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18、ヨルハ

 七千万ギール。

 海斗は、アイテムボックスから七千万の札束を出し、宿屋の安っぽいテーブルに置く。

 その札束を見て、ヨルハは目を充血させ、ゴクリと唾を飲む。


「お前の借金の総額、七千万……これで足りるな?」

「ま、待った。借金は五千万だ。に、二千万も多いぞ」

「闇金だろ? まずは五千万しっかり払え。そのあとで二千万多く上乗せしてくるから、そのあとに残りを出す」


 ヨルハの借金は、生活苦から手を出した闇金が膨らみに膨らんでの金額だ。ぶっちゃけ払う金額は五百万ギールほどだが、世間知らずで『借りたものは返す。返さないから借金増えた』としか考えていないヨルハにはわかっていない……そこをつけ込まれている。

 原作では、終盤にハーレム入りする展開だ。

 

(物語の終盤、もうリクトの『勇者』の力は魔族も放っておけないレベルになるんだよな。そこで執行官が女暗殺者を差し向けようと、闇金で借金重ねて苦しんでるヨルハに眼ぇ付けるんだ。で……リクト暗殺に失敗し、助けられ惚れられる)


 現在は、原作で言えば序盤もいいところ。

 執行官スカラマシュの討伐は、原作一巻の後半に入ったばかりだ。ヨルハは恐らく作者の設定にもない存在かもしれない。

 

「ゴホン……それで。拙者に何を望む? 仲間と言っていたが」

「その言葉のままだ。ヨルハ、お前の借金を全て肩代わりして、お前の今後の生活も保障する……その代わり、お前は俺の命令を聞いて動く『影』になれ」

「……影」

「得意だろう? そういうの」


 スッとヨルハの目が細くなる。

 海斗は続ける。


「まず自己紹介。俺は海斗……『救世主』って言えばわかるか?」

「……異世界、召喚者」

「そうだ。俺は、魔族を殺すために召喚された異世界人だ。いろいろあって仲間には恵まれていなくてな……使える仲間を探している」

「それで、拙者というわけか。ふむ……どこで拙者のことを知った? 貸し闇金の連中でも脅したか?」

「お前、闇金の連中にも真の実力を見せていないだろ? そこそこ強い女暗殺者、くらいで実力を押さえているはずだ。本当のお前の強さはそんなもんじゃない」

「……ふっ」


 海斗は知っている。

 ヨルハは強い。

 暗殺組織『夜行』の最高傑作。原作終盤のリクトのハーレムメンバーの中でもトップの強さを持ち、たった一人で強化されたリクトのハーレムメンバーたちと渡り合った。

 リクトに惚れて動きが鈍り戦意喪失という間抜けをやらかさなければ、ハーレムメンバーの半分以上はヨルハが殺していたはず。

 

「俺が望むのは、お前は俺の影となること。俺の命令……偵察、暗殺、情報収集をこなすんだ」

「……得意分野だな」

「ああ。それとこれは絶対に守るべきこと……お前は、俺の交友関係全てにおいて存在を知られるな(・・・・・・・・)

「え?」

「お前とこうして会っていることを誰も知らないし知られるつもりもない。今日も町でメシ食うとしか言っていない。まさか、女暗殺者に会って大金払って仲間にするなんて思いもしないだろうよ。お前の存在を知るのは俺だけだ」

「……わかった。それでいい。拙者もそれ以上は詮索しない……カイト殿、あなたを主として認め、仕えさせていただこう」

「よし。じゃあまずは闇金ときっぱり縁を切れ。それと、七千万で文句言うようなら……全員、始末して構わない」

「なに? い、いいのか?」

「ああ。もうその七千万はお前のモンで、俺はもうお前の主だ。その七千万を闇金に支払って、文句言うようなら全員殺せ」

「ふむ……まあ、問題ないな。わかった」


 ヨルハは風呂敷を胸元から出し、七千万を包むと部屋から出て行った。

 海斗は、ドアが閉まるのを確認する。


「……単純なやつ」


 闇金を殺せ。つまり……ヨルハにとって闇金の連中は簡単に始末できる程度の存在なのだ。

 だが、借金をしているという理由だけでヨルハは言いなりになっている。

 なので、海斗の七千万で借金を返し、文句を言うようなら殺せばいい。

 殺したあとは? そのまま、海斗の仲間として仕えるのだ。

 つまり……働く相手が、闇金の連中から海斗に代わるだけ。


「まあ、俺はコキ使うつもりないけど……いろいろやってもらうことはあるし、ある意味では闇金の連中よりも厳しいかもな」


 海斗は椅子に寄りかかり、右目を手で押さえて呟いた。


「『視覚共有(サードアイ)』」


 ◇◇◇◇◇◇


「五千万、きっちり払わせてもらう。これで借金は帳消しだな!!」


 ヨルハは、闇金の事務所のテーブルに、五千万の札束を置いた。

 闇金の金貸したちが二十名ほどいる。全員、悪役顔と言えばいいのか、ガタイのいい男たちばかり。だが一人だけ初老の女性……金貸しのリーダーは、札束を数えながら言う。


「確かに、五千万きっちりあるね」

「よし。これで拙者の借金は帳消しだな。長く世話になった。完済証明書をもらおう」


 ヨルハが手を差し出すが、老女は煙管に火を着け、煙をふーっと吐き出す。


「馬鹿を言うんじゃないよ。これとは別に、利息の利息が二千万残ってるよ」

「……二千万?」

「ああ。そいつをきっちり返さない限り、お前の自由なんて先の先さ」

「二千万か。それを払えばいいんだな?」

「ああそうだ。ふふ、まだまだあんたには働いて」


 ドン!! と、ヨルハはテーブルに追加の二千万を置いた。

 さすがに驚く老女。


「追加の二千万。これで返済完了だ。さ、完済証明書をくれ」


 再び手を差し出すヨルハ。すると、老女が目元をピクピクさせながら煙管をへし折った。


「ああ、悪いね……数え間違えていたよ。あんたの借金は残り三千万……そういえば、利息が昨日上がったことを言い忘れてたよ」

「それはさすがにおかしいだろう。拙者も金貸しに詳しいわけではないが、それは『ぼうり』というヤツではないのか?」

「フン。いいかい、金を貸したのはあたし、お前は借りた。つまり、あたしが納得するまで金を払い続けないとダメなんだ。そういうルールなんだよ」

「ふむ。そうか……」

「フン。わかったなら行きな。ああ、それともウチの紹介で働くかい? あんた、顔と身体は極上なんだ。一晩で数十、数百万ギールは稼げるかもねえ」


 金貸しの男たち数名が、ヨルハに近づく。

 次の瞬間、ヨルハの腕が高速で動き、近づいてきた男たちの首から血が噴き出した。


「なっ」

「なら、もうここに用はない。主の命令でな……お前たちを始末する」


 ヨルハは口元をマスクで覆い、どこからか三本の曲剣を抜く。

 一本を腰に差し、残り二本を逆手で持つ。


「ち、血迷ったのかい!?」

「いや、そうじゃない。七千万で間違いなく完済と主は言っていた。それで納得できないならお前たちを全員始末しろ、とのことだ」

「はあ? な、なにを言って……あ、主だって?」

「ああ。その七千万を貸してくれた者だ。お前たちに借金を肩代わりする代わりに、私を雇うと……最初の命令が『七千万で納得しなかったら皆殺し』だ。というわけで……死んでもらう」

「ちょ、待っ」


 話がおかしい。

 七千万で納得しなかったら殺せ。つまり、殺したあと七千万を回収したら、ヨルハはどうなる? そもそもヨルハは七千万を回収するのだろうか? 

 もし、その『主』が現れ、無傷の七千万を持って行ったら……ヨルハは、ただ働きになるのでは? 

 そう言おうと思った老女だった。

 だが、ヨルハの三本の剣が一つになり、巨大な『手裏剣』となって投擲され、老女の身体を真っ二つにし……そのことを指摘することができなかった。


「終わり!! さて、主の元へ戻るか……」


 案の定、ヨルハは七千万を放置。

 死体だけが散乱する部屋に、小さな指輪を咥えた『骨のトカゲ』が現れ、七千万を指輪に収納……何事もなかったように、骨のトカゲはその場から消えたのだった。

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