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ドワーフの国・ガストン地底王国②/相部屋

 海斗は一番に宿舎の中へ。

 簡素な作りの宿舎だった。広い玄関、トイレ、炊事場、一番奥に食堂があり、あとは六人部屋があるだけ……原作では描写されないところなので、海斗は適当な部屋に入る。

 

「うわ……こういう部屋か」


 部屋は、二段ベッドが三つ、古いテーブルと椅子が人数分あるだけの簡素な部屋だ。

 ベッドに座ると、ハインツ、マルセドニー、ナヴィアが入って来る。

 部屋を見て、ナヴィアが顔を青くした。


「ま、まさか……だ、男女一緒の部屋!? 嘘、それはあり得ないでしょ!!」


 六人部屋。しかも、馬車に乗って来た炭鉱夫たちの人数ピッタリの振り分けだった。

 すると、イザナミ、『傾奇者』で大男に化けたヨルハが入って来た。


「悪ぃな。部屋がここしか空いてねえ。仲間に入れてくれや」

「……同じく、私もだ」


 海斗としては文句はない……むしろ、ヨルハが自然とイザナミの傍にいれるのでありがたい。

 すると、ナヴィアがイザナミに飛びついた。


「男ども!! いい、不埒なこと考えたらマジで殺すからね。ちょっと、なんかシーツとかないの? 目隠し作るから!!」

「へえ、お前、てっきり『出てけ!!』とか泣き叫ぶかと思ったけど、目隠しでいいのか?」

「同感だね。ボクとしては、女性としてのキミに一切の興味はないとは言っておく」

「うっさいわ!! とにかく、あたしとこの子は女なんだから、男は気ぃ利かせるくらいのことしてよね!! そーでしょカイト!!」

「ん、ああ……まあ、シーツのあまりくらいあるだろ」


 適当に言う。内心で『女は三人だけどな』と思いつつ、スキンヘッド男を見る。

 ナヴィアは、ハインツとマルセドニーの背中を叩き、シーツを探しに行かせていた。イザナミはどうでもいいのか、二段ベッドの上によじ登り、荷物を置いている。


「あんた、名前は?」

「……ダンバン」


 ヨルハの偽名はダンバン、と海斗は覚えた。

 ハインツたちが戻り、ベッドを部屋の隅に移動させ、シーツで目隠しを作っている。

 ナヴィアは「なんでこんなこと……」と文句を言っていたが、ハインツがニヤリと笑って言う。


「おいナヴィア。なんで男女一緒かわかるか?」

「はあ?」

「ケケケ。馬車にいた男女見たろ? 恋人に見えたけどあれ、半分くらいの女は娼婦だぜ」

「え」

(え、マジか)


 ナヴィアは絶句。海斗も思わずハインツを見た。


「まあ、こんな穴倉じゃあ『溜まる』しなあ。いろいろ『発散』する相手が必要なんだろ。同室で組んんだ連中の部屋ちょっと見たけど、やっぱ全員仕事女だわ。ケケケ、もしかしたら、女を『交代』して発散するかもしれねえなあ」

「な、な、な」

(……知らなかった)


 原作では、そんな描写はない。ラッキースケベなイベントは何度もあるが、そこまで露骨な表現はなかったように海斗は思った。

 ナヴィアは、ハッとしてイザナミのいる二段ベッドへ駆け上り、イザナミをギュッと抱きしめる。


「あ、あ、アンタ!! あたしとこの子に手ぇ出すつもり!?」

「悪いけど、お前は金もらっても無理。本性知っちまってるからな。どーせなら、金払って隣の部屋の商売女に相手してもらうぜ。ケケケ」

「最低!! あんた最悪だし!! ぐぬぬぬ、あたしに魅力ないって言われてるようで、そっちの意味でもムカつくし!!」


 ギャーギャー騒がしいナヴィア。イザナミはよくわかっていないのか首を傾げ、マルセドニーは荷物の中にあった本を手に読書を始める。ダンバンことヨルハはベッドに横になり目を閉じていた。

 海斗は、ドアに向かって歩く。


「……どこへ?」

「トイレ」


 イザナミが質問してきたので適当に返し、海斗は部屋を出た。

 そして、トイレに入り、口の中へ手を入れる。


「ぅ、っおえ」


 歯に結んだ糸を引っ張り、喉の奥に隠していたアイテムボックスの指輪を取り出した。

 そして、恨めしそうにアイテムボックスを見る。


「くそ。身体検査とかあるかもしれないから喉の奥に隠したけど……ザルだな。碌に荷物の検査もしないで、適当に宿舎に放り込むなんてな」


 まさか、ドワーフの国で、人間が魔族を相手に暴れるなんて想定していないのだろう。仮に犯罪者が出ても、この地底ではドワーフなしに脱出も移動もできない。

 海斗は、アイテムボックスからネズミの骨、トカゲの骨を三組ずつ取り出した。


「さて、お仕事だ……『骨命(リ・ボーン)』」


 力を込めると、骨のネズミ、骨のトカゲが海斗の手から肩に移動した。

 そして、トイレの窓を開け、二匹を外へ放り命令する。


「ドワーフが来たら、そいつを尾行しろ。で、炭鉱担当のドワーフが住む拠点が絶対にあるはずだ。そこにある『炭鉱の地図』を手に入れろ」


 『魔王の骨』を取り込んだことで、海斗は小動物なら十体まで骨動物を使役できるようになっていた。

 命令を受けた骨ネズミが三匹、骨トカゲが三匹、素早く走り去る。


(……魔王の骨の効果か。骨動物の知能も上がってる気がする。まあ、好都合だ)


 海斗はトイレを出て部屋に戻る。アイテムボックスは鎖を通し、首にかけて隠した。

 部屋では、イザナミにアレコレ聞くナヴィア、ベッドですでに寝ているハインツ、ヨルハ、読書しているマルセドニーがいた。

 すると、ナヴィアが言う。


「あ、カイト。ねえねえ、ご飯とかどうすんの~?」

「奥に食堂があった。自由にしていいんじゃないのか?」

「そっか。じゃあ、料理していいのかな」

「さあな。でも、女は世話係だし、いいんじゃねぇの……そもそもお前、料理大丈夫だっけ」


 マリアとの料理はクソマズだった。

 だが、『教えた通りにならできる』ことはわかる。マリアがゲテモノ好きで、ナヴィアも馬鹿舌なので気にしていないだけ。

 ちゃんとやれば、ナヴィアは料理ができるはず。

 すると、イザナミが手を上げた。


「私は……料理ができる」

「え」

「え、まじ? ねえねえ、じゃあ一緒に作らない? カイトも食べるでしょ?」

「え、ああ……」


 海斗は、原作知識を総動員し、イザナミが料理をしていたどうかを思いだす……が、そこまで覚えていないのでわからない。

 すると、イザナミはすでにベッドを降り、ナヴィアと部屋を出て行った。


「だ、大丈夫かな……」

「悪いけど、ボクは食べないぞ」


 マルセドニーは、読書しながらドライフルーツ、パンをかじっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 意外にも、まともな食事だった。

 野菜スープに、焼いた肉をパンに挟んだだけ。だが、普通の味だった。


「食材、好きに使っていいってさ。他の部屋の女たちも料理してたよ。みーんなこのあと『男の世話』するんだって……」

「男の世話……ナヴィア、私たちもすべきか?」

「はああああああああ!? ぜっっっったいイヤだし!!」


 ナヴィアは叫ぶ。

 ハインツはグースカ寝て、マルセドニーは読書、ヨルハは海斗の隣でパンをかじっている。

 ナヴィアは言う。


「とにかく。食事はあたしとイザナミで用意してあげる。男ども、しっかり働くように~」

「わかってるよ。ったく」

「あ、それとイザナミ。お風呂はないけど、宿舎の裏に『温泉』ってのがあるみたい。よくわかんないけど、お湯が沸いてるから好きに使えだって。あ~よかった」

「……おんせん? なんだ、それは」

「知らない。ま、お湯だって……あ!! 男ども、絶対来ないでよね。覗いたら殺す」


 ナヴィアがキーキー言う。

 海斗は、温泉があることは知らなかった。原作知識があっても、細かいこと全てを知っているわけではない。

 食後、ナヴィアとイザナミは温泉へ。

 ハインツは爆睡、マルセドニーは姿勢も変えず読書をしている。

 海斗は、部屋を出た。そして、ヨルハも後を追うようい部屋を出て、二人は宿舎の外へ。

 

「……コウモリ、近くにいるか?」

「……いえ」


 男の声で返事が戻って来た。

 蝙蝠……スカピーノが操る魔獣。洞窟内は薄暗いので、海斗ではよく見えない。

 だが、ヨルハには見えている。


「……近くに動物はいません。蝙蝠……天井にぶら下がっているかと思いましたが、いませんね」

「わかった。ダンバン、引き続きイザナミを見張れ。あとで追加の指示を出す」

「わかりました」


 それだけ言い、海斗は部屋に戻る。

 そして、ベッドに横になり、目を閉じた。


「……『視覚共有』」


 やるべきことはいくらでもある。

 海斗は、放ったネズミとチャンネルを繋ぎ、周囲を探るのだった。

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