29、十二執行官序列五位『鷲鼻』のプルチネッラ⑦
海斗は、『魔王の骨』を自身の右腕の骨に置き換えたことで、力が漲るのを感じた。
そして、自分にできる新しい力を理解。ハインツたちに命令する。
「ハインツ、お前は騎乗してプルチネッラに攻撃。マルセドニーは援護、ナヴィアはハインツの回復!! やれるな!!」
「「「当然!!」」」
三人は、自信を持ったこと、スキルが目覚めたことでハイになっている。
時間を置けば、自分がいかに強大な敵と向かい合っているかを自覚し、動けなくなる可能性もある。なので海斗は速攻を選択。
プルチネッラは翼を広げると、無数のカラスを集め一羽の巨大なカラスを作る。
「『大鴉』!!」
「へ、デカいだけならなあ!! 怖くねええええええ!!」
ハインツは騎乗し特攻。カラスに向かって突撃槍を振るう。
いつもの逃げ腰、弱腰が全く感じられない、頼りになる前衛だ。
マルセドニーは右手の人差し指で側頭部をコンコン叩く……ギャンブル場でも見た、考える時のクセ。
そして、左の人差し指を突きつけ、無詠唱で初級魔法の『魔弾』を放つ。
「『火』、『風』」
火の弾丸が巨大鴉の右目に命中、風の弾丸が翼の付け根に命中。
態勢を崩したカラスの腹に、ハインツの突撃槍が突き刺さる。
そして、ナヴィアの回復魔法が、カラスの爪で傷ついたハインツを癒す。
「ちょっと、もうちょい避けるなりしてよ!! あたしの魔力も少ないんだから~!!」
「悪ぃ!! でもよ、これがオレの戦い方だぜ!!」
馬に騎乗し、背負っていた盾で攻撃を受けるハインツ。
巨大鴉はまだまだいる。このまま三人に任せて大丈夫と踏んだ海斗は、三人から離れプルチネッラの元へ。
「き、きき、きさ、貴様ァァァァァッ!! にに、人間の分際で、あの、魔神様の一部を、とと、取り込むだとぉぉぉぉぉ!? ぶぁん死に値するぅぅぅぅぅぅ!!」
ブチ切れていた。口調が変わるくらい青筋を浮かべ、震える手で人差し指を突きつける。
海斗は、軽くおどけてみせた。
「奇しくも、正しい使い方なんだけどなあ? 『カイト』の身体に『魔王の骨』を埋め込むってのさは」
「ななななな、何を言っているぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁ!!」
「おっと。俺を殺したら、魔王の骨はどうなるかな?」
そう言うと、プルチネッラの動きがぴたりと止まる。
別に、海斗が死んでも、魔王の骨はそのまま残るのだが……今の冷静ではないプルチネッラには効果てきめんだった。
海斗はアイテムボックスから犬の骨、蛇の骨を取りだす。
「『骨命魔改造』!! 犬の骨、『狂骨犬マーナガルム』!!」
犬の骨が巨大化、形を変え、全長四メートルほどの『巨大犬』となり、プルチネッラに襲い掛かる。
「何ぃ!?」
「骨を進化させる。これが魔王の骨、右腕の力!!」
さらに、蛇の骨を取り出し投げる。
「『骨命魔改造』!! 蛇の骨、『狂骨蛇ニーズヘッグ』!!」
巨大化し、骨に無数の突起が付いた蛇が顕現。
地を這い、プルチネッラの足に絡みつき突起が食い込んで出血した。
「ぐぬうううう!! この、ガキいいいいいい!! ──っが!?」
すると、どこからか苦無が飛んできて、プルチネッラの背中に突き刺さった。
海斗は見た。近くの木に登っていたヨルハが、海斗を見て頷いたのを。
「冷静にならないと負けるぜ?」
海斗は感じていた。
右腕に宿った魔王の骨、その力はまだ見せきっていない。
そして……思い出す。
原作最終巻。リクトと、魔神カイトの戦い。
魔王の骨の力を極限まで絞り出した、魔神カイトの技。
「『魔王の右腕』」
海斗の背後に、巨大な『右腕の骨』が現れた。
直径四メートル以上。いきなり現れた『右腕の骨』に、プルチネッラは目を見開く。
「お、おお……な、なんと、美しい……!!」
宙に浮かぶ右腕の骨は、海斗の意思で自在に操作できる。
右手の五指を開くと骨の五指も開き、海斗が思うだけで自在に空を飛ぶ。
脳内のあるコントローラーで操作するラジコン。海斗はそう思った。
「受けてみろ、魔神カイトの一撃……!!」
「き、来て、来てくれ!! 魔神様の、一撃をおおおおおおお!!」
海斗はドン引きする……プルチネッラは歓喜しすぎておかしくなったのだろうか。
だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
拳を硬く握り、ロケット噴射のように右腕をプルチネッラに向けて発射した。
「『魔王の一撃』!!」
「魔神さまあああああああああああああああああああ!!」
右腕がプルチネッラに直撃、ミサイルのような速度でプルチネッラは吹っ飛び……そのまま彼方へと消えた。
「……序列五位、これで撃破。残りは十人」
海斗はそう呟き、がっくりと尻もちをつくのだった。
◇◇◇◇◇◇
プルチネッラを討伐。
海斗はハインツたちの元へ。
「貴様はクズではない。誇り高き、一人の戦士である!!」
「お、おう……」
「ふふ、今宵はいい酒が飲めそうだ。なあ、ハインツ!!」
「いやオレ、酒は……」
「喜びの酒は浴びるほど飲む。それが騎士団の決まりだ。なあ、お前たち!!」
「「「「「はい、団長!!」」」」」
ハインツは、タックマンと騎士団に囲まれていた。
どうやら感謝されているようだが、ハインツはこういう雰囲気に慣れていないのか、いつもの調子に乗った雰囲気が鳴りを潜め、どこかオドオドしている。
とりあえず、タックマンに任せてもいいだろう。
「見直したよ、マルセドニー」
「当然だ。ボクは天才だからね。べ、別に怖くなんてなかったし、この結果も予想できたし」
「そうだね……本当に、よくやったよ」
マルセドニーは、メイヤーズに褒められていた。
頭を撫でられ、まるで孫を褒める祖母のような……マルセドニーは嫌がりつつも、どこか子供のように頭をぐしゃぐしゃと撫でられていた。
「……ナヴィア」
「あ、あたしは別にそういうのいいから。あたしがやったのは、クズじゃない証明したかっただけだしね。ふーんだ」
「そうですか。ですが……感謝を。あなたのような聖女がいて、助かりました」
「…………ふんだ」
ナヴィアはそっぽ向いていたが、耳が赤くなっていた。
マリアも、そんなナヴィアを見て微笑みを浮かべている。
海斗が近づくと、ハインツたちが集まってくる。
「おい、終わったのかよ!!」
「ああ。元々、プルチネッラの核は傷付いていたし、死ぬのは時間の問題だった。最後の一撃でもう再起不能……どうあがいても死ぬだろうな」
「そうかい。よかった……ああ、疲れたよ。ボク、帰りたいね」
「あたしも~」
「その前に……ハインツ、マルセドニー、ナヴィア」
海斗は、三人を順番に見て、頭を下げた。
「いろいろ悪かった。お前たちがいなかったら、俺らはみんな死んでいた……感謝する」
「「「…………」」」
「なんだよ、その顔」
「いや、まあ……気にすんな。まあ、その……オレらも、悪かったし、なあ」
「あ、ああ……うん」
「う~……なんかムカつくけど、照れくさいかも」
こうして、プルチネッラの討伐が完了し……人間の国デラルテに、真の意味で平和が戻って来た。
◇◇◇◇◇◇
城に戻ると、クリスティナが大泣きしながら抱き着こうとしたので海斗は回避、クリスティナは盛大にずっこけ、鼻血を出しながら「なな、なんで避けるんですかあ!!」と抗議した。
そして、鼻に詰め物をしたクリスティナに、プルチネッラ討伐を報告……ずっと気を張っていたクリスティナはそのまま気を失い、海斗たちも疲労でこの日はもう動けなかった。
後日、改めて祝勝会を開催することになり、あとの始末を任せ海斗は部屋へ。
部屋に戻るなり、海斗はドアを背にして座り込んだ。
「は、ははは……」
右腕を押さえ、海斗は震えた。
今、海斗の右腕の骨は、『魔王の骨』となっている。
強大な力を得た。『邪骨士』が補佐だけではなく、海斗が前線で戦うこともできるようになった。
だが……海斗は、恐れていた。
「……なんでだよ」
魔王の骨は、あまりにも強大な力だった。
何かリスクがあってもおかしくない。
だが、実際は……何のリスクもない。強大な力を、自在に行使することができる。
まるで、魔王の骨が海斗の右腕に収まることが、この世界の『理』とでも言うように。
「救世主カイトの死体、魔王の骨、魔神の魂……」
この三つが融合した存在が、この「おれよろ」のラスボス。
今、海斗は二つを宿し、『カイト』ではなく『海斗』としてこの世界にいる。
「……本当に、俺は……大丈夫、なのか?」
得体の知れない不安が、海斗を襲うのだった。
◇◇◇◇◇◇
数日後、祝勝会が開催された。
楽しい宴だった。酒を飲み、歌い、踊り、笑い……みんなが喜んでいた。
海斗は、会場の隅っこで一人、水を飲んでいる。すると、クリスティナが来た。
「カイト、あなたは主役なんですから、こんな隅っこにいなくても」
「いいんだよ。と……ドワーフの国だけど、どうなった?」
「はい。なんとか話はまとまりました。いつでも行けますよ」
「よし……ああそうだ。虫人の国にもコンタクトを取るべきだな。結果的にだけど、プルチネッラを倒したことで、虫人の国は支配から解放されたと思うしな」
「ええ。書簡を送りましたので、近く虫人の国から連絡が来るかと思います」
「よし。とりあえず順調……次はドワーフの国にある『魔王の骨』を回収、十二執行官序列十一位『楽師』スカピーノの討伐だ」
「……今更ですけど、序列五位を倒したんですよね……なんだが順番がおかしいです」
「まあ、十一位だけど執行官に変わりない。でも、こっちにはハインツたちもいるし、なんとかなるだろ」
そう言って、海斗は水を一気飲み。
すると、ハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人が近づいてきた。
「おい、んな隅っこにいるんじゃねぇよ。うまい酒いっぱいあるぜ」
「そうそう。ああ、あっちでカードやってるんだけど……キミにリベンジしていいかい?」
「ねえねえ女王代理様~、今回がんばったしい、女王代理様の使ってる化粧品、あたしも欲しいな~」
海斗、クリスティナは三人の元へ。
戦いが終わったわけじゃない。でも……今だけは、この時間を楽しもうと思う海斗だった。