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22、カラス狩り

 翼人。

 背中に翼が生え、後頭部からも翼のような触覚が生えた種族。

 背に生える翼には大きさ、形、色、模様など個人差があり、大きい翼ほど強く、美しい模様の翼は翼人たちの憧れであった。

 だが、翼人の少女ネヴァンの翼は真っ黒だった。肌も浅黒く、翼人の中では醜い少女として忌み嫌われ、両親からも愛されずに育ってきた。

 だが……一人だけ、ネヴァンを美しいと言った男がいた。


「フゥム。『狂医』に届け物をしに来ただけなのだが……これは面白い」


 『鷲鼻』のプルチネッラ。

 彼は、痛めつけられ、ボロボロの状態で捨てられていたネヴァンに顔を近づけ、視線を彼女の漆黒の翼に向け、ニヤリと口を歪めた。


「まるで、カラスのようだ。フゥム……実に、美しい。薄汚れてはいるがな」

「……うつく、しい?」


 ネヴァンは、男が何を言っているのかわからなかった。

 魔族ということはわかった。だが、翼人を支配する『狂医』ではない、別の魔族。

 殺されても構わないと思った。なので、言った。


「嘘だ。美しいなんて、嘘だ。こんな黒い翼……嫌いだ。みんな、汚いって、醜いって」

「それはそうだろう。翼人の中では醜いと言われるのは当然。だが、私からすれば、その黒い翼は美しい……まるで、カラスのようだ」


 すると、上空から一羽のカラスが舞い降り、プルチネッラの肩に止まる。

 プルチネッラはカラスを愛おしそうに撫で、ネヴァンに手を差し伸べた。


「よければ一緒に来るかね? キミの扱いはこのカラスと同じだが、それでもよければ」

「…………」


 ネヴァンは立ち上がった。

 プルチネッラは、ネヴァンを自分の肩に止まるカラスと同列に見ている。 

 でも、ネヴァンは嬉しかった。自分を認めてくれただけで、翼人だの魔族だの、種族関係なくプルチネッラのことが好きになった。

 たとえ、プルチネッラが残虐非道で、自身が管理する『虫人』の領地で虫人たちをカラスのエサにしていても、関係なかった。


「……行きたい。生きたい、です」

「では決まりだ。ああ、まずは食事、シャワーかな。翼の手入れは私がしよう。フフフ、ペットの翼を手入れするのは、私の何よりの楽しみでねぇ……ああ、虫は好きかな?」

「虫……美味しいです」

「ははは!! では決まり。さっそく行こう」


 こうして、ネヴァンは翼人の地を去り、プルチネッラのペットとして仕えることになった。

 プルチネッラの力で、魔獣の核を体内に植え付けられ、魔族として生まれ変わって。


 ◇◇◇◇◇◇


 ネヴァンは、カラスを連れて上空から村を探していた。

 もともと、頭は良くない方だ。地図の見かたもよくわからないので、とりあえず上空を飛び回り、村を見つけたら片っ端からカラスに襲わせる。

 目的は、『魔王の骨』に関する情報だ。プルチネッラには探せと言われたが、それが何のかよくわからないので、とりあえず人間を皆殺しにすればいいとの結論を出した。

 殺し続ければ、いつか人間の偉い奴が出てくる。そいつに聞く……今、ネヴァンが考えているのはそれだけだった。


「あ、見つけた」


 状鵜空にて、さっそく次の村を見つけた。

 プルチネッラの支配するカラスたちに、人間を喰らえと命令。自分はそのまま下降し、羽休めをしようとした時だった。


「あれっ? わあ~!!」


 村の近くに降りると、なんとテーブルが用意され、その上に大量の飴玉、クッキーなどが用意されていたのだ。

 ネヴァンは疑うことなくテーブルに近づき、クッキーを手に取り口の中へ。


「んまっ!! ん~おいしい!! なにこれおいしい~!!」


 ネヴァンは、ガツガツとクッキーを咀嚼し、飴玉を丸呑み。

 そして、半分ほど食べ終わった時だった。


「…………ぅ」


 猛烈な吐き気がした。

 食べ過ぎたのか。というか、この程度で体調を崩すほどヤワではない。

 口を押さえ、顔を青くし……ネヴァンはようやく、ただのクッキーではないことに気付いた。


「今だ!!」


 そして、藪から飛び出したハインツが、剣を構えて突っ込んできた。


「うおおおおおおおおおお!!」

「っ!!」


 ネヴァンは飛ぼうとしたが、平衡感覚が狂って飛べない。辛うじて真横に倒れ込むと、翼にハインツの剣が刺さって血が噴き出た。


「うぎゃあああ!? うっぐぅぅぅ……!?」

「心臓を狙え!! マルセドニー、何でもいいから魔法で援護!! ナヴィアはその辺の石でも投げろ!!」

「わわ、わかった」

「い、いし、石!!」


 敵だった。

 剣を持つ男、魔法の詠唱をする男、石を投げてくる女。

 そして、明確な殺意を持ち、ネヴァンを殺そうとする男。

 根拠もない、確信もない。それでもネヴァンは、この男……少年こそ、『魔王の骨』の存在に関わる人間だと思った。


「うげぇぇっ!!」


 ネヴァンは嘔吐した。

 ハインツは剣を構えて言う。


「まさか、ただテーブルに菓子置いただけで、こうも引っかかるとはな……」

「そいつはプルチネッラに飼われてるペットだ。メシもカラスと同じ魔獣肉だけで、甘いモンなんて食ったことないんだよ。原作ではリクトに菓子食わせてもらって懐くシーンがあるんだけどな、そいつを利用させてもらった。ははは!! 毒入りの菓子、美味かったかぁ!?」

「ボクが言うのもだけど……キミ、最低すぎるね」

「あ、あたしもドン引き……」


 ネヴァンは、ふらふらしながら羽をバタバタさせるが、幻惑剤、神経毒が全身に回り上手く動けないでいた。

 魔族の核を埋め込まれた状態なので、そのうち解毒が始まるだろう、だがこのままでは海斗たちに殺される。


「心臓を狙え、早くしろ!!」

「わかってるっつの、でも……」


 ハインツは、ネヴァンに対し攻めあぐねていた。

 なぜなら、ネヴァンの目付きが尋常ではないくらい、憎しみに満ちていたからだ。


「オマエ、ら……殺す、殺してやるっ!!」

「ひっ……」

「チッ……こうなったら」


 海斗は右手をハインツに向ける。


「『骨傀儡(パペット・ボーン)』!!」


 骨を操作し、ハインツの動きを操った。

 狙いは、ネヴァンの心臓。ハインツは剣を両手で構え、ネヴァンに向けて突進する。


「ちょおおおおおお!?」

「『骨命(リ・ボーン)』」


 同時に、海斗はアイテムボックスから犬の骨、蛇の骨を出して力を注ぎ、ネヴァンに向かわせた。

 骨の犬がネヴァンの足に食らいつき、蛇が足に巻き付く。

 骨。ネヴァンは、血の泡を吹きながら海斗を睨み、翼を思い切り広げた。

 そして、一気に急上昇し、骨の犬と蛇を弾き落とす。

 ハインツの突撃が外れ、ネヴァンは上空で血を吐きながら海斗に言う。


「オマエ、覚えたぞ……オマエ、次は必ず、殺す……!!」

「マルセドニー、雷!!」

「あ、あれっ、あ……ええ、詠唱、ミスッたぁぁ!!」


 ネヴァンはフラフラ飛んで行った。カラスは村を襲うことなく、ネヴァンに追従する。

 村が襲われることはなかったが、海斗からすると最悪の結果だった。


「くそ……最悪だ」


 ネヴァンを逃がした。

 確実に始末すべきだった。でも、できなかった。

 

「まずい。俺のことが確実にプルチネッラにバレる。どうする……原作と乖離した今の状況で、もしプルチネッラと戦うことになったら」


 海斗は、ハインツとマルセドニー、ナヴィアを見た。

 ハインツはぼーっとしながらネヴァンの去った方を見て、マルセドニーは困ったように微笑みながら「いやあ、詠唱ミスしちゃったよ」とへコヘコし、ナヴィアは無関心に爪を磨いていた。

 

「……」


 勝てない。

 少なくとも、原作一巻でざまあされ、死ぬ予定だった雑魚三人組では、どんな魔族が相手だろうと勝てるわけがないと、海斗は思っていた。

 そして、三人が集まってくる。


「あー……どうすんだ? なあ」

「ボ、ボクは悪くない。そもそも、キミが急かすせいで詠唱ミスしたんだ。責任はボクにない」

「どーでもいいけど、オナカ空いたかも~」


 海斗は、本気で頭を抱えた。


「ダメだ、もう」

「「「あ?」」」

「お前ら、本当にダメだな。使い物にならねぇわ」

「……あぁ? んだと、てめえ」

「ハインツ。お前はそこそこ鍛えて、多少は自信付いたんだろうけどそれだけだ。肝心なところで役に立たない」

「あぁ!?」

「マルセドニー、お前は魔法を覚えたけど肝心なところでミスをする、役立たずだ」

「……何?」

「ナヴィア。お前はもう、全部だめだ。クソの役にも立たない」

「はぁぁ?」


 もう、どうしようもなかった。

 やはり、ダメなのだ。

 序盤で死ぬクズ三人。物語の『ざまあ役』に、何かを期待した海斗がバカだったのだ。

 一度、やってみたかった。

 都合のいいハーレム展開、主人公に簡単に惚れる色ボケ展開、土壇場での覚醒チート。

 そういうのが嫌いだった。だからこそ、海斗はやってみたかった。

 ざまあ役と、死ぬ運命のキャラクターに成り代わった。だからこそ、ざまあ役でも世界を救える、原作知識があれば世界を攻略できると。

 でも……クズは、どこまでもクズ。役立たずは、どこまでも役立たず。


「はあ……もういいわ。お前ら、使えない。クズはどこまでもクズ……期待した俺がバカだった」

「「「…………」」」

「もう好きにしていいぞ。じゃあな」


 海斗は見限った。

 そして、今ある手札を考える。


「いざという時のためにヨルハを村に待機させたけど無駄になったな……最初から、クズ三人を村に置いて、ヨルハと俺でやればよかった……とりあえず、ネヴァンに顔を覚えられたし、何とかしないと……」


 海斗は、三人を無視して歩き出した。

 その背中は、もう三人に対し興味がないことを物語っていた。


「「「…………」」」


 三人は、去って行く海斗の背中を見て、しばらく黙り込むのだった。

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― 新着の感想 ―
クズ三人組が捨てられたままなのか覚醒するのか、 で今後の物語の展開が大きく変わりそうな分水嶺になりそうですね。 物語完結後にアナザールートのifが描かれても面白いかも。
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