24、十二執行官序列五位『鷲鼻』のプルチネッラ③
その日の夜、海斗は部屋で書き物をしていた……が、途中でやめて紙を丸め、ゴミ箱に放る。
「死ぬかもしれないのに、ドワーフの国でのイベントなんてまとめてる場合じゃねぇや……」
ペンを転がし、海斗は思う。
「……プルチネッラ。虫人の国で戦う予定だった。虫人の国でなら、使える作戦とかいろいろあるんだけどな……まさか、正面からぶつかるなんて」
そう呟くと、ドアがノックされた。
ドアを開けると、クリスティナがいた。
「カイト……その、明日、行くんですよね」
「ああ。正面衝突だな……で、なんか用事か? 俺、そろそろ寝たいんだけど」
「……その、いいんですか? 明日は……」
「死ぬかもしれない。っていうか、勝率は一割以下だ。まあ……負けそうだったら、デラルテ王国に手を出さないよう、土下座くらいはしてみるよ」
「…………っ」
すると、クリスティナが海斗の胸に飛び込んできた。
「私……私は、海斗」
「…………」
クリスティナは、海斗を上目遣いで見つめた。
よく見ると、薄手の寝間着なのか身体のラインが何となく見える。それに、下着を着けていないのか柔らかな感触が海斗の胸に伝わってきた。
そして……クリスティナは、目を閉じる。
海斗は、クリスティナの肩を掴むと……。
「あいだっ!?」
「何考えてんだお前は。さっさと寝ろ」
海斗は、クリスティナの頭にチョップを叩きこんだ。
クリスティナは頭を押さえ、涙目で海斗に抗議する。
「なな、何をするんですかあ!! 私、覚悟きめてきたのにぃ!!」
「なんの覚悟だっつーの。ってか、お前なんか抱くつもりないぞ。リクトじゃあるまいし……俺はそういうのはパス」
「え、まさか、男の人がいいとか……」
「もう一発殴るぞ、おもらし女王代理」
「おおお、おもらしなんてしてません!! うう、カイトの馬鹿あ!!」
海斗はクリスティナの頭をチョップ……ではなく、ポンと頭に手を乗せた。
「死ぬつもりはないし、戦うつもりだ。それに……さっきも言ったけど、切札もあるしな」
「それそれ、その切札って何なんですか? 新しいスキルですか?」
「さあな。とにかく寝ろ。じゃないとマジで襲うぞ」
「え、あ、いや……おやすみなさいっ」
クリスティナは逃げだした。
その背中を見送りながら、海斗はため息を吐くのだった。
「あーあ、もっと楽に攻略できると思ったけど……どんなにストーリーを知っていても、シナリオ通りいかないんだなあ」
ストーリーは決まっている。
だから先回りし、イベントを潰した。
その弊害が、こうして海斗を苦しめていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。王城の正門前広場に、プルチネッラに挑む人間が集まっていた。
タックマンを筆頭に騎士が五十名。メイヤーズを筆頭に魔法師が十名。マリアを筆頭に回復士が五名。ジョブ能力者は少ないが、王国の最大戦力が揃っていた。
そして、海斗とクリスティナ。
「よし、クリスティナ、頼む」
「はい……皆!! これより、魔族プルチネッラの元へ向かう!! 作戦通りに動くように!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
全員が敬礼。この場にいる全員が、デラルテ王国……そして、人々を守るために、命を捧げる覚悟を持っていた。
海斗はクリスティナに言う。
「お前はここに残って、もしもの場合に備えておけ」
「もしもの場合……わかりました」
クリスティナは、小さく頷いた。
そして、海斗の手を握る。
「どうか無事に……」
「……ああ」
その手を、海斗は少しだけ強く握り返した。
そして、クリスティナに言う。
「ドワーフの国に行く準備、進めておけよ」
「……それ、今言うことですか?」
海斗は手を離し、軽く手を振って歩き出すのだった。





