15、三人の修行
ドワーフの国へ行くといっても、すぐに行くわけではない。
ざまあキャラ三人の準備ができてから、と言ったのだが……その『準備』が全くできていない。
そもそも、三人のやる気が微妙だった。
大金をチラつかせ、やる気を煽り、スキルの一つか二つ覚えさせようよ思ったのだが……三人とも、それらしいスキルを何一つ覚えない。
海斗は、三人の訓練担当の教師、そしてクリスティナを呼び出し話をした。
まず、騎士団長タックマン。
「根本的に、根性が足りてませんな」
タックマンは大きなため息を吐く。
「脱走する新兵は珍しくありません。その都度捕まえ、罰を与え、厳しい訓練を課せば、もう逃げようなど思わなくなる。そしていずれは訓練に適応し、身体を鍛え、技を磨く喜びを知り、成長を実感……実戦を得て一人前に成長する。マークスなぞ、脱走の常習犯でしたが、今はカイト殿の知るように、近接格闘のスペシャリストとなりました」
「……ハインツは、成長がないと?」
「はい。体力に関しては新兵レベルまでは上がりました。しかし……向上心がない。素振りを教えても、百も振らないうちに飽きてしまう。何かを教えても、次の日には忘れてしまう……正直、教えがいのない生徒です。まあ……ジョブ能力者という『特権』に甘え、甘やかされた者の末路でしょうな」
「…………はあ」
海斗はため息を吐いた。
そして、マルセドニーの専属教師であり、『魔法師』のジョブを持つ図書館司書メイヤーズが、タックマンと同じため息を吐く。
「マルセドニー、あの子も同じだねぇ」
メイヤーズは六十歳。昔は『魔法師』の力で国を守護した優秀な使い手だった。今は衰え、その知識を役立てるべく、図書館司書として働いている。
何人も優秀な魔法系ジョブを持つ人材を育成してきたが、マルセドニーに関しては辛辣だった。
「あの子は頭がいい。洞察力や状況把握力、優れているけど……それを、自分のためにしか発揮できない。どう授業をサボるか、どうすれば逃げ出せるか……そんなことばかり考えている。まあ、あたしじゃなきゃ初日で逃げられていたよ。『賢者』というあたしの上位互換ジョブを持つくせに、あんなにもひん曲がっちまって……あたしも正直言うけど、アレはダメだね」
はっきりと『ダメ』と言った。
海斗は頭を掻き、ナヴィア担当の修道女、教会の『回復士』マリアンヌを見る。
「あの子は、信仰心が足りません……」
「……それは俺も思う」
「『聖女』の回復は、私や他の修道女の『回復士』とはレベルが違います。今の教会の聖女であるシンシアはやる気に満ちあふれていますが……まだ若い。能力の成長には限度があります。やはり、救世主様のお供とするならナヴィアしかいませんが……私も正直に言いましょう。あの子は甘やかされすぎました。自分で何かを成し遂げたことのない、誰かが何かをしてくれることが当たり前。着替え、髪の手入れですらしたことがない。あれほどの甘ったれクズを、私は見たことがありません」
「そ、そうか」
ちょっと怖い……と、海斗は思った。
タックマン、メイヤーズ、マリア。原作にはほぼ名前だけのキャラたちに任せてみたが、三人の成長はどうも悪い。
海斗は考え込む。
(そもそも、三人は一巻で消えるキャラ。成長が設定されていない? 名前だけのジョブは名前だけで、スキルは存在しないってことなのか? でも、目の前にいる名前だけのキャラクターは、しっかりジョブもあるし、スキルもある……単にやる気の問題? ああくそ、わからん)
すると、クリスティナが挙手。
「あの、カイト……横領金なんですけど、本当に三人にあげるんですか?」
「そんなわけないだろ。やる気を出させるためのエサだよ。ちゃんと返すって」
「ほっ……」
クリスティナは、やや顔色が悪い。
理由は察する。実の父が国民から集めた金を横領し、国を脱出して他国で老後を送ろうとしていたのだ。その後処理や、国王代理としての仕事が忙しいんだろう。
その手腕から、次期女王として期待されているようだ。父の不正を暴いた娘を、貴族たちは支持しているようだ。
クリスティナは言う。
「カイト。ドワーフの国へ行く話だけど……もう少し待ってくれる? 執行官が消えたことで、後始末が多くて。まだ入国手続きが終わってないの」
「わかった。じゃあ、物資の用意もしておいてくれ。頼んだ物を忘れんなよ?」
「ええ……ねえ、本当にドワーフの国の執行官を倒せるの?」
「ああ。ハメ技、卑怯技でな。くくく」
「……怖いわよ」
海斗が、スカラマシュ討伐をしたことは、タックマンたちはもちろん、貴族の間で広がっていた。
これから税が軽くなり、魔族の監視もなくなり、自由を取り戻せると、皆が救世主を、海斗を支持するようになっていた。
メイヤーズが言う。
「ドワーフの国を管理する『十二執行官』……確か、序列十一位『盲目』タルタリヤだったかねぇ。本当に、何とかなるのかい?」
「ええ。執行官の情報は、全て頭にある」
「……恐ろしいねえ。その情報、開示しないのかい?」
「ええ。国内にいる裏切者に知られたら面倒くさいですから」
そう言うと、空気が凍った。
海斗は知っている。この先登場するキャラクター、その背景、裏切者……わずかでも、情報を開示することで敵の耳に入ることを、海斗は良しとしていない。
海斗は言う。
「ああ、デラルテ王国にはもういませんよ。ドワーフの国にいる『あるキャラクター』が裏切るってことです」
「「「「…………」」」」
「あれ、どうしたんです?」
「……カイト。あなたを敵に回さなくてよかった、って思ってるのよ」
クリスティナは、けっこうドン引きした目で海斗を見ていた。