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最下層④/崩落、分断

「…………ぅ」

「か、カイトさん!! し、しっかりしてくださぁ~い!!」

「う、ぐぐ」


 薄く目を開けると、クルルがいた。

 そして、海斗の胸倉を掴んでガタガタ揺する。痛み、苦しさで目を覚ますと、クルルがボロボロ泣きながら海斗を見つめていた。

 海斗は、クルルの手を外して咳き込む……マルセドニーの魔法による保護が切れていた。


「あわわ、これ付けてくださいっ」


 クルルがガスマスクを海斗の口に無理やりつける。

 口元に浄化作用のある助剤を混ぜたドワーフ製のマスクだ。かなり頑丈に作られている。


「わたし、毒は効かない体質なのでどうぞ」

「……感謝する。でもお前、毒が効かないのに、なんでマスクを?」

「えへへ……その、オシャレというか」

「……まあいいか」


 海斗は自分の状態を確認する。


(怪我はない。血も出ていないな……マルセドニーの保護が切れてるのは仕方ないな)


 周囲を見渡すと、辺り一面が瓦礫の山だった。

 何が起きたのかを冷静に考え、頭を抱える。


「イザナミの一撃で、最下層の地層が崩壊したのか……落下したのは覚えてるが、ここどこだ?」

「えっと……たぶんですけど、『毒の泉』があるところの近く、かも……?」

「……二人は?」

「マルセドニーさん、イザナミさんはいませんでした。たぶん、別のところへ……」

「それか、瓦礫に押し潰されたか」

「あうう、怖いこと言わないでくださいよお」


 海斗は、クルルを見た。


「お前、怪我は?」

「あ、大丈夫です。毒も効きませんけど、頑丈さも自慢です」


 クルルは、顔や服が汚れ、お団子にしていた髪もほどけてロングヘアが揺れているが、怪我らしい怪我はしていない。ハーフドワーフの頑強さが海斗は少しだけ羨ましくなった。

 視線を外し、周囲を見ながら天井を見る。

 周囲は瓦礫まみれ。海斗たちがいる場所は広い空間になっていた。


「……あの~、これからどうします?」

「先に進む。なあ、他のドワーフは、今の揺れとか倒壊とか気付いたと思うか?」

「いえ。最下層はけっこう脆い箇所が多くて、規模こそ小さいですけど倒壊は毎日起きてるんです。こんな大きい倒壊は、わたしからすれば数年ぶりくらいですけど」

「じゃあ、怪しまれることはないか……よし、先に進むぞ」

「は、はい……」


 奥から、風が吹いてくるのがわかる。

 海斗は、アイテムボックスから予備のランプを出し、骨猿に持たせる。


「うわわ、なんですかそれ!?」

「俺のジョブ能力だ。敵じゃないし、気味悪いけど気にするな」

「は、はい……」

「それより、地底湖……『毒の泉』に行くぞ」


 クルルが歩き出すと、その前を骨猿が付いて行く。

 海斗はクルルの後ろを歩きながら、一度だけ振り返った。


「……マルセドニー、イザナミ。無事でいろよ」


 そう言いつつも、心の中で想う。


(イザナミのヤツ、面倒ごと起こしやがって……地底王国を出たら、さっさと切り捨てるか。あんな危険なヤツ、いつまでも傍に置きたくない)


 ハーレム、女ばかり仲間になる展開を嫌悪する海斗は、たとえイザナミがどんな提案をしてきても、地底王国を出たら切り捨てるつもりだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方その頃、マルセドニーとイザナミは二人で歩いていた。

 暗い通路。マルセドニーの『光』魔法で生み出した光球で照らし、マルセドニーはイザナミをチラチラ見ながら歩いている。


「……何度も、謝罪はした」


 イザナミが言う。

 間違いなく、崩落の原因はイザナミであり、気絶から目覚めたマルセドニーは激しくイザナミを糾弾……だが、そんな場合ではないと少し冷静になり、歩きだしている。

 マルセドニーはため息を吐いて言う。


「謝罪はもらったが、それを受け入れるかどうかはボク次第だ。そして言っておく……ボクは、キミのような薄気味悪い、感情のない謝罪しかできない女とは関わりたくないね。カイトも同じだろうさ、きっとガストン地底王国を出たら、キミとはもう関わりに合わないと思うよ」


 奇しくも、マルセドニーの考えは海斗と同じだった。

 イザナミは、やや顔を伏せて言う。


「そうか……」

「とにかく。今はカイトたちを探さないと。くそ……今日中に『魔王の骨』を回収して戻ることなんて、絶対に無理な気がしてきた」

「…………」

「……参った。地図もない、勘だけを頼りに進むなんて自殺行為だ。崩落場所からすぐに横道があったから、最下層のどこかだとは思うが……ええい、天才、ボクは天才……思い出せ。カイトが持っていた地図、横目では見た。見たなら記憶は残っている。過去の映像を脳から呼び起せ……!!」



 マルセドニーは、頭を人差し指でトントン叩きながら目をギュッと閉じていた。

 すると、イザナミがマルセドニーの首根っこを掴む。


「ックェ!?」


 キュッと喉が締まり、変な声が出たマルセドニー。

 ゲホゲホと咳をしてイザナミを睨む。


「な、何をする!!」

「……謝罪は受け入れなくていい。だが……詫びはする」


 イザナミは刀を出し、前に出る。

 すると、最下層通路の奥から、ズンズンとオイルオーガが何体も現れた。

 ギョッとするマルセドニー。

 イザナミは、スッと目を閉じ、静かに開く。


「通路を一切傷付けることなく、倒せばいい……そういうことか」

「あわわわ……お、おい、に、逃げ」

「倒す」


 イザナミは柄に手を添え、オーガに向かって走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、海斗とクルルは。


「到着です!!」

「…………あっさり到着したな」


 最下層、『毒の泉』こと地底湖に来ていた。

 海斗は、ガスマスク越しでも臭うガスのニオイ、原油の粘っこい鼻につく香りに顔をしかめ、周囲を見渡す。

 天井はかなり高く、地底湖の広さも野球ができるくらい広い。屋内で野球やサッカーが軽々とできる空間だ。そして、目の前に広がる真っ黒な水……原油の湖。

 棒で触れると、ネバネバしていた。まるで底なし沼で、落ちたら間違いなく死ぬ。

 海斗は、自分の右腕を押さえた。


「……なんだ?」

「どうしたんですか? ここ、目的地ですよ?」

「……」


 クルルを無視。

 海斗は、右腕……正確には、右腕に宿っている『魔王の骨』が、疼くのを感じた。

 まるで、何かに反応しているような。


「……はは。ありきたりだけど、そういうことか」

「???」


 間違いなく、この場に眠る『魔王の骨』に、海斗の右腕が反応していた。


「あの、カイトさん? その、どうしたんですか?」

「いや。テンプレだけど、ありがたい『センサー』に感謝だな。さて……ここにあるのは確か」


 魔王の骨。

 右腕、左腕、背骨、肋骨、右足、左足、頭蓋骨の七種。

 海斗は、ガストン地底王国にある骨の部位を思い出す。


「位置はなんとなくわかる……あそこか」


 海斗が指差したのは、現在位置から二百メートルほど離れた場所。毒の泉の中心地。

 アイテムボックスから『魚の骨』を出し、力を込める。


「『骨命(リ・ボーン)魔改造(カスタマイズ)』、【狂骨魚レモーラ】」


 骨を泉に投げ入れると、直系一メートルほどの『鮫』のような形状へと変わり、毒の水をスイスイ泳ぎ始めた。


「わああ、すごーい……けど、やっぱり気味悪いですね」

「うるせーな」


 どう見ても、悪役のジョブなので仕方ない。

 海斗がレモラを操作し、泉の中央へ向かわせる。そして、中心に到着し一気に潜水……そのまま地底に埋まっている『魔王の骨』を回収しようとした時だった。


「───ッ!?」


 突如として、レモラの反応が消失した。

 同時に、泉から何かが急浮上。飛び上がった。


「なっ……なんだ、あれ」

「……わお」


 それは、『骨』だった。

 まるで番人とでも言うように毒の泉から飛び出したのは、『骨の鮫」だった。

 レモラなど比ではない。全長二十メートルはある、サメの骨格標本が、レモラを嚙み砕いたのだ。

 唖然とする海斗、クルル。

 するとハッとしたクルルが言う。


「そ、そういえば……毒の泉の一番奥にある泉には近づくなって言われてました。わたしたち、普段はもう少し手前にある小さなところで水汲みしてるんですけど……源泉があるここには、ほとんど近づかないです。そっか……その理由、ようやくわかりました」

「……あんなの、知らねえぞ。『原作』にも存在しない、骨の魔獣……!? そうか、アンデットか!!」


 毒の泉を優雅に泳ぐ、骨の魔獣。『アンデットシャーク』が、魔王の骨を手に入れる障害として立ちはだかった。

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