隣でベースを弾く魔族。

 こちらは上半身裸。スキンヘッドの男。


『ベース、リディック!!』

『……今夜も、楽しもうぜ』

「「「「「イェェェェェイェェェェェ!!」」」」」


 寡黙なベース、だが人気は抜群……そして、実力も。


『キーボード、ミーティム!!』

『今夜も奏でるよ~!!』

「「「「「イェェェェェイェェェェェ!!」」」」」


 可憐な少女だ。ツインテールを揺らし、大きな胸も揺らし、男性を虜にする。


『ドラムス、フェノーラ!!』

『…………』

「「「「「イェェェェェ!! イェェェェェ!!」」」」」


 無口な女性ドラムスは、高速でドラムを叩き観客に応える。

 これが、スカピーノのバンド『メンバーズ』だ。

 執政官の部下という立場であり、そのままバンドのメンバーでもある。


『さあ、まずはいつもの、景気よく行こうぜ!!』


 スカピーノが指を鳴らすと……ステージの中央に穴が開き、何かがせり上がってきた。

 それは、ドワーフ族だった。

 身体中に火傷をし、今にも事切れそうなドワーフが、四人。


『あ~……悲しいねえ。こいつら、下層で犯罪を犯し、そのまま逃亡しようとした憐れなドワーフたちだ。食うメシが少ない、酒が少ないって、そう思うんならしっかり働けっての!!』

「「「「「そうだそうだ、そうだそうだ!!」」」」」


 すると、ボロボロのドワーフが絞り出すように言った。


『たのむ……もう、第二工区の、ドワーフたちは、限界だ。このままでは……』


 その声は、会場全てに響いた。

 すると、スカピーノは言う。


『第二工区? あぁぁ……そこ、採掘バトル最下位のところだろ? ダメダメ、バトルに負けたんだから、頑張らないとねえ』


 採掘バトル。

 スカピーノは、採掘場をいくつかの区画に分け、ドワーフたちに鉱石を掘らせ、その採掘量を競わせるバトルも開催していた。

 敗者である第二工区のドワーフたちの代表が、こうしてステージに上げられている。


『それではぁぁぁぁぁ!! 罰ゲームの時間だぁぁぁぁぁぁ!!』

「「「「「イェェェェェ!! イェェェェェ!!」」」」」


 紫電が爆ぜ、周囲のコウモリたちがドワーフたちを取り囲む。


『や、やめてくれぇ!! なんでもする、ワシにも、こいつらにも家族が』

『はあ? 知らねぇし。勝者は生、敗者は……灰に。爆ぜなぁ!!』


 スカピーノがエレキギターをかき鳴らすと同時に、コウモリたちが一斉に超音波を発生させた。

 同時に、ステージ全体のスピーカーからも音が鳴る。


「『衝撃音波(ショックノイズ)』!!」

「ぐがあああああああああああああああ!!」


 音波が、ドワーフたちの身体を高速で振動させる。

 ドワーフたちの身体の血管が浮かび上がり、血が振動し、血管が破裂し、そして肉も爆発し飛び散った。凄惨な光景だが……観客たちは歓声を上げた。


『きれ~な花火だったぜぇ。じゃあ、一曲目行くぜぇ!!』

 

 こうして、『公開処刑』が終わり、ステージが始まった。

 これが、ガストン地底王国の日常。

 スカピーノの気まぐれでドワーフたちが争わされ、戦わされる……それすら、ステージの前座でしかない。

 スカピーノにとってドワーフは、ただの遊具。

 大事なのは、自分のステージと、観客たち。

 

 スカピーノにとって大事なもの。当然、海斗はよく知っていた。

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