4、3人のざまあキャラ
海斗たちの前に現れたのは、三人の冒険者。
タックマンが三人を順番に紹介する。
「この三人は、人間では珍しいジョブ持ちの冒険者だ。我々騎士とは違う『強さ』を知ってもらうため、こうして呼んだ」
「へへへ、まあそういうこった。よろしくな、救世主さん」
金髪の青年が手を差し出したので、リクトが握手に応える。
(ハインツ。女好きのクズ……ジョブ持ちだからと街で好き勝手やって恐れられている)
「ククク。まあ、ボクたちがいれば問題ありませんよ」
ローブを着た眼鏡の青年は、微笑を浮かべていた。
(マルセドニー……こいつはギャンブル狂のクズ。頭脳明晰だがバクチ大好きで、あちこちで借金してるクズだ。ここに来たのも、指導の報酬目当てだっけ)
そして、着崩した礼服の少女。
「へえ~、救世主って若いんだねぇ。あたしと同じくらいかな~?」
可愛らしく首を傾げ、リクトと目が合うとニコッと微笑んだ。
(ナヴィア。こいつは甘ったれのクズ。甘やかされて育ったせいか、我儘で他者を見下すクズ……よくもまあ、こうもそろえたモンだ)
海斗は、一瞬で三人のデータを思い浮かべた。
リクトは三人と交互に握手。その本性を知るのはもう少し先だ。
すると、タックマンが言う。
「まず、城で基礎訓練。その後に町へ出て冒険者の彼らと外で野外演習だ。さて……ジョブ持ちか。魔力、ジョブ能力について説明しなくてはな」
◇◇◇◇◇◇
ジョブ。それは、魔族が得る『称号』である。
ごくたまに人間もジョブを得て生まれることがある。だが、数は非常に少なく、持って生まれた者はそれだけで重要な役職や、冒険者として大成すると言われている。
ジョブには、固有の能力がある。
例えば『剣士』というジョブ。このジョブは剣を持つだけで一流の剣士となれる。
さらに、ジョブを鍛えれば『スキル』を得ることができる。
そこまで説明し、マークスが剣を抜く。
「私のジョブは『剣士』……得たスキルの一つに『疾風斬』という技があります」
マークスが剣を抜いて構えを取り、設置された丸太に向かって剣を振る。
「スキル、『疾風斬』!!」
すると、風の刃が飛び、丸太が真っ二つになった。
驚くリクト。海斗は知っていたので特に驚かない。
「すっげ!! お、オレもあんな技、できるようになるんですか!?」
「ええ。異界より来たりし者である救世主のジョブは、この世界の人間が得るジョブよりも強力です。そしてそのスキルはさらに強力と言われています」
「おおお……『勇者』のスキルってなんだろ!!」
「…………」
海斗は、知っていた。
勇者のスキル。それは。
(……仲間の、ハーレムメンバーのスキルを強化し、さらに自分で使える)
リクトは勇者。
仲間を得ることで強くなる能力。そして、勇者の力で強化した仲間のスキルを自在に使うことができる……つまり、ジョブ持ちの少女たちがリクトの元に集まり、ハーレムを作れば作るほどリクトは強くなるのだ。
それが、この世界の……『オレよろ』の世界のルール。
当然だが、海斗がそんなことを教えることはない。
「なあ団長さんよ。今日は顔見世だけだろ? だったら、給金くれよ。オレらもう帰るからよ」
「ああ……わかった」
「フフフ。さて……貰う物をもらったし、ボクも帰ります」
「あたしも~、今日のおやつなにかな~」
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアは帰った。
本当に顔見世だけだった。だが、海斗は思う。
(今はまだ、あいつらを利用するのは先だ。まずは……俺も、自分のジョブ、スキルを理解しないとな)
こうして、リクト、海斗のジョブを使いこなす訓練が始まるのだった。
◇◇◇◇◇◇
数日が経過した。
海斗の手には、小さな骨がいくつか握られていた。
「『骨命』」
技名を告げると、骨が形となり、骨格標本のような小鳥となった。
生き物のようにパタパタ飛び、そのまま海斗の肩へ乗る。
「ジャンプ」
骨の小鳥がジャンプした。
「飛んだまま回転」
小鳥が飛び、クルクル回転する。
「そのまま俺の指先へ」
小鳥が指先に止まった。
「『視界共有』」
海斗が片目を右手で押さえると、右目に小鳥の視界が映し出された。
「……解除」
小鳥がバラバラになり、海斗の手のひらに骨が散乱した。
海斗は骨をポケットに入れ、理解した。
「……邪骨士。これ、かなり使えるな」
わかったことがかなりあった。
まず、邪骨士は『骨を操作』する力を持つジョブだ。
今行ったのは、骨に仮初の命を与え、意のままに動かす『骨命』だ。
検証したところ、全体の四割程度の骨が揃っていれば、命を与え操作することが可能。足りない骨は海斗の魔力で補い動かせる。
大きさは、今の海斗では子犬程度が限界。
そして、骨の目に当たる部分がある場合、海斗の右目と視界を共有することもできる。
「ふむ。骨か……直接戦闘向きではないな」
様子を見ていたタックマンが近づき、海斗の手をのぞき込んだ。
海斗は振り返る。
「でも、だいたいやり方がわかってきました」
「うむ。サポート寄りのジョブ、スキルのようだな。カイト、お前の方は何とかなりそうだが……」
タックマンが見た方にいたのは、リクトがいた。
エステルと剣の修行をしているようだが、この数日……全く敵わない。
そもそも、《勇者》のジョブ効果がさっぱり現れないのだ。
「ふぅむ。『勇者』というジョブ……過去に召喚したどの救世主にも当てはまらんジョブだ。お前といい、リクトといい、期待はしているんだが……」
「まあ、いずれ能力が開花するんじゃないですか」
海斗は適当に言い、タックマンに言う。
「タックマン団長。俺のお願いですけど……」
「ああ、動物の骨を集めるだったか。部下にやらせているが、もう少し待て」
「ええ、俺の希望通りの動物、魔獣でお願いします」
「うむ、わかった」
海斗は、この世界を『攻略』するための準備を始めていた。
そのために、最初にやるべきこと。
(まず、リクト。あいつをここから追い出す必要があるな……騎士団での訓練が終わったら、次はハインツたちとの訓練。その前に、城下町でイベントがあるはず)
海斗は、タックマンに確認する。
「団長。明日、冒険者たちとの野外演習でしたよね」
「ああ、そうだ」
「支度金ももらえるんでしたっけ」
「うむ。金の使い方を冒険者から教わるといい。ああ、くれぐれも妙な使い方をするなよ? 買い食い程度ならいいがな。はっはっは!!」
「あはは……」
金の使い方は、決めていた。
海斗の視線の先には、リクトがいる。
リクトは、エステルの一撃を脇に受け、地面をゴロゴロ転がった。
「いっでぇぇ!? え、エステル……もうちょい手加減してくれよ」
「全く。この程度で音を上げるとは、それでも救世主か!!」
「いやでも、まだ勇者の力、覚醒してないというか」
「だったら、私が覚醒させてやる。ふふふ、かかってこい」
「よっしゃ!! 行くぞ!!」
いつの間にか、エステルとリクトは仲良くなっているようだった。
海斗はその光景を眺めて思う。
(リクトの本格的な覚醒はまだまだ先。そもそも、勇者は仲間を強化して仲間のジョブを使う力だ。ハーレムメンバーのいない勇者なんて、雑魚も雑魚……)
今は、素人としか思えない剣で、エステルに打ち込んでいる。
(リクトの追放は、ハインツたちと向かうダンジョンでだ。本来のカイトが、勇者は自分一人でいいとリクトを罠に嵌めるんだが……その前に、大事なイベントがある。そこでリクトを追放してやる)
海斗は、原作知識を持っている。
ストーリー通りだと自分が死ぬ。なので、リクトをダンジョンで追放せず、町で起きるイベントに合わせて追放することにした。
(リクト。お前に恨みはないけど……俺の攻略にオマエは邪魔だ)
イベント発生まで、あと少し。