ざまあ三人組と
「「「たた、炭鉱夫ぅぅ!?」」」
出発前日、海斗はハインツ、マルセドニー、ナヴィアを自室に呼んだ。
三人ともラフな格好だ。ナヴィアなどお菓子を食べながら話を聞いている。
そして、海斗の衝撃発言を聞き、息もピッタリに声を揃えて驚いた。
海斗が言った言葉……ガストン地底王国に『炭鉱夫の研修』として行くということで。
当然、ハインツは言う。
「き、聞いてねえぞ!! た、炭鉱夫? なんで!? オレらデラルテ王国からの使者じゃねぇのかよ!?」
「誰も使者なんて言ってないぞ」
「待ってくれ。炭鉱夫ってことは、その……炭鉱を掘るのか? ボクも?」
「当たり前だろ」
「あ、あたしも? うそ、できるわけないじゃん!!」
「お前は別口。世話係として、炭坑内にある作業員の給仕場で働いてもらうぞ」
三人は顔を見合わせる。
そもそも、プルチネッラ戦で忙しく、地底王国で何をするか、目的は何なのか、全く知らないのだ。
わかっているのは、執政官を倒しに行くということだけ。
マルセドニーは挙手。
「……あー、何から聞けばいいんだ」
手を上げたはいいが、何を言うか言葉に詰まってしまった。
眼鏡を上げ、頭をボリボリ掻く。
海斗は言う。
「とりあえず。地底王国での目的を説明する。ああ、お前たちにも役目はあるから安心しろ」
「「「……」」」
「安心しろ。今回はお前たちが逃げたり、失敗の言い訳並べてゴネるとは思っていない。魔族と戦ってだいぶ自信も、スキルも身に付いたみたいだしな」
海斗が褒めると、三人は鼻を高くして言う。
「まあな。フン、この『聖騎士』ハインツ、今や国内最強と言っても過言じゃねぇしな。けけけ」
「ククク、このマルセドニー……すでに国内最強の『賢者』として名を馳せている」
「あたし、このまま教会の『聖女』に返り咲いてもいいんじゃない? って感じ~」
調子に乗りまくっていた……が、海斗はウンウンと頷く。
「そういうわけだ。炭坑夫として、俺たちも頑張ろうぜ」
「「「おう!!」」」
「さて、やるべきことを全部説明するとなると時間がかかる。重要なことだけ言うぞ」
海斗は、これまでメモしてきた『地底王国でやるべきこと』の用紙を広げた。
◇◇◇◇◇◇
「まず、最大の目的は二つ。一つは『魔王の骨』を回収すること、もう一つは『十二執政官』序列十一位『楽師』スカピーノの討伐だ」
「……その骨はよくわかんねえけど、執政官』序列十一位……強いんだよな」
「忘れたのか? 俺たちはすでに、序列五位を倒してる」
そう言うと、ハインツはニヤリと嫌味な笑みを浮かべる。
「そうだった。けけけ、まあ余裕ってやつか? はっはっは!!」
「まあ……準備さえ整えばな」
「ああん? なんだよ、敵はプルチネッラの格下だろ? そんな用心必要か?」
「当たり前だろ。そもそもお前、スカピーノのこと知ってんのか?」
「……知らん」
そもそも、『十二執政官』という存在は、どの種族にとっても『逆らうべき相手ではない』こと『自分たちを支配している』存在であること、そして『種族の最強戦士軍団が束になっても敵わない』存在なのだ。
逆らう……ドワーフたちも、スカピーノに逆らうなど選択肢にすらない。
そんな敵を、これから倒しに行くのだ。
マルセドニーが言う。
「そういえば、賭博場で聞いたことがある。『楽師』スカピーノは音楽家だと」
「ああ。そしてスカピーノがいるのは、ガストン地底王国工業地区にある、ドワーフが技術の粋を結集させて作った特別ステージ、『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』……あいつは毎日、そこで自治区の魔族を相手に、歌を歌ってるんだよ」
「「「……歌ぁ?」」」
相変わらず息ピッタリの三人。海斗は頷く。
「『トルトニス・グローム・ヴァナヘイム』……スカピーノと戦うには、そのステージに上がって戦うしかない。わかるか? ステージ上はスカピーノのための場所、真正面から挑むには不利すぎる」
「……え、待ってカイト。たた、戦うって……あんた、いつもの卑怯な戦法は?」
「あるけど、それをやったとしても、ステージ場で戦うのは避けられない」
「ま、マジ……?」
驚くナヴィア。マルセドニーが挙手。
「待った。す、ステージ上で戦う? つまり……ま、魔族たちもいるってことか?」
「ああ。でも、自治区の魔族は戦いなんて知らない観客だ。家畜だと思っているドワーフの施しを糧にして生きてるだけ。毎日遊んでるだけ、なんの生産性もないクズ連中……相手にしなくても、スカピーノ戦の邪魔にはならない」
「……あ~、なんだか気分が悪くなってきた」
「おいおいカイト、ステージ上で戦うのはいいけどよ……卑怯な戦法は?」
「それをやるには、ドワーフの国……俺らが向かう最下層の炭坑で、ある女を仲間にしなくちゃいけない」
「女か!! あ~……でもよ、ドワーフなんだろ? ドワーフの女って、チビで髭生えた女って聞いたことあるけど、マジなのかね」
「安心しろ。クルルは人間とドワーフのハーフ……ハーフドワーフだ。人間の身体に、ドワーフの筋力、そしてジョブを持つ。そいつの技師としての力を使って、スカピーノ戦に役立ってもらう」
「……ハーフ、ね」
ハインツは何かを察したのか、それ以上言わない。
マルセドニー、ナヴィアも察した。もちろん海斗は知っている。
(種族同士の混ざりもの……やっぱ敬遠されてるんだな)
この世界には、人間同士、ドワーフ同士など、同種族での婚姻が当たり前だ。
だが……それ以外の婚姻は、認められていない。正確には疎まれている。
そして、別種族同士で生まれたハーフを『混血人』……別種族として扱う。
混血人は、全ての種族から嫌われているのだ。
海斗は思う。
(リクトが、全種族のヒロインと結婚して、大ハーレムを作るなんて、信じられないだろうな……怖気がする)
海斗は何も言わず、話を続けた。
「とにかく、執政官と戦うのは最後。その前に、地底王国の最下層で『魔王の骨』を回収する」
「さ、最下層……そういや、地底なんだよね」
「待った」
ナヴィアが言うとマルセドニーが挙手。
きちんと質問のたびに挙手するのはマルセドニーだけだった。
「カイト。ガストン地底王国は、上層階に行くためには許可が必要だったはずだぞ。炭鉱夫として行くなら、最下層から下層までしか移動できないはず……」
「驚いた。お前、よく知ってるな」
「フン。天才だからな」
マルセドニーは鼻高々だ。
海斗は言う。
「一応、俺たちの存在は極秘だ。ドワーフ国王が『そっちの執政官を倒すんで協力してくれ』なんて言って素直に協力するわけないしな。一応、デラルテ王国の執政官が死んだことは知ってるけど、俺が倒したことは内緒にしてるし」
「……じゃあ、まさか」
「ああ。勝手に乗り込んで、勝手に倒す。で、正体を現すのはスカピーノを倒したあとだ。その後はもう外交……クリスティナの出番だな」
「おいおい、マジかよ」
「まあ、使者を送る程度の連絡はクリスティナがしたからな。無断で侵入ってことにはならない」
「「「…………」」」
三人は無言でそれぞれの顔を見合わせた。
海斗は言う。
「さて、お前らの装備一式、全部俺が預かる。アイテムボックスの中なら安全に運べるからな」
「お、そりゃいいな。着替えとかもか?」
「ああ、容量はあるから問題ない」
「それはありがたいね。そのアイテムボックス……ボクも欲しい」
「え~、あたしの下着とかあるんだけど。見ないでよね~」
こうして、海斗、ハインツ、マルセドニー、ナヴィアの四人は、ガストン地底王国への出発準備を終えるのだった。