合流、次の目的
海斗とクルルは、クルルの案内で崩落した道を進んだ。
崩落した道を何度か曲り、進んでいくと……崩落のない道へ出る。クルルが迷うことなく進むと、近くから何かがぶつかるような音が聞こえてきた。
クルルは耳を澄まして言う。
「誰かが戦ってます!!」
「……マルセドニーたちか?」
「わ、わかりません。行ってみましょう!!」
音のする方へ向かうと、オイルオーガの背中が見えた。
そして、鞘に収まった剣を振るうイザナミ、魔法で援護をするマルセドニーもいる。
マルセドニーは、海斗と目が合うなり叫ぶ。
「た、助けてくれ!!」
「伏せろ!!」
狭い通路。海斗は『魔王の右腕』を出現させ、五指を開く。
イザナミ、マルセドニーが伏せた瞬間、右腕を思い切り前に突き出した。
「『魔王の掌圧』!!」
手を開いた魔王の右腕。手のひらの直径は三メートルを超える。
その手のひらが、掌底のように突き出され、オイルオーガをまとめて近くの壁に叩きつけた。
オイルオーガがつぶれ、ひしゃげて血が噴き出す。
マルセドニー、イザナミが立ち上がり、海斗とクルルの元へ近付いてきた。
「……助かった。感謝する」
「…………」
イザナミの謝罪。
そもそも、イザナミのせいで分断され、地下が崩落したのだ。
やはり、イザナミは仲間にすべきではないと海斗は改めて思う……すると。
「……私のせいで、苦労したのだろう。この失態は必ず取り戻す。私を、信じてくれないか」
「…………とにかく、ここから脱出して宿舎に戻ろう。時間的には……」
「えっと、深夜です。宿舎っていうのは?」
海斗は地図を広げ、宿舎の位置をクルルに見せる。
「なるほど。ここからですと、二時間ほどの距離ですね……朝になっちゃいます」
「はぁぁぁぁ……ボクは鉱山、炭鉱なんて大嫌いだ」
一行は、宿舎に戻るべく歩き出すのだった。
◇◇◇◇◇◇
早朝。海斗たちはようやく、宿舎に戻って来た。
マルセドニーはフラフラしながら言う。
「ふ、普通に作業するより疲れた……うう、ボクはもう寝たい」
「だな。その前に、ハインツたちを起こして、今後の話をする」
「え……あ、明日じゃダメなのか?」
「明日っていうか、もう朝だ」
「うああ……」
マルセドニーは今にも死にそうだ。
クルル、イザナミは変わりない。海斗も疲労こそあったがそこまででもない。
宿舎に入り、部屋に戻ると、ハインツが爆睡、ナヴィアも寝ており、ダンバンことヨルハはジロリと海斗たちを見た……が、海斗を見た瞬間、ほんの少しだけ顔が緩んだことに海斗は気付く。
すると、ハインツ、ナヴィアが起きた。
「んが……ふぁぁぁ、んだようるせえな……んん? おお、カイト、戻って来たのか」
「ふぁぁぁ、んん~? ああ、おかえりぃ」
寝ぼけている二人。心配などしていないのか、大きな欠伸をしていた。
海斗たちは椅子に座る。するとハインツがクルルを見て言う。
「誰だ? でっけえな……」
「え、えと、クルルです」
何がデカいのか? ハインツの視線は胸に向いていた。
ダンバンは言う。
「誰だそいつは。というか、朝帰りか……何をしていた?」
あくまで、無関係を通すダンバン。
海斗は言う。
「お前には関係ない。すっこんでろ」
「……まあいい。オレぁ風呂に行くぜ」
ダンバンは部屋を出た……が、海斗はすぐに気付く。ヨルハは『ダンバン』を解除し、近くに潜んでこれからの会話を聞くつもりのようだ。
海斗は全員に言う。
「さて、全員聞け。ハインツにナヴィアも、寝ぼけた頭を起こしてちゃんと聞け」
「「うい~……」」
海斗は、アイテムボックスから『魔王の骨』の左足を取り出した。
「『魔王の骨』を回収した。これで目的の一つはクリア……あとは、執政官スカピーノの討伐だけだ」
アイテムボックスに骨を戻す。
マルセドニーは、目をこすりながら言う。
「執政官……最上層にいるんだろう。この下層から、どうやって行くんだい……そもそも、最上層は魔族の自治区だろう?」
「ああ、よく知ってるな。そこでクルルの出番だ」
「は、はい!!」
クルルは背筋を伸ばす。大きな胸が揺れ、ハインツが「ほほ~」と嫌らしい顔で見ていた。どうやら目は覚めたようだ。
海斗は人差し指をぴんと指差して言う。
「まず、クルル。お前のここでの仕事は、『火の水』を樽に詰めること、そしてそれを上層にある『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』に補充することだよな?」
「は、はい……詳しいですね」
「待った。あ~頭動かねえ。カイト、そのトルトニス、なんちゃら……って、何だっけ?」
ハインツが欠伸をしながら言う。
海斗は、めんどくさそうだが確認の意味も込めて言う。
「『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』は、執政官スカピーノの歌う特設ステージだ。そこに、火が噴き出す仕掛けがあって、その燃料として原油……『火の水』が使われてるんだよ」
「く、くわしいですね」
驚くクルル。海斗は当然だが知っている。
そもそも、そのステージで戦うのはリクトなのだ。どのような仕掛けで動いているのかまではわからないが、リクトは燃料に引火させてステージを破壊し、勇者の剣でスカピーノを倒した。
だが、海斗の狙いは違う。
「クルル。お前に頼むのは、俺たちを上層まで連れて行くこと、そして『火の水』に細工をすることだ」
「さ、細工……?」
「ああ。『火の水』に、砕いた『発破石』を混ぜろ」
「え」
硬直するクルル。
海斗は言う。
「前に言ったよな。俺の作戦は、ステージを吹き飛ばすこと……同時に、魔族の自治区である最上層にもダメージを与えられる」
「あ、あれ……冗談じゃなかったんですか?」
「ああ。少なくとも、ステージをどうにかしないと、真正面からぶつかることになる」
「ま、待てカイト。発破石って……それを『火の水』に混ぜるのか?」
「今言っただろ。大爆発……まではいかない。ステージの機能を損なえる程度の爆発だ」
マルセドニーは青くなる。ハインツ、ナヴィアは首を傾げた。
「なあ、発破石ってなんだ?」
「爆発する鉱石だ。この炭鉱では出ないけどな」
「えっと、ハッパ鉱山で発掘されますよ。ここから二十キロくらい先にある鉱山です。でも、採掘はその……命懸けです。なにせ、衝撃を与えたり、燃やすだけで爆発しますから」
クルルは、ポケットから小石を出す。
「このくらいの大きさで、鉄の剣くらいなら折れます。ポン!! って爆発するんです」
「「ポン……」」
「ボクもわかる。発破石は砕いても効力を発揮する……『火の水』の混ぜるなんて、考えただけでも恐ろしいぞ」
「だからこそ、やる価値がある。ステージでの火のギミックが発動すると同時に、ステージの機能が全て使えなくなる。その間に、スカピーノを全力で倒す」
「待った。なあ、さっきからステージとか言ってるけどよ、それってそんなヤベーのか?」
ハインツが微妙に納得していない顔で言う。どうやら、序列五位のプルチネッラより格下である序列十一位のスカピーノ相手に、そこまで慎重になるべきかと言っているようだ。
海斗はハインツを睨む。
「言っておくけど、スカピーノは序列十一位だが、ステージ場で戦えば序列五位のプルチネッラと同格だぞ。それくらい、ドワーフ技術の結晶であり、スカピーノの力を最大限まで引き出す『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』は恐ろしいんだ」
トルトニス・グローム・ヴァナヘイム。
スカピーノ専用ステージであり、魔族の自治区中心にある最大の娯楽設備。
毎日そこでコンサートを行っているが、その真骨頂は『スカピーノの戦力を増強』することだ。
「少なくとも、俺たちはそのステージ場じゃないと、スカピーノと戦えない。闇討ちも、おびき出して罠にハメることもできない」
「マジかよ……」
「それに、問題はもう一つ。スカピーノの『演奏』を補佐する『メンバーズ』だ」
海斗は、アイテムボックスから羊皮紙を出し、サラサラと絵を描いていく。
全員、その絵を覗き込んだ。
「なんだこりゃ」
「へ~、意外と絵ぇキレーじゃん」
「……意外な才能だな」
「うるせ。とにかく、スカピーノの演奏を補佐する『メンバーズ』たちも何とかしなくちゃいけない」
絵は、バンドの構成だった。
ボーカル&ギター、執政官序列十一位スカピーノ。
ベース、リディック。
ドラム、フェノーラ
キーボード、ミーティム。
「こいつが、スカピーノの演奏を支える『メンバーズ』だ。全員が魔族で、戦闘もできる」
原作では、リクトのハーレムメンバーがタイマンで倒していた。
だが、今いる面子では……戦えなくも、ない。
「まず、発破石を混ぜた『火の水』でステージを破壊。『メンバーズ』たちの楽器もステージと連動しているから、ステージを破壊すれば楽器は使えないはず……これだけで、戦闘力は半減する。そこを、イザナミ、クルル」
「……出番か」
「わ、わたし、ですか!?」
「ああ。お前がベースのリディックを、クルルはドラムのフェノーラを、そしてハインツとマルセドニー、ナヴィアの三人でキーボードのミーティムを倒せ」
「おいおいおい、このハインツ様なら一人で」
「ダメ。とにかく三人でだ」
「……へいへい」
やや納得していないが、ハインツは了承する。
マルセドニーが挙手した。
「待て。ということは……カイト」
「ああ。俺がスカピーノを直接倒す。ステージの機能が使えないなら、俺一人でも十分倒せる。それに」
「……それに?」
「切り札もあるからな」
魔王の骨、左足。
そして、ヨルハ。
二枚ある切札。これなら、スカピーノを倒せる。
海斗はクルルに言う。
「クルル、これから俺たちは準備をする」
「あ、あの~……わたしはいいんですけど、皆さん、どうやって上層へ? その……上層に行くのはけっこう危険かも。魔族の検閲もありますし」
「考えはある。よし、全員戦闘準備。スカピーノを討伐するぞ」
こうして、作戦が決まった。
ちなみに、クルルは気付いていない。いつの間にかスカピーノ討伐戦に参加させられていることに。