表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/113

イザナミ

 馬車が動き出した。

 これから十日ほどかけて、ガストン地底王国へ向かう。

 馬車の揺れはひどい。荷台には三十人ほどの男、十人ほどの女が乗っているが、誰も文句を言わない。

 乗っているのは全員が人間。暗い顔をしている者もいれば、静かに馬車の壁に寄りかかって目を閉じている者もいる。

 女は全員、男の傍にいた……恋人なのか、家族なのか。男を支えるつもりで一緒に来たのか、話をしていないのでわからない。

 そんな中、ハインツ、マルセドニー、ナヴィアはコソコソ話をしていた。


「身体満点、愛想は零点だな。根暗って言葉がぴったりな女だぜ」

「アンタ最低~……まあ、胸はデカいわね。ぐぬぬ~……あたしよりデカいかも」

「くだらないね。そもそも、彼女はボクらには関係ない。話をするだけ時間の無駄だ。なあ、カイト……おい、カイト?」

「……ちょっと黙ってくれ。『時系列』の整理してるんだ」

「「「……???」」」


 海斗は、頭を押さえて考えていた。

 イザナミ。リクトのハーレムメンバーだが、最後までリクトのことを『好き』だの『愛している』だの言ったことはない。

 そもそも、仲間になるのは終盤……イザナミは混血人でありながら、その特殊な出自、ジョブの力で、執政官プルチネッラに一人立ち向かい……。


「……!!」


 海斗は察し、イザナミを見た。

 イザナミも、海斗を見ていたのか首を傾げる。


「……私に言いたいことがあるんだろう? 遠慮しなくていい、何でも話そう」

「……あんた、どこから来た?」

「虫人の国。鷲鼻の魔族に捕まっていた」

(やっぱりそうか……!!)


 イザナミが盾突いた魔族は、プルチネッラだ。

 プルチネッラと一人で戦い、その『核』を僅かに傷付けるほどの実力者だ。プルチネッラはネヴァンと同等の手術を施し、魔族の心臓を植え付けようとするのだが、リクトと戦い敗北……その隙にイザナミは逃げ出し、別のところでリクトと出会うのだ。

 

(つまり、プルチネッラが死んだから、虫人のところから逃げてきたんだ。そして、デラルテ王国に来た……でも、なんで『魔王の骨』のことを)


 海斗はイザナミをジッと見ると、ハインツが言う。


「ほうほう。お前、こういうのがタイプか」

「うるさい。今、大事なこと考えてんだ。黙ってろ」

「へいへい。おいマルセドニー、カードやろうぜ」

「構わないが、キミ、ボクの相手になるのか?」

「へ、おもしれえ」


 うるさいハインツがいなくなり、海斗はイザナミの隣に移動した。


「さっき言った骨……って、なんの話だ?」

 

 海斗は、なるべく興味を持っていないような喋り方をした。

 イザナミはチラッと海斗を見て言う。


「あの魔族が泣いていた。魔王の骨、偉大なるお方の物……そう言いながら、デラルテ王国に行くと言っているのを聞いた。だから、先回りして見つけてやろうと思った……でも、あの鷲鼻の魔族が、死んだ」

「……ああ、デラルテ王国の英雄たちが倒したみたいだな」

「うん。もっと情報が欲しかったけど、ここは平和すぎて誰も魔族の話をしない……それに、骨というからには、一部だけじゃない、絶対に他の部位もある。だから、ドワーフの国で探そうって思った」

「…………」


 何とも言えない理由だった。

 海斗は、イザナミがどういう女で、なぜ魔族を倒そうとしているのかを知っている。

 確認の意味を込めて聞いてみた。


「お前、なんで魔族に逆らおうとする?」

「倒すべき『悪』だから……私は、忌み子だから。本当は死ぬべきだった。でも、どうせ死ぬなら、この忌まわしき力を使って、平和な世界にしたい……それが」

(母親との約束、か)

「母さんとの、約束」


 イザナミは、混血人の中でも特殊な出自だ。

 人間と竜人の間にできた子供で、胎児の状態で鬼人の女性の腹に埋め込まれ生まれた。

 人間のジョブを持ち、竜人、鬼人の特性を持つ、混血人の中でも最強の力を持っている。

 なぜ、そんな生まれ方をしたのか?


(……混血人の恨みによって生まれた、悲しい女、か)


 混血人は、十二種族の中でも忌み嫌われている。

 この世界では、種族同士の婚礼が当たり前だ。他種族同士での交配は嫌悪されている……その理由は海斗にはわからないが、混血人たちは嫌われているという事実は間違いなくあった。

 だが……混血人は、強いのだ。

 異なる種族の血が混じった子は、生まれながらに強大な力を持つ。だが、短命であり、寿命は三十年と持たない。

 

(だからこそ、イザナミが作られた。人間のジョブが宿ることを期待し、長寿の竜人との間に子をもうけ、鬼人の強靭さを得るために胎児の状態で腹に埋め込まれた)


 そして生まれたのが、イザナミ。

 強靭な身体、強力なジョブを持つ混血人の戦士。

 長く虐げられてきた十二種族に恨みを晴らし、魔族を屠り自由を得るために生み出された、兵器。

 力の代償に感情の一部が欠落し、痛みを感じない欠陥があるが、特に問題はない。


(原作では……リクトに愛を教わるために、ハーレムに加わるんだよな。最終決戦でも、四強の一人として剣を振るった……)

「……まだ、気になることが?」

「あ、ああ……いや」


 海斗はイザナミから目を逸らす。


(ともかく、プルチネッラを倒したことで、ストーリーが歪み始めている。まさか、イザナミがここにいて、ドワーフの国に向かっているなんて……しかも断片的な情報だけで『魔王の骨』を手に入れようとしている。くそ……どうする)


 仲間にすべきか、否か。

 そもそも海斗の中に、リクトに関わるハーレムメンバーを仲間にする選択肢は存在しない。

 ヨルハですらギャンブルのようなものだ。もし、リクトに関わった瞬間、切り捨てるつもりであった。

 イザナミ……戦力としては、間違いなく最上級。

 恐らく、まともに戦えばハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人がかりでは相手にならない。


(スカピーノ戦。こいつがいれば、楽になるかもしれない……どうする)


 ストーリー通り進め、クルルを仲間にしてスカピーノ戦を攻略し、魔王の骨を手に入れるか。

 それか、本来はいるはずのないイザナミを仲間にして戦力を増強し、クルルを含めた六人でスカピーノと戦うか。


(……さて、どうしたもんかね)

「…………あなたの視線、どうも気になる。私のことがそんなに気になるのか?」

「あ、いや……」


 海斗はイザナミをチラチラ見ていることを気付かれ、慌てて目を逸らすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~
レーベル:GA文庫
原著:さとう
イラスト:山椒魚
発売日:2025年 5月 15日
定価 863円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
iafemxj63vzbenw1cozh6eykl32_k9p_k8_sg_2x9u.jpg



お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
海斗は原作ハーレムアンチが先立ち過ぎて斜めに構えてるんだろうな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ