24、十二執行官序列五位『鷲鼻』のプルチネッラ②
海斗は、その場に崩れ落ちた。
恐怖による冷や汗……自分がいかに馬鹿で、無謀で、愚かなことをしたのか理解する。同時に、クリスティナが駆け寄り、海斗に手を差し伸べた。
「か、カイト……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……はぁぁ、死ぬかと思った」
クリスティナの手を掴んで立ち上がる。
すると、タックマン、メイヤーズ、マリアも来た。
そしてタックマンが言う。
「カイト。魔王の骨……というのは」
「今、俺が持っている。魔族の神、魔神復活のキーアイテムだ」
「……そいつを渡しちまえば、いいのかい?」
「ダメだ。今、人間だけじゃない、この世界がこうして無事なのは、魔王の骨を魔族が探しているからだ。そして、全ての魔王の骨が見つかったら、この世界は滅ぶ……絶対に、渡せない」
「……ああ、神よ」
マリアが祈り、メイヤーズが「むうう」と唸る。
クリスティナは、海斗に言う。
「じゃあ……どうするんですか? このまま渡さなかったら、デラルテ王国は……」
「…………やるしかない」
「え?」
「クリスティナ、戦力を集めるんだ。こうなったら……俺たちで、プルチネッラを倒すしかない」
その言葉に、クリスティナは仰天する。
「ほ……本気、ですか……?」
「ああ。もう、生き残るにはこれしかない。プルチネッラに魔王の骨を渡せば、間違いなくデラルテ王国は滅ぼされる……」
「し、しかし……人間に興味はないと」
「ああ。興味はないだろうさ、だからこそ消しても何とも思わない。あいつは無数のカラスを操れる。それこそ、この国を丸ごと滅ぼせるほどのカラスをな」
「…………」
「やるしかないんだよ。俺が、全員にプルチネッラの能力を全て説明する。あいつだって一人の魔族だ……心臓が弱点なことに変わりない」
海斗は腹をくくった。
十二執行官序列五位『鷲鼻』のプルチネッラ。いずれ倒す予定ではあった。
プルチネッラの管轄は『虫人』の国。原作では、リクトはプルチネッラと真正面からぶつかり、ハーレムメンバーを強化し、自身を強化し、真っ向勝負で打ち負かした。
今現在、海斗の戦力はほとんどない。唯一まともに戦えるのがヨルハだけ。タックマン、メイヤーズ、マリアは原作ではほとんど活躍をしていないのでわからない。
「クリスティナ、ジョブ能力者を集めてくれ。タックマン団長、メイヤーズさん、マリアさん。あなた方にも手伝ってもらいます」
「……わかりました。カイト、あなたに任せるしかないようですね」
クリスティナも覚悟を決めたのか、大きく頷く。
「私は、騎士団に在籍しているジョブ能力者、そして能力者ではないが戦える騎士を連れて行こう」
「やれやれ、あたしも戦線復帰かね。魔法の腕は錆びついてはいないけどねえ」
「……治療はお任せを」
タックマン、メイヤーズ、マリアも頷いた。
総力戦。プルチネッラとは間違いなく戦いになる。
海斗は思う。
(原作でプルチネッラを破ったリクトのパーティーは……十人くらいかな。こっちは、それ以下……しかも、今の俺じゃあ勝てるわけない)
海斗は考える。
(どうする。スカラマシュみたいに先回り……無理だ。もう場所を指定されてる以上、罠も仕掛けられない。それに……リクトですら真っ向勝負で打ち破ったんだ。弱点は心臓……どうやって突く)
考え込んでいると、背後から三人の声。
「おい、カイト……」
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアだった。
だが、海斗は無視。
「おい!! お前、無視してんじゃねえ!!」
「…………はあ、なんだよ、まだいたのか?」
「あ?」
「もういいよお前ら。もうここに来なくていい。ああ……これ、報酬だ」
海斗は、アイテムボックスから金貨の詰まった袋を出し、三人に渡す。
「女も、ギャンブルも、菓子も、好きなようにやれ。じゃあな」
「「「……は?」」」
三人はポカンとする。
海斗はそのまま行こうとしたが、ハインツたちが回り込んだ。
「な、なに言ってんだお前……お、オレらは仲間じゃねぇのかよ」
「もう仲間じゃない。プルチネッラも言っただろ? お前ら、クズ過ぎてさすがにもう信用できないし、もうどうでもいい。わかったら町で浴びるほど酒飲んで来い」
「はあああ? おま、ふざけ」
と、タックマンがハインツの首根っこを掴み、放り投げた。
「いっでえ!? なな、何しやが……」
ハインツは見た。
タックマンの、憐れむような、憐憫の目を。
その目を見て息が詰まる。鬼のような指導教官の、どこまでも憐れむ目。
「……こんな言い方はしたくないが、お前のクズっぷりには失望しかない。本当に……本当に、お前に期待した私が馬鹿だったよ」
「え……」
そして、メイヤーズはマルセドニーに言う。
「あたしからはもう何もないよ。魔族と意見が合うのは嫌だがね……あたしも、お前のようなクズ相手に、貴重な時間を無駄にしたよ」
「……なっ」
マリアは、この中で一番、憐れみの目をしてナヴィアを見た。
「……落伍者のクズめ。とっとと失せなさい」
「ちょ、ま」
最後、クリスティナは、三人に近づいて優しい笑顔を向けた。
「これまで、デラルテ王国に尽くしていただき、ありがとうございました。皆さん……この国は、私たちが守りますので、安全な場所で身を隠してくださいね。では、さようなら」
憐みの微笑を向け、クリスティナは城内へ。
他の騎士や兵士たちは、侮蔑の視線を三人に向け、戦いの準備を始める。
そして……中庭には、三人だけが残り、無言で立ち尽くしていた。
◇◇◇◇◇◇
海斗は、クリスティナたち国の重役に、プルチネッラと戦う兵士、騎士たちを集めて話をしていた。
「十二執行官序列五位、『鷲鼻』のプルチネッラ。そもそも十二執行官ってのが何だかわかるか?」
「え? それは……魔神に直接力を与えられた、十二人の魔族ですよね?」
クリスティナが言う。海斗は頷いた。
「それもある。だがもう一つ……執行官は全員、魔神が創造した十二の『災厄魔獣』と契約しているんだ」
どよどよと周囲がどよめく。
海斗は話を続ける。
「プルチネッラは、魔神の与えた『完全付与士』のジョブと、災厄魔獣の一体『鴉王バズヴ』と契約している。鴉王……その名の通り、全てのカラスの王。あいつは無限にカラスを想像し、使役できるんだ。さらに『完全付与士』……こいつは、あらゆるものに属性を付与できるジョブだ。地水火風、光闇雷。この七属性をカラスに付与して戦う……それがプルチネッラの戦い方」
会議場内は静かになった。
十二執行官の強さは想像できないほど高い……というのが常識だ。この場にいる全員が海斗がスカラマシュを倒したことを知っている。海斗の言葉を疑う者はいない。
クリスティナが挙手。
「あの……カイト、作戦はあるんですか?」
「……スカラマシュの時とは違う。事前に爆薬を仕込むとか、毒を盛るとか、行動を先読みして罠を仕掛けるってことが今回はできない。俺たちで、直接ぶつかるしかない」
今回ばかりは、海斗も策がなかった。
いや……一つだけあった。
「……一つだけ、切札はある。でも、それは本当に最後の最後、究極の切札だ」
「え? ど、どんな切札を?」
「言えない。俺だけが知るべきだ……」
この『切札』を使えば、勝ち目が三パーセントくらいの確立が、七パーセントくらいになるかもしれない。だが……海斗は、まだその覚悟がない。
ヘタをすれば、死ぬかもしれない究極の切札。
海斗は言う。
「魔族の弱点は心臓だ。どんなに強くてもプルチネッラは一人の魔族……心臓さえ破壊すれば勝てる。そして、最も大事なことを言う……プルチネッラの切札についてだ」
海斗は、プルチネッラの『最後の切札』を説明。
全員がその話を聞き、青ざめた。
「この『切札』をプルチネッラが使ったら、俺たちの敗北だ。絶対に、その前に倒さないといけない」
作戦会議は、数時間にも及ぶのだった。