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テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~  作者: さとう
第二章 ガストン地底王国編

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vs 断罪者イザナミ

 イザナミは刀を抜かず、鞘に納めたままカイトに向けた。


「殺しは、しない」

「あっそ」


 海斗はナイフを逆手に構え、背中に流れる冷たい汗を感じていた。

 イザナミは強い。ハーレムメンバーとして加入した順序は十六番目。ヨルハの一つ前。

 原作終盤に加入するハーレムメンバーの強さは、全員が執政官か、執政官の部下レベル。今の海斗では勝てるはずがない。

 だが……ここでやらなければ、イザナミは海斗を探るだろう。

 言葉だけでは、絶対にあきらめない。イザナミは海斗がドワーフの国で、何をするつもりなのか知りたいと思っている。


「カイト。お前が何かをたくらみ、私を警戒している理由はわからない。が……お前の私を見る目は、警戒だけじゃない、嫌悪……そして、わずかな興味を感じられた」

「…………」

「お前は、何を知っている? そして……何をする? 私は……それが知りたい」

「知ってどうするんだ」

「……わからない。でも……私の目的に合うなら」


 仲間に……と、イザナミは海斗に言おうとした。

 が、その前に海斗が飛び出し、骨の犬、蛇に命じる。


「イザナミを拘束!!」


 骨の蛇が地を這う。

 そして、イザナミの脚に絡みつこうとした。

 が、イザナミは骨蛇を蹴り、刀で飛び掛かってきた骨犬を叩き落す。

 常人では考えられない威力の蹴り、叩き落としに骨が砕け散った。

 海斗はすでに接近し、手に持っていた砂をイザナミの顔へ。


「むっ……」

「卑怯なんて言うなよ?」


 そのままイザナミの横を通りすぎ、首をロック……絞め落とそうとした。

 

(長刀。超接近戦、組技で倒すしかない。ナイフを見せて刃物使いと認識させての絞め技だ。このまま落として……)


 イザナミの首を全力で絞めた……が、イザナミは落ちるどころか、海斗の腕を掴んで無理やりこじ開けた。その腕力の強さに、海斗は驚愕。そして、思い出す。


「しまっ……」

「なかなか強いが、人間の腕力で私に勝つことはできない」


 海斗の腕を掴まれ、そのまま投げられた。

 地面を転がり、海斗はすぐに態勢を立て直し、距離を取りつつ骨を投げる。


「『骨命(リ・ボーン)』!!」


 無数の『骨の小鳥』がイザナミに殺到する。

 だが、イザナミは剣を何度か振るだけで全て叩き落す……が。


「!!」


 足に、何かが絡みついていた。

 それは、銀色に輝く『骨の蛇』だ。

 地面に穴が開いており、骨のモグラが掘った穴を通り、イザナミの足下に蛇が絡みいたようだ。

 イザナミは、骨蛇を叩き壊そうとしたが、鞘の一撃で砕けない。


「『骨鋼(スティール・ボーン)』……そう簡単に、砕けはしない!!」


 海斗は、今出せる数の『骨蛇』を出し、腕、身体、足、首にと『骨鋼』で強化した骨蛇をイザナミの全身に絡みつかせる。

 蛇同士がさらに絡み合い、鋼の鎖のようになり、イザナミを拘束した。


「捕獲完了……悪いな」

「……一つ、聞かせてくれ」


 イザナミは、この状況でも落ち着いた声だった。


「お前は、悪なのか? この力で……地底王国に、何をもたらす?」

「…………」


 海斗は、考えた。

 イザナミは間違いなく強い。戦力としてこれ以上ない存在だ。

 だが……問題は一つだけある。


「俺は、この国で悪事を働くわけじゃない。俺……いや、俺たちは、お前には言えない目的があって動いてるんだ。お前には関係ない」

「……そうか」


 イザナミは、リクトのハーレムメンバーなのだ。

 その、怖気のするような人間関係が、海斗にはどうしても受け入れられない。ヨルハのような利用できる者と違い、イザナミは非常に使いにくい存在だった。

 関わらないのがベスト。その結論が変わることは決してない。

 すると、イザナミから一瞬だけ魔力が吹き上がり、鋼の蛇が吹き飛んだ。

 海斗は驚く。そもそも、イザナミは全く本気ではなかったのだ。


「ますます、あなたに興味が湧いた。カイト……私を、お前の目的の駒に加えてくれ」

「……チッ」


 海斗は舌打ちをする。

 もう、こうなったらイザナミは、海斗にずっと付きまとうだろう。

 それこそ、計画に支障が出るかもしれない、と。

 海斗は、肩の力を抜き、小さく呟いた。


「…………わかった」


 加えるしかなかった。

 イザナミを、『魔王の骨回収』と『スカピーノ討伐』の仲間として。

 

「感謝する。では……いろいろ、話を聞かせてもらおうか」


 刀を異空間に収納し、イザナミは歩き出した。

 海斗は、無言でその後ろに続き、口を小さく動かす。


(先に戻れ)


 三本の剣を組み合わせた巨大手裏剣を手にしていたヨルハは、天井にへばりついたまま無言で頷き、その場を後にした。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 一時間後。

 部屋にいたハインツ、マルセドニー、ナヴィアに、イザナミが仲間になったことを説明。

 イザナミにも、海斗たちのことを説明する。


「……つまり、お前たちはデラルテ王国の執政官、そして虫人の国の執政官を倒した……そして、地底王国に来たのは、『魔王の骨』を回収し、執政官スカピーノを討伐するため……か」

「ああ、そうだ。こっちはもうやるべきことは決まっている。だから、異物であるお前を関わらせたくなかったんだよ」


 海斗が言うと、マルセドニーが挙手。


「カイト。この女が仲間になる、ということは……地下へ行くのはどうする?」

「そこは変わらない。俺、お前だけでいい。イザナミ……俺とマルセドニーは、最下層に『魔王の骨』を回収に行く」

「私も同行する」

「……なんとなく言うと思った」

「待て。イザナミと言ったか……最下層は毒の空気に満たされている。ボクの魔法で防御しながら進む予定だが、天才のボクでも、一度に守れるのは二人だけだ。お前は守れないぞ」

「心配いらない。私に毒は通じない」

「はあ?」


 何言ってんだこいつ……と言いたそうなマルセドニー。

 ハインツ、ナヴィアも首を傾げる。だが海斗が言う。


「そういやお前、人間と鬼人、竜人のミックスだったな」

「何故、知っている?」

「俺は予知能力がある。悪いけど、お前の過去も能力も全部知ってるんだ」

「……なるほどな。それが、私を警戒していた理由か」

「……まあ、な」


 最大の理由は、海斗が最も嫌悪するリクトのハーレムメンバーだから、とは言わない。

 すると、ハインツが言う。


「なあ、混血人……ってのはわかったけどよ、結局はどういう存在なんだ? 疎まれてるってのと、嫌悪すべき対象ってのは、ガキの頃から言われてたけどよ」

「ボクは……一般的に、同種、同族同士の婚礼が推奨されているが、混血人は異なる種族同士で婚姻し、子を設けると聞いた。それは恥ずべき行為であり、摂理に違反していると」

「あたしも、混血人には近づくなって言われたな~」


 三人は間違っていない。

 この世界では、同種同族婚姻が当たり前、常識なのだ。

 それに反した存在が混血人。このライトノベルの世界では『あり得ない』と言われ嫌われている。

 イザナミは言う。


「私は、人間の父、竜人の母が交配した結果誕生し、母の胎内で成長する前に鬼人の母の腹に移されて成長し、生まれた混血人だ」

「「「…………」」」


 三人は、愕然としていた。

 そんな出産、聞いたこともないといった表情だ。

 海斗は知っていたので驚きはしない……が、そんな出産は異世界でしかありえないなと思っていた。

 海斗は言う。


「混血人は、忌み嫌われる……だから、理不尽な扱いや迫害を何度も受けた。十二領地の中でも混血人の領地は一番小さいんだっけか」

「ああ、そうだ」

「で……理不尽な迫害を受けて、混血人のお偉いさんは復讐を決意した。人間に宿るジョブを持ち、混血人の弱点である短命を克服するために竜人を番とし、強靭な肉体を持たせるため、鬼人の腹で育て産ませる……そうして生まれたのが、イザナミだ」


 ハインツは驚き、マルセドニーは嫌悪、ナヴィアは恐怖していた。

 これが当たり前の感想。イザナミも察していたのか、何も言わない。


「こうして生まれたイザナミは、混血人の領地を出て、魔族を狩る生活を始めた……そうだよな」

「ああ。『悪童』の領地……混血人の領地にいた魔族を殺し領地を出て、小人族の領地にいた魔族を殺し、虫人の国を支配していた魔族と戦い始めたとき、『鷲鼻』が現れた……恐ろしい強さだった。負傷さえなければ、核を破壊できたかもしれない」

「ま、マジかよ……おま、あのバケモノと戦ったのかよ」

「ああ。驚いたのは私もだ……まさか、お前たちがあの『鷲鼻』を討伐していたとはな」

「けけけ、まあな!!」


 鼻高々のハインツだった。

 海斗は言う。


「で、俺らがプルチネッラを討伐したから、虫人の国は解放されて、お前も国を出ることができたんだな」

「ああ……『魔王の骨』がどうこう言っているのを聞いたから、デラルテ王国に向かい、その骨を探してみようと思った。魔族が大事にしている物なら、魔族との戦いで利用できるかもしれないと思ってな。だが、『鷲鼻』が討伐されたと聞いた。町で聞き込みをしても『魔王の骨』なんて誰も知らない……だから、たまたま近くで見た地底王国の馬車に乗り、ここに来たというわけだ」

「……お前、町で聞き込みなんてしてたのか」


 海斗は呆れる。イザナミは首を傾げていた。

 マルセドニーは挙手。


「ともかく。彼女はこちらの仲間になり、『魔王の骨』と執政官討伐に協力する、ということだな?」

「ああ。一人で動くよりも、お前たちの力になる方が、魔族を滅ぼせるだろう……私の存在意義を証明するために、力を貸す」

「……あのさ、イザナミ。あんた……魔族を滅ぼすためにだけに戦ってるの?」


 ナヴィアが言うと、イザナミは頷く。


「そうだ。それが、私の生まれた意味だからな」

「……ふーん。なんかつまんない」

「どういうことだ?」

「魔族はたしかにいない方がいいけどさ。それを滅ぼすためだけに生きるのも、なんか違う気がするってだけだし。もーいい、とにかく仲間になったってことで!!」


 ナヴィアはベッドにもぐりこんだ。

 ハインツも欠伸をし、「オレも寝るわ」とベッドへ。マルセドニーも「おやすみ」と寝てしまい、残されたのは海斗、イザナミだけ。


「つまらない……どういう意味だろうか?」

「さあな。とにかくお前は、俺たちに協力してくれるだけでいい」

「……わかった。では、明日からも頼む」


 イザナミもベッドへ入った。

 海斗もベッドに入り、欠伸をして思う。


(イザナミが生きる理由は、魔族を滅ぼすため。そのために生み出された存在だから、戦うことだけが生き甲斐……でも、リクトがそれは違うって指摘して、イザナミは感情らしい心を手に入れるんだよな。でも……俺はそんなことしない。あいつが生きる理由なんてどうでもいい。その力を振るうことだけしてくれたら、あとは好きにしていい)


 余計なことを吹き込んで懐かれるのも迷惑。

 リクトのハーレムメンバーに対して、海斗はどこか冷たいのだった。

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テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~
レーベル:GA文庫
原著:さとう
イラスト:山椒魚
発売日:2025年 5月 15日
定価 863円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
う~ん、カイトカッコつけてるけどやっぱり発想が幼稚。 まだ子供だからしょうがないか。 イザナミのような能力が加わるなら、しこたま手懐けるけどね。 しかも相手から加入を希望してるなら余計に。
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