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19、次の目的地

 ヨルハが宿屋に戻ると、晴れやかな顔をしていた。


「借金は完済だ。これでやつらの言いなりになることはもうない。自由だー!!」


 喜ぶヨルハ。従う相手が海斗に変わっただけで借金はそのままなのだが、そのことに気付いていない。

 すると海斗の手に、小さな指輪を咥えたトカゲが戻って来た。海斗は指輪をはめ、トカゲを骨に戻して指輪に収納する。


「とりあえず、これを付けてくれ」

「……なんだこれは。ネックレス?」

「ああ。ネックレスの先に、俺の力を通した『骨』が付いてる。お前に用事がある時はその骨が動くから、俺のところに来てくれ」

「わかった。では海斗殿……これより、誠心誠意お仕えさせていただく。あ、夜伽なども含めていいぞ。あの金貸し相手にやるつもりはなかったが、カイト殿は誠実そうだし構わない」

「……き、機会があったらな」


 ちなみに海斗は経験がないが興味はある……なんとなく恥ずかしいので悟られないよう、興味がないふりをして適当に返事をした。

 海斗は札束をいくつか出し、ヨルハに渡す。


「生活費だ。お前の仕事に必要なアイテムとか用意して待機。基本的には、俺の用事で呼ぶ以外は好きに過ごしていい」

「なに!? い、いいのか? 主……その、お菓子とか、ケーキとか食べても?」

「……別にいいけど」

「よし。ふふふ、実は金欠で、これまではショーウインドウを眺めるだけだった……でも、ついに食べられるんだな!!」

「……まあ、好きにしたらいいんじゃね」

「うむ!! わくわくしてきた!!」


 ハインツたちとは別の意味で、なんとなく心配になる海斗だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 城に戻り、カイトは自室で『原作知識ノート』を引っ張り出し確認した。


「えーっと……ざまあキャラ三人と、ヨルハ。ヨルハはあいつら……っていうか、俺が関わってる連中とは会わせることはない。問題はリクト……可能性は限りなく低いけど、ヨルハと遭遇したらどうなる? 仮にもハーレムメンバーだし、そのまま惚れて俺の元を離れる……可能性あるな。絶対にリクトと関わらせないようにする」


 海斗はメモをしつつ、アイテムボックスから骨を出し力を込める。


「『骨命(リ・ボーン)』」


 すると、子犬の骨、蛇の骨、カラスの骨が形となり動き出す。

 そして四つ目、子ザルの骨に力を注ぐと、急激な疲労感に襲われた。


「っぐ……やっぱ難しい。今の俺じゃ小動物三体が限界か。力を使えば使うほど、精度と使役できる骨の数は増えるみたいだし、もっと使わないとな」


 邪骨士の力を強化することも忘れない。

 サポート寄りの力。この力を使いつつ、原作知識を利用し、ざまあキャラたちと共に卑劣な手段で執行官を撃破……最終的に、魔神を倒すのが目的だ。

 だが、あまりにも足りない。


「……ぶっちゃけ、執行官は何とかなると思う。でも、魔神は厳しい……そもそも、邪骨士は魔神のジョブだし、カイトが死なないと魔神はその力を……『魔王の骨』の力を引き出せない。もしかしたら、執行官を全員倒すだけで、世界は平和になるかもな」


 海斗は、アイテムボックスから人間の二の腕のような骨を取り出す。


「『魔王の骨』か……この世界のキーアイテム。設定じゃあ、魔神の魂、魔王の骨、邪骨士カイトの死体を使うことで、この物語のラスボスになるんだよな」


 だが、カイトである海斗が、ざまあキャラではないので死亡イベントを回避した。この時点でラスボス復活は頓挫する。

 

「……これを使ったら、どうなるんだ。そもそもこれ……なんなんだ」


 魔王の骨。

 設定では『原初の魔族の骨』や『魔神を創造した魔族の骨』だのあるが、詳しいことはわからない。

 原作ではラスボス復活の道具というだけで、細かい設定は海斗もよく覚えていないのだ。

 

「……こわっ」


 急に怖くなり、海斗はアイテムボックスにしまう。

 

「とりあえず、あと少ししたらドワーフの国にある『魔王の骨』を回収しないとな。それと……執行官序列十一位『楽師』スカピーノをついでに倒すとするか」


 海斗はもう一度、『原作知識ノート』をチェックするのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 海斗は、クリスティナを部屋に呼んだ。


「で、ドワーフの国だけど……そろそろ行けるか?」

「もうちょっと待ってくださいよ……片付けなきゃいけない案件が山ほどあって、準備なんて全然できていないんですから」

「……はあ、急ぎで頼むぞ。入国許可証がないと入れないんだから」


 クリスティナは、明らかに疲労している。

 国王の失脚による代理女王として片付けなくてはいけない案件が山ほどあるのだ。それに加え、ドワーフの国へ入国許可をもらうための許可書を大量に書かなければいけない。

 海斗は言う。


「執行官を倒す算段は付いてるけど、国に入らないとどうにもならん」

「……あの、その方法をドワーフの国王に伝えるっていうのはダメなんですか?」

「無理。ってかお前だったら信じるか? ドワーフの国から『スカラマシュを倒す方法がある。この方法を試してみろ』なんて」

「……無理ですね。というか、カイトの『予知』って本当にすごいですね。他の執行官の情報もあるんですよね」

「ああ。十二人、全員分な」

「……本当にすごい」


 原作では、リクトが行く先々でハーレムメンバーと協力して倒す敵だ。

 海斗は思った。


「ところで、リクトは今どこらへんにいるんだ?」

「えっと、騎士エステルからの定期報告によると、妖精族の国に向かいながら、エルフの国を目指しているようですね」

「妖精族……序列十位『盲目』タルタリヤの管轄か。まあ、妖精族は閉鎖的な国じゃないし、入国許可がなくても通り抜けるくらいはできるな」


 ふと思う。

 妖精族の国にもハーレムメンバーはいた。

 覚醒していない、原作とはメチャクチャな行動をしているリクトが、果たして出会うのか。

 そもそも、覚醒イベント戦のスカラマシュは海斗が倒した。この先、リクトが『勇者』として覚醒することはあるのだろうか。


「……まあ、どうでもいいや。さて、クリスティナ、さっさと入国許可を取ってくれよ」

「はいはい……うう、最近睡眠不足でお肌も荒れてるし、忙しくてしぬぅ」


 クリスティナはフラフラしながら去って行った。

 やや可哀想に思いつつ、カイトは大あくびをしてベッドへダイブするのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日、カイトはざまあ三人組を呼び出した。


「「「…………」」」

「なんだよ、警戒したような目して」


 三人が海斗をジト目で睨んできたのだ。

 すると、ハインツが言う。


「訓練は真面目にやってる。今日は何の用だよ」

「ドワーフの国に行く準備をするんだ。買い出しあるから付き合え」

「はああああ? ンなもん、その辺の兵士にでも行かせればいいじゃねぇか!! なんっでオレらが」

「小瓶なら酒一本くらい買ってやってもいいぞ」

「…………し、仕方ねぇな」


 あっさり折れた。

 すると、マルセドニーが言う。


「ボクにも見返りはあるんだろうね」

「お前はない。賄賂で城抜け出して勝手にギャンブルした罰だ」

「そんな!?」

「ちなみに、お前に買収された兵士は左遷されて、田舎の国境砦の門兵にされた。お前に関わると飛ばされるって噂もバラまいたから、もう誰も買収されないぞ」

「ううううう……」

「はいはい、あたしは~?」

「お前は……なんだかなあ。なんの成長もしてないし、心の中でナメくさってんのが丸わかりなんだよな。褒美をやる価値もないというか……」

「はあああああ!? なにそれ、ふざけんな!!」

「……まあ、キャンディ一つだけな」

「はあああああ!?」


 ぶっちゃけ、目に見える変化はハインツだけだった。

 何のスキルも覚えないが、過酷な訓練で身体は作られ始めている。

 

「さ、行くぞ」


 海斗が歩きだすと、三人は渋々と着いてきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 海斗と三人は、町で買い物を終えた。

 必要な物資は全てアイテムボックスに入れ、海斗の奢りで町の食堂へ。


「好きなの頼んでいいぞ」

「マジ!? じゃああたしジャンボいちごパフェ~!!」

「メシな。デザートはなし」

「はあああああ!? 好きなのって言ったじゃん!!」

「あーもううるせえ!! オレ、キングステーキ!! あと大ジョッキエールだ!! おい、いいよな!!」

「……まあ、いいか」

「ボクは……なんでもいい。食に拘りはない」

「ねぇ、デザートいいでしょ~?」

「キングステーキ食ったら頼んでいいぞ」


 食事が始まり、ハインツは肉をガツガツ食べ、エールをぐびぐびと幸せそうに飲んでいた。

 マルセドニーは適当に日替わりランチを食べ、デザートのためにキングステーキを食べ始めたナヴィアは、半分ほど食べ顔を青くした。

 海斗は普通サイズのステーキを食べながら三人を見た。


(……変わってないと思ったけど、少しは変わったのかな)


 相変わらず、スキルは覚えないし、やる気もいまいち。


「おいナヴィア、残すなら肉くれよ」

「うっぷ……で、デザートのため、食べないと」

「キミ……吐いたりしたら、ボクでも怒るよ?」


 もしかしたら、訓練だけじゃなく……こういう、コミュニケーションの時間も大事なのかもしれないと、海斗は思うのだった。

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