20、カラスの鳴き声
プルチネッラは、スカラマシュが爆散した跡地にやってきた。
黒いスーツ上下にマント、黒い帽子にはカラスの羽が差してあり、肩にも一羽のカラスが止まっていた。
爆散地には、人間の作業員が瓦礫の撤去をしていたが、プルチネッラは気にせず中へ。
「フゥム……」
「おいあんた、危ねぇぞ。入って……って、魔族!?」
作業員の一人がプルチネッラに近づき、魔族の特徴を見て驚き悲鳴を上げた。
騒がしいのが嫌いなプルチネッラは、男を一瞥することなく指を鳴らす。
すると、上空から無数の『カラス』が現れ、周囲の人間たちに一斉に襲い掛かった。
「ギャアアアア!!」「た、助け」「いでえええ!?」
「にげ、逃げろ!!「こ、こっち来んじゃねぇ!!」
人間たちが逃げ出す。
だが、五百を超えるカラスが一斉に人間たちを襲い、食らい……一分しないうちに、辺りは静かになった。死体が転がっているが、すぐにカラスが肉を、内臓を啄み、最終的に骨は丸呑みした。
最初から、この場には誰もいなかったような跡地となる。
「……ここで、スカラマシュは何を見たのか。フゥム」
爆散地の中心へ立ち、手を地面に触れ……プルチネッラは探る。
魔力の僅かな痕跡を、そして……ここに何があったのかを。
「…………これは」
わかったことがある。
一つは、スカラマシュの魔力。
すでに残りカス以下しか感じないが、スカラマシュの魔力が爆散地にこびりついていた。
そして、人間の魔力。
「……人間のジョブ。スキル行使による魔力……フゥム。相変わらず人間の魔力は弱弱しい」
それは、海斗の魔力。
そして。
「───……ッ!!」
プルチネッラは見た。
竜人でもない、エルフでもない、ドワーフでもない、妖精でもない、人間でもない、小人でもない、獣人でもない、海人でもない、翼人でもない、虫人でもない、鬼人でもない、混血人でもない魔力。
魔人でもない、そもそもの純度が桁違いの、洗練された魔力の残滓。
こんなにも美しい魔力を発するのは、プルチネッラの数千年の経験で一度だけしか感じたことがなかった。
「ま……魔神様!!」
魔神の魔力。
魔王の骨の魔力が、僅かながら残っていた。
それを感じ、プルチネッラは膝から崩れ落ち、とめどなく涙を流し、両手を組んで祈るようなポーズを取り、口元が震えガタガタ動いていた。
「おおおおおお……!!」
魔族の悲願……『魔王の骨』を見つけた。
七つある魔王の骨、最初の一つが見つかったのだ。
プルチネッラは涙が止まらなかった。
「つ、ついに、ついに……!! 魔王の骨、一つ目、魔神様の一部が、見つかった……!! う、うううううううううう!! オオオオオオオオオん!!」
プルチネッラは絶叫した。
肩に止まっていたカラスがバサバサ羽ばたき、プルチネッラは肩で息をする。
「はぁ、はぁ、はぁ……お、落ち着け、落ち着けェェェェ……ふぅぅ」
ようやく冷静になり立ち上がる。
膝の土を払い、いつの間にか落ちていた帽子をかぶり直す。
ハンカチで目元を拭い、鼻水を拭き、咳払いをする。
「さて……盗人を探さねばな」
魔王の骨を持ち去った人間……プルチネッラは、地面に残っていた魔力を手に集め、黒いモヤを噴出させる。
すると、モヤがカラスとなり、一気に分裂……プルチネッラの上空を旋回する。
「行け……探し出せ!!」
カラスは、一斉に飛び去った。
プルチネッラは口元を歪め、眼を真っ赤に充血させ、顔中に青筋を浮かべて言う。
「人間が……人間の分際で、魔王の骨に触れ、あまつさえ持ち歩くなど……万死に値するわ!! 絶対に許さん!! この『十二執行官序列六位『鷲鼻』のプルチネッラが、必ず見つけ出して殺してやる!!」
すると、プルチネッラの肩に止まっていたカラスが飛び、ボコボコと形を変え、翼の生えた少女となりプルチネッラの前に跪く。
「我が主。このネヴァンにも捜索、そして発見次第殺害の許可を」
「構わん。ふふ……どうするつもりだ?」
「まず、見かけた人間を全て殺します。町があれば町を、村があれば村を滅ぼし続ければ、最終的にその人間は死ぬかと」
「ははは!! いいだろう、好きにやってみろ。フゥム……私もやるがね」
「では……行ってまいります」
ネヴァンは飛び去った。
プルチネッラは呟く。
「やれやれ……他の執行官と違い、私は部下がほとんどいないから、人探しなど苦手なのだがね。だが……今回は楽しませてもらおうじゃないか」
プルチネッラは、魔王の骨の略奪者……海斗を探し出すため、動き始めた。