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21、想定外の始まり

 ドワーフの国へ行く準備は順調に進んでいた……が、ある日。

 クリスティナが、訓練を終えた海斗の部屋に飛び込んできた。そして、数枚の羊皮紙をテーブルに叩きつけ、顔を青くして言う。


「カイト!! こ、これを見てください……!!」

「なんだよ。来るなり青い顔して」


 出された羊皮紙を手に取り、内容を確認すると……海斗の顔が驚愕に包まれた。

 そこにあったのは、領地内の集落、村が集団で『骨』となって発見されるという、惨たらしい内容だ。

 略奪などではない。老若男女問わず、集落内の人間、動物などがこぞって『骨』だけの状態で発見されるというものだ。

 その羊皮紙を見て、海斗は考える。


(どういうことだ……スカラマシュは倒した。もう人間の領地に魔族の脅威はないはずだ。後任の執行官? バカな。連中は仲間意識なんて皆無。復讐とか、自分の領地を広げるとか、そんな野心持ってるやつなんていない……ってか、原作でこんな集団で襲われるなんて……待てよ)


 海斗は、机の引き出しから『原作ノート』を取り出しめくる。


「カイト、それは?」

「……骨だけの人間。そういう描写がどっかであったような……」


 クリスティナの言葉を無視し、ノートをめくる。

 そして、気になる記述を見つけた。


「原作十二巻、序列五位、『鷲鼻』のプルチネッラ……」


 虫人の国に踏み込んだリクトとハーレムメンバーたち。虫人の国を解放するため、仲間たちと協力し虫人の女王を仲間に加え、プルチネッラと戦う。

 道中、家畜たちが骨だけにされた。それをやったのがプルチネッラの眷属にして翼人の裏切者、ネヴァン……ネヴァンは改心し、ハーレムに加わる。


「骨だけ……プルチネッラはカラスを使役する。まさか……」

「カイト?」

「嘘だろ。んな馬鹿な……じょ、序列五位の仕業? 原作と違う。そもそも執行官ってのは、自分の領内だけ管理するんじゃねぇのか? 他に目的……まさか」


 海斗は、アイテムボックスにある『魔王の骨』の存在を感じた。


「……プルチネッラが、気付いた? 人間の国にある『魔王の骨』の存在を? それで、俺がスカラマシュを討伐したから、人間の国へ……?」


 海斗は、自分の考えに対する、最も恐るべき答えを口走る。


「お、俺が……原作を変えたから。本来の流れが、変わってきてる?」


 人間の国にある『魔王の骨』は本来、物語の後半で手に入るアイテムだ。だが序盤も序盤で海斗が手に入れ、さらにスカラマシュも討伐している。

 原作本来の流れが、捻じ曲げられた。その弊害となり、プルチネッラが来てしまった。


「……やべえ」

「カイト? あの」

「おいクリスティナ!!」

「ひゃああ!? なな、なんですなんです」

「……急いでドワーフの国に行く」

「え、え……でもでも、カイトに言われた準備、まだ終わってませんけど……」

「急げ。時間は思った以上に少ないかもしれない」


 クリスティナの背を押すと、クリスティナは慌てて出て行った。

 残された部屋で、海斗は頭を抱える。


「原作を変えた弊害? まさか……ちくしょう、想定外だ」


 このままではまずかもしれない。

 海斗はしばし考え、立ち上がった。


「やるしかない。ドワーフの国に行く前に……ネヴァンを倒すしかない」


 海斗は部屋を出て、ざまあ三人組を招集するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「──……ってわけで、俺ら四人でネヴァンを倒しに行くぞ」

「「「…………」」」


 ネヴァンの襲来。そして執行官の暗躍。

 三人は無言だったが、マルセドニーが挙手。


「あの……執行官序列五位っていうのは」

「まだ未確定情報だけどな。骨だけの集落……これと同じ手口を、序列五位の『鷲鼻』が使ってた。可能性は高いと思う」

「それで、ボクたちでその……『鷲鼻』の眷属を倒すって?」

「ああ。放っておけば、被害は増え続けるからな。相手は執行官の眷属、俺やジョブ持ちじゃないと相手できない」

「……ま、待った待った。冷静に考えてくれ」


 マルセドニーは両手を前に出し『ストップ』と言う。


「ボクらで、って……どうやって? キミは骨のジョブ、直接戦闘よるサポート寄り。ハインツは身体こそ鍛えてるけどスキルはゼロ。ボクは勉強はして七属性の基礎攻撃魔法は使えるようになったけど、そんなモンで戦えるわけがない。ナヴィアも心無い祈りしかできないせいで、スキルひとつも覚えない……まさか、ハインツを盾にボクを戦わせるつもりかい?」

「ンだとテメェ。舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!!」

「そうよ。ビビりのくせに、アンタなんか戦えるわけないじゃん!!」


 意外にも冷静な分析だった。元の頭がいいのは間違いない。

 だが、海斗は首を振る。


「当然、真正面から挑むなんてしない。リクトのアホみたいに、惚れさせて鈍ったところを付け込むなんてカス手段も使わない。正義感気取った手段でやる必要なんてないからな……」


 海斗は、かつてネヴァンがどういう戦い方をして、リクトと戦ったのかを思いだす。そして、その戦い方を利用し、ネヴァンを倒す作戦を考えていた。


(こっちにはヨルハもいる。五対一……策にハメれば始末できる)


 ちなみに海斗。ネヴァンはリクトのハーレムメンバーの一人だが、容赦なく始末することを決めていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 海斗たちは準備を終え、王国を出た。

 今回、全員が戦闘用の装備に着替えている。


「おい、どこ目指して行くんだよ」


 ハインツは全身鎧。防御力重視のスタイルで、武器は剣、背中に盾を背負っている。


「この地図、バツ印が付いているのは被害のあった村だね。この辺を捜索するのかい?」


 マルセドニーは法衣。武器は持っていない。基本的に詠唱さえすれば魔法を使えるので、武器などを持つ必要はないのである。


「だっる……あたし、留守番でもいいのに~」


 ナヴィアは聖衣と呼ばれる、『聖女』が着る戦闘服だ。シスターの礼服に似ているが、スリットの入ったスカートは動きやすさを重視しており、胸当てで急所をガード。神殿に奉納し祝福を得た錫杖を手にしている。


「とりあえず、次に被害が出そうな村の近くで罠張るぞ。罠にハマったら全員で攻撃。いいか、狙うのは心臓だ。心臓は魔族の弱点……執行官ですら、その弱点は克服できていない」

「へいへい。へへ……スキルなんかなくても、オレだってけっこう強くなってんだ。魔族の心臓なんざ抉ってやるよ」


 海斗は、黒を基調としたプロテクター付き防刃ジャケットに、ライダーが履くようなプロテクター付きズボンにブーツ。腰にはナイフを差し、指ぬきグローブをはめている。

 アイテムボックスの指輪は首から下げており、近接格闘、アイテムボックスから骨を召喚しやすいようになっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 罠を張る村の近くまで到着。

 海斗は地図を見て、アイテムボックスからいくつかの骨を出す。


「ネヴァンは翼人。上空からカラスを伴って現れる……だったら、こっちも上空からだ。『骨命(リ・ボーン)』」


 骨の小鳥を五羽召喚。現在の海斗は、小動物なら五匹まで召喚できるようになっていた。


「村の周囲を観察しろ」


 小鳥は飛び、海斗は『視覚共有(サードアイ)』で骨の小鳥と視覚共有。

 その間、ハインツたちは海斗の命令で、近くに罠を張った。

 罠を張りながら、ハインツは言う。


「なあ、『こんなモン』で本当に引っかかるのかよ」


 ハインツは『罠』を仕掛けつつ、罠として仕掛ける『あるもの』を見て言う。

 マルセドニーは言う。


「カイトの『予知』で見た情報からの罠だろう? ボクらにはわからないことだし、いいんじゃないかい?」

「あたしは興味あるかも~……うへへ」


 ナヴィアは嬉しそうに罠を設置し始める。

 そして、全ての準備を終え、海斗の元にハインツたちが集まった。

 同時に、右目を手で隠していた海斗がニヤリと微笑む。


「……来た。お前ら、作戦開始だ」

「「「…………」」」


 骨の小鳥の一羽が、カラスの大軍を引き連れたネヴァンを発見。

 小鳥を戻し、海斗は三人に持ち場に着くよう言う。

 そして海斗は小声で言う。


(……ヨルハ、お前も位置に)


 返事はない。だが、ヨルハなら気付いたはず。


「さあ……原作にない、カラス狩りを始めようか」

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― 新着の感想 ―
コメントは読まない過多なのでしょうか?設定の矛盾は誤字脱字と違って、著者さんしか判らないことなのですがね。
プルチネラ初登場の話では序列六位と表記されていました。 どちらかがミスではないでしょうか
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