2、まずは状況確認
「す、すみません。その、いきなりすぎて……」
海斗ことカイトは、今まさにこの世界の状況を説明しようとしているクリスティナを遮った。
このままではまずい。整理の時間が必要だ……と、気分の悪いふりをする。
そして、自分の視野が狭くなっていることに気付いた。
(謁見の間か? よく見るとファンタジー世界の騎士とかいるぞ……兵士に、王様か? モブキャラもいる……うう、思考を整理したい!!)
するとクリスティナが頷いた。
「確かに、いきなりのことで混乱するでしょうね……わかりました。説明は明日にしましょう。勇者リクト様、邪骨士カイト様。まずはお部屋にご案内しますね」
「あ、ああ。いやー、異世界ってすごいなあ」
(……能天気なヤツ。というか、勇者リクトはいいけど、邪骨士カイトってなんか邪悪だな)
二人は騎士に案内され、部屋へ。
部屋に案内されるなり、メイドの少女が一礼した。
「ご用件がありましたら何なりとお申し付けください」
「あ、ああどうも……」
メイドは退室。カイトはようやく一人になり、ベッドに飛び込んだ。
「あぁぁぁぁ~~~……マジで何なんだよ。俺、寝てたのに……ってかこれ現実か? 異世界……しかも、さっき最終巻読んだばかり。ってか、カイト……? 俺が海斗だから? ってか物語の世界に転生ってマジかよ……あぁぁぁぁ」
いきなりの転生、転移。
それも物語の世界。最終巻を読み終えたばかりの世界だ。
リクト、クリスティナ。そしてカイト……国の名前、地名からして間違いない。そもそも、ラノベやコミカライズの挿絵で見たままの姿だった。
海斗は、姿見があったので自分の姿を見る。
「カイトは海斗のままか……ってか、マジでカイトなのかよ……だとしたら」
このままではまずい。
カイトは拳をギュッと握った。
「カイト。原作一巻で消える『ざまあキャラ』だぞ……リクトが勇者として覚醒するためだけに存在する。でも……」
それだけじゃない。
つい先ほど、最終巻を読んだからこそ、このままではまずかった。
「一巻で消えるカイトが、まさか『ラスボス』だなんて思わないぞ。邪骨士……明らかに怪しいジョブ。一巻で消える伏線……俺、どうなっちまうんだ」
原作最終巻のラスボス。
それは、一巻で死ぬ邪骨士カイトの遺体を利用した、この世界の魔神。
このままでは死ぬ……と、思ったカイト。
「…………待てよ?」
ふと、思った。
「……そもそも、俺はカイトだけど、海斗だ。異世界モノじゃ、乙女ゲーとか物語の世界に転生して、主人公とか悪役令嬢が『ストーリー通りにしなきゃ』みたいな展開に持ち込むこと多いけど……別に、ストーリー通りなんてしなくていいんじゃね?」
確かに、カイトはざまあキャラで、まさかのラスボス。
海斗も、ストーリー通りに動かねば……なんて、一瞬だけ考えた。
だが、そこがおかしい。
「……神様とかが俺をこの世界に? 何か使命でもあるのか? ステータスオープン!! ……なんも出ないな。ってことは……俺の好きにしていいのか?」
手を突き出し『ステータスオープン』と言ってみたが、ゲームのウインドウのようなものは出ない。
ふつふつと、カイトの中で邪な気持ちが沸き上がってきた。
「……ストーリーはだいたい覚えてる。敵も、ラスボスも、リクトも、リクトのハーレムメンバーもみんな知ってるし……あれ、これってもしかしたらいける?」
そもそも、リクトのことは好きじゃなかった。
典型的な鈍感主人公。無自覚に女性を惚れさせハーレムメンバーを加えていく。最終的に全員と結婚式をし、この国の王様となる。
海斗は、姿見を眺め、ニヤリと笑った。
「……よし決めた。ストーリー通りなんてやらない。俺は俺のやり方で、この世界を救ってみるか。だったらまずやること、そして俺の力を理解しないとな」
海斗はカイトとして、一巻で消えるざまあキャラではなく、原作を最終巻まで読んだ海斗として、この世界で遊ぶ……いや、救うことを決めた。
◇◇◇◇◇◇
海斗は、カイトになりきることにした。
ただし、ストーリーは無視。そもそも、ストーリー通りに動けば海斗は死ぬ。
だったらまずやるべきことは、死の伏線を排除すること。
「あの、ちょっといいかな」
「はい」
海斗は、部屋の外にいたメイドを呼び、質問した。
「あのさ、メシとか食えるかな。その、骨付き肉みたいな」
「はい、お食事はいつでも召し上がれるようご準備しています。骨付き肉……ですね?」
「ああ、鶏肉とか、豚肉とか……できれば骨付きで」
「かしこまりました」
メイドが部屋を出て行き、海斗はしばらく待つ。
すると、カートを押したメイドが数分で戻って来た。
部屋のテーブルに、パンとスープ、サラダ、そしてメインの肉盛り合わせが置かれた。
メイドが部屋の隅で待機しているが、海斗は言う。
「あの、申し訳ないけど……少しだけ外に出てくれないか? その、あんまり人前で食事したくないんだ」
「かしこまりました。では、お食事がお済になられたらお呼びください」
怪しむことなく、メイドは下がった。
海斗は普通に食事を開始……だが、目的は食事だけじゃない。
「骨……そう、邪骨士は、骨を操るジョブだ」
鶏肉を食べ、皿には骨が残る。
ナプキンで磨き、手に乗せたまま呟いてみた。
「『骨命』」
本来は、ラスボスが使う技名。
すると、鶏肉の骨がカタカタ動き出す……が、それだけで終わった。
「あ、そうか。足りないんだ」
手元にあるのは、鶏のもも肉部分の骨。
完全に一つの《骨》として動かすには、骨が足りない。
豚の骨、牛の骨と試したが、カタカタ動くだけで動き出すことはなかった。
「死体の骨がないとダメか。ってかこのジョブ物騒すぎるぞ……墓地とかで使ったらスケルトン軍団作れるぞ。どう考えても勇者サイドの能力じゃねぇな。くそ……今は、ジョブで何かしたりはできないか」
食事を終え、メイドに皿を下げてもらう。
紅茶が運ばれて来たので味わいつつ、海斗は呟いた。
「とりあえず、一巻の内容を思いだして、これから何が起きるのか、そしてどう立ち回るか考えないとな。さぁて、俺好みのストーリー通りしてやるか」
海斗はニヤリと笑い、メイドを呼んで書くものを借り、これからどうすべきか考えるのだった。