3、自分好みのストーリー
翌日。
海斗は部屋で朝食を食べ、その後は騎士が迎えに来て、国王のいる謁見の間に案内された。
道中、城の中を観察……中世時代の、異世界ではありきたそうな城で、謁見の間も広く豪華だった。
玉座に座るのは、異世界エンティア、人間族が住むデラルテ王国の国王(海斗は名前を憶えていない)と、娘であり王女のクリスティナ。
国王は、にっこり笑う。
「救世主たちよ、よく眠れたかな?」
「ええ、とっても。ベッドがすっごくふかふかで気持ちよかったです!!」
リクトは屈託のない笑顔を浮かべる。クリスティナは「まあ」とつられて笑顔を浮かべた。
海斗は微笑んでいたが、内心では違う。
(んなわけあるか……異世界召喚とかどう考えても人攫いだぞ。俺は事情を知ってるからいいけど、もし何も知らなかったら不安でべそ掻いてたかも……リクトのヤツ、単純だな)
クリスティナは、笑顔を浮かべていたが、やや表情が沈む。
「改めてまして。あなたがたを無断で召喚したことについて、謝罪します」
「そんな、気にしないでください!! オレたち、何をすればいいんですか?」
リクトは胸をドンと叩く。
海斗は「オレたち」に納得いっていないが、とりあえず頷いた。
「あなた方には……この世界エンティアを、魔族から解放して頂きたいのです」
「エンティア?」
(昨日最初に言ったじゃねぇか……この世界の名前だっての)
「この世界の名称です。そしてこの地は、人間の国デラルテ……魔族の支配された、人間の大地です」
「ま、魔族?」
(……魔神の眷属)
「魔族とは、魔神の眷属。エンティアの七割が、魔族によって支配されています。あなた方には、魔族、そして魔神が支配するこの世界を、解放して欲しいのです」
「お、オレたち……が?」
「はい。デラルテ王国には、『異界より来たりし救世主、魔なる者たちより世界を救わん』との言い伝えがあり、古の秘術『召喚』が残されていました……そして昨日こそ、百年に一度、『召喚』を使うことができる日だったのです」
「じゃあ、オレら以外にも勇者がいたんですか?」
「ええ。百年前に……ですが、以前の勇者は、魔族と相打ちになり……」
クリスティナは沈む。
リクトも、さすがに黙り込んだ……が。
「へへ、なら大丈夫。オレらなら、この世界を救えるぜ!! なあ!!」
「え、ああ……そうだな」
いきなり声をかけられ驚く海斗。とりあえず無難な返事をしてしまった。
クリスティナは頭を下げる。
「ありがとう……では、あなた方の旅立ちの前に、この世界の常識、文化、そしてジョブに関する授業を行います。そして、実際にジョブを使った訓練なども合わせて行いましょう」
「はい!! よっしゃ、勇者リクト、本気でいくぜ!!」
(この訓練で、カイトと他のざまあキャラにハメられて追放されて、リクトは王国を出てハーレムメンバーを加えつつ、魔族を倒すんだよな……)
授業、訓練で世界観の説明が入り、ジョブの説明、ざまあキャラが登場する。
カイトは先の展開を予想しながら思う。
(リクトは実際、勇者として優秀なんだよな。で……それを妬んだカイトに、実戦形式の遺跡ダンジョンでハメられて、そのまま追放……王国に残った救世主カイトは、ざまあキャラたちと好き勝手やって、クリスティナが苦労する。で……外でハーレムメンバー数名と仲良くなって勇者に覚醒したリクトが戻り、カイトを倒す。で、現れた魔族にカイトとざまあキャラが殺され、カイトが覚醒……魔族を倒し、カイトは正式に旅立ち、二巻へ続く……だったな」
物語の展開を脳内で復習し、カイトはリクトと別室へ。
そこで、この世界についての授業を受ける。
内容は、この世界エンティアの歴史、人間以外の種族、魔族に魔神、ジョブ。
リクトは真面目に聞いていたが、カイトは半分聞き流していた。
教師である老人の話は続く。
「魔族とは、魔神の眷属。強大な魔力、ジョブを持つ種族です」
「あれ? ジョブってどういうことだ?」
「ジョブとは本来、魔族しか持たぬ特殊能力なのです。ごくまれに、人間にもジョブを持つ者が生まれるとのことですが……生まれたらすぐ、魔族に報告するのが習わしです」
「そうなのかー……じゃあ、オレたちは?」
「異界より来たりし者、救世主であるあなた方は別格です。異界より来たりし者は、魔族ですら持ちえない強力なジョブを授かると言われています……故に、秘匿扱いとなります」
「オレ、勇者!! おおお、すっげえ……あれ、お前は何だっけ?」
「邪骨士」
「じゃこつし……なんか変な感じだな」
(うるせ。ラスボスのジョブだっつうの)
海斗は口には出さず、脳内でリクトを批判した。
そして、この世界について。
「この世界は十二の地域に分かれております。そのうちの一つがここ、人間族の国デラルテ」
「その言い方、もしかして他にも種族いるの?」
「ええ。人間族、エルフ族、ドワーフ族、妖精族など……」
「すっげえ、ファンタジー!!」
興奮するリクト。海斗も少しだけ興奮していた。
腐ってもラノベ好き。別種族がいるなら見てみたとは思っている。
「しかし、全ての地域は魔族によって支配されています……あなた方には、地域を支配する魔族を倒し、各地域の解放をお願いしたいのです」
「地域を支配する魔族……って、強いのか?」
「はい。魔神の眷属である魔族、その中でも魔神が直々に選び、特別なジョブを与えた十二の魔族。その名も『十二執政官』……」
(各巻のボスキャラだな)
十二の地域を支配する魔族。
それぞれの地域に住む種族の国王はいるが、その上にさらに魔族がいて、指示を出す。
すると、リクトが挙手。
「はいはい。あの~……オレらを召喚したのって、魔族は知ってるの?」
「いえ。我々人間の独断。秘密ですな」
「……まずいんじゃね?」
「ええ。過去に召喚された者は皆、殺されております……それでも、我々は魔族からの解放を望みます」
老教師はきっぱり言う。
リクトが唾をごくりと飲むと、老教師は本を閉じた。
「それでは、授業はここまで。この後は騎士団による訓練を行います」
「あ、はい」
「わかりました」
二人は用意されていた運動着に着替え、外へ出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
外にある訓練場に出ると、数名の騎士たちがいた。
傍には剣が数本掛けてある台、皮鎧など装備一式が置いてある。
ふと、海斗は一人の少女を見た。
(ハーレムメンバーの一人、王国騎士エステルだ……)
髪をお団子にした生真面目そうな鎧少女だ。
海斗と同じ十六歳だが、才能にあふれ、十六歳にして一部隊を任せられている才女だ。
リクト、海斗と同い年ということでこの場に呼ばれたのだろう。
(最初は俺やリクトを見下していたんだけど、追放後に戻ったリクトに助けられ、惚れて、ハーレムメンバーの一人になるんだよな)
すると、髭面の男が剣を掲げると、エルテル、もう一人の騎士も剣を掲げた。
「救世主に、敬礼!!」
「うお、びっくりした」
驚くリクト。
髭顔が剣を下ろすと、海斗とリクトに言う。
「救世主殿。これより、私たち王国騎士が、あなたたちを鍛えます。それぞれのジョブ特性を知り、使いこなすことで力とする。その手助けを」
「よろしくお願いします!!」
「よろしくお願いします」
リクト、海斗は一礼。
(原作では、カイトは舐めた態度だったんだけど……まあ、俺がそうする必要はないな)
リクトと一礼すると、髭顔が言う。
「では自己紹介を。私は王国騎士団長タックマン。こちらは副団長マークス、そして第一部隊隊長のエステルです」
「マークスです。よろしくお願いします」
「……エステルです」
やや不満そうなエステル。リクトが首を傾げていた。
タックマンは、訓練場の隅にいた三人に視線を向ける。
「おいお前たち、こっちに来い」
「了解~」
若い三人だった。
一人は金髪に、王国騎士とは違う鎧、盾、剣を装備した青年。
もう一人は、ローブを着て眼鏡をかけた真面目そうな青年。
そしてもう一人は、着崩した女性用礼服を着た桃髪の女性。
「この三人は優秀な冒険者です。外での戦いに関しては、我ら騎士より冒険者の流儀も馬鹿にできないゆえに呼びました」
(……来た!!)
海斗は、ニヤリと一瞬だけ口元を歪めた。
この世界で生きるための第一の目的。それが、この三人との接触だった。
(第一巻、カイトと共に『ざまあ』される三キャラ……くくっ、こいつらを利用してやる)
原作知識を利用してやるべきこと。
それは……第一巻で『ざまあ』されるキャラを利用し、リクトを追放することだった。