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馬車での道

 海斗は、ひとまずイザナミを放置することにした。

 感情の欠落……他者に興味を持たず、性欲もなく、愛という感情を知らず、それを補うように食欲が異常に発達した女ということは知っている。

 恐らく向かうのは、ナヴィアと同じ女性たちが働く給仕場だろう。

 いきなり暴れるような馬鹿ではないはずだが、やや不安もあった。


(……いきなり保険を使うしかないか)


 海斗は、カードをしているハインツたちに言う。


「ちょっと周りの連中に挨拶してくる」

「ああ? お前、そんなキャラか? それも作戦か?」

「よくわかってるな。まあ、情報収集だ」


 適当に言い、海斗は周りを見る。

 多くは団体行動だ。男女二名だけのところもあれば、五人ほど固まっているところもある。一人でいるのは数名……海斗はあえて、普通に接した。


「よう、一人か?」

「……見ればわかるだろうが」


 不機嫌そうに言うスキンヘッドの男……炭鉱夫ではない、変装したヨルハだ。

 海斗は、壁に寄りかかって座る男の隣に座って言う。


「一人で鉱山とは、訳ありか?」

「関係ねぇだろうが。すっこんでろ」

(いいぞ、ちゃんと守ってるな)


 海斗は事前に、この『炭鉱夫』の状態の時は、ぶっきらぼうで粗暴な男を演じろと命令していた。

 ヨルハは暗殺、戦闘だけではない。芝居の腕も超一流……まさかこのスキンヘッドでガラの悪い、体格のいい男が、十六歳の美少女だとは誰も思わない。

 世間話をするふりをして、リスクを冒しつつ、咳払いするふりをして口元を隠して言う。


(今、俺が喋っていた女を見張れ)


 スキンヘッドの男は言う。


「あっちいけ。オレに構うんじゃねえよ」

「ああ、悪かったよ……で、いいのか? こっち来て、俺らとお喋りしてもいいんだぜ」

「うるせえ」


 うるさいと言いつつ、スキンヘッドの男は頷いた。

 これで、イザナミはヨルハが監視する。共にリクトのハーレムメンバー四強の二人だ。いくらイザナミでも、鍛え抜かれたアサシンであるヨルハを察知するのは至難だろう。

 ひとまず、ヨルハという保険が早々使えなくなったが、予定通り進んでいる。


「おう、あのスキンヘッドと何話てたんだ?」

「ああいうガタイのいい男は、炭坑内でも役立ちそうだからな。俺らと行動しないかって誘ったら断られた」

「あっはっは、無理に決まってんじゃん。ってかあたし、あんなむさ苦しいオヤジと一緒とか嫌だし~……スケベそうだしね」

「くだらないね。それよりナヴィア、負け分はきちんと支払いしてくれよ。ボクは金に関しては一切妥協しないからね」


 どうやら、マルセドニーは二人にカードで連勝しているようだ。しかも金を賭けての試合だ。

 海斗はどうでもいいのか、空いていたイザナミの隣に座り、大きな欠伸をする。

 すると、海斗を見ていたイザナミが言う。


「眠いのか? なら……私の足を使っていい」

「は?」

「枕にしていい。虫人の子供にしてやったら喜ばれた……ヒトの身体は柔らかく、虫人にはないものらしいからな」

「……遠慮する」

「そうか……必要なら、いつでも言ってくれ」


 いきなりの『膝枕どうぞ』発言に、海斗はやや面食らった。

 そもそも、このイザナミ……原作では羞恥心が皆無なのだ。

 リクトと混浴するイベントでは身体を隠さず、服が破れて胸が丸出しになっても隠さず、リクトのハーレムメンバーが慌てて隠したりする描写もあった。

 ラッキースケベ担当……ではないが、そういうイベントも多くあった気がした。


(……リクト、か)


 リクトは今、どこで何をしているのか。

 エルフの国に行くように仕向けたが、妖精族の国を通って行かないといけない。かなりの旅になるだろうし、覚醒イベントをすっ飛ばしたリクトではまともに戦えないだろう。

 

(死んではいないと思うけど……せめて、俺がこの世界の魔族を倒すまでは、生きててくれよ)


 海斗は知らない。

 リクトが、海斗が取り逃がしたプルチネッラを利用して覚醒し、さらにネヴァンを仲間に加えてハーレムを充実させつつあることに。

 そして……妖精族の国でも、イベントに巻き込まれるであることに。


 ◇◇◇◇◇◇


 馬車は進み、夕方になると川べりに停車した。

 今日はここで野営。ドワーフたちが木箱から毛布を出し、干し肉と水、ドライフルーツのようなしなびた果物を配布……どうやら、夕食はこれだけのようだ。

 ナヴィアは言う。


「ありえねー……ねえカイトぉ~」

「ダメ」


 アイテムボックスにある食料を出せ、と言いたいのだろう。だが、アイテムボックスは国宝であり、世界に十二個しかない秘宝だ。おいそれと人前で使うわけにはいかない。

 ナヴィアは、渋々と干し肉を齧りだす。

 海斗も、干し肉を齧る……スルメより硬く、噛んでいると塩気を感じた。果物はドライフルーツのようで、食感がよく甘かった。

 水を飲み、軽く口をゆすいで食事は終わった。

 ドワーフたちが毛布を配布したので、それにくるまって寝るだけ。まだ時間的には夜の七時前後……だが、車内では寝息が聞こえ始めた。


「ふあぁぁ……オレも寝るわ」

「ボクも寝る」

「……意外。あんたら、文句言いまくると思ったのにさ、なんかいい子じゃん」


 ナヴィアが、ハインツとマルセドニーに言うと、二人は顔を見合わせて小馬鹿にしたように笑う。


「アホかお前。よーく考えてみろ。タックマンのオヤジの地獄の訓練と、今の状況……どっちがマシだ?」

「その通り。自給自足で森の中を駆けまわった時のことを思いだすといい。ハインツはともかく、魔法職であるボクやキミも、あんなふざけたサバイバルを生き残ったんだ……こうして屋根の下で、毛布にくるまって寝るなんて、最高じゃないか」

「……あ、確かにそうかも」


 やる気が感じられなかったころ、三人はタックマンに地獄の訓練を受けていた。その内容を海斗は詳しく知らないが、今の状況よりマシらしい……正直、文句タラタラかと思ったが、地獄の訓練は過酷な環境でも文句を言わさない強さを、この三人に植え付けていた。

 海斗も毛布を被る。すると、イザナミがもたれかかってきた。


「ッ!?」


 いきなりの行動に、思わずビクッと反応してしまう。

 すると、イザナミが驚いたように言う。


「どうした? 何かあったのか?」

「いや、おま」

「え? 夜は冷えるのだろう? 虫人の子供にこうして抱き着いて眠ると喜ばれたのだが」

「……俺は虫人じゃない。くっつくな」

「そうか。では、一人で寝るとしよう」


 イザナミは、毛布をかぶり、膝を抱えるようにして寝てしまった。

 意味不明な女……正直、シナリオの展開や、イザナミがどういうキャラクターなのか知っていても、行動を読むのには限界があると感じた海斗であった。

 海斗は毛布をかぶり、小さく息を吐く。


「ガストン地底王国……」


 あと何日かで到着する。

 脳内でストーリーを復習し、そのまま静かに目を閉じるのだった。

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