閑話①/リクトの行方
リクトは、エルフの少女トトネを連れてエルフの領地へ向かっていた。
「エルフの領地って遠いんだなー、なあトトネ」
「うん。遠い」
トトネは、エメラルドグリーンの髪、瞳、とがった耳を持つエルフ。先日までボロを着ていたが、今は薄手のワンピース、サンダルを付け、長い髪も整えていた。
リクトが、海斗からもらった準備金で買った物。その途中で、この世界の地図なども買い、エルフの領地が人間の国デラルテの反対側にあることも気付いた。
普通に歩けば一年はかかる。さらに、領地間の移動も難しいところがある。
現在、リクトは十二ある領地の一つ、妖精族の領地にいた。
「妖精ってすげえよな。ほら、みんな子供みたいだ。それにトンボみたいなハネ生えてる」
「……それ、妖精に言うと怒る。侮辱」
「お、おう。ごめん」
「……リクトってデリカシーない?」
「え!?」
後退りするリクト。がっくりと肩を落とす。
だが、すぐに背筋を伸ばした。
「いかんいかん。エルフの国まで遠いんだ……なあトトネ。オレさ、異世界から来て常識知らねぇんだ。いろいろ教えてくれよ」
ニカっと微笑むと、トトネはクスっと微笑んで頷いた。
「うん。リクト、いいヒトなのは知ってる。だから私が助けるよ」
「ははは。こう見えてオレ、『勇者』なんだぜ。守るのはオレの仕事さ」
「でもリクト、ぜんぜん強くない」
「うぐう……」
リクトは未だに『勇者』のジョブが何なのかわからない。ジョブも一つも得ないし、腰に差した剣は振り回すことしかできない。
がっくり肩を落とすと、トトネは言う。
「任せて。私、『精霊魔術師』のジョブあるから。フツーの魔法師より全然強い」
「……え? そうなの? じゃあ何で捕まってたんだ?」
「……人間の魔法に『ジョブ封印』っていうのがあるの。人間はエルフの天敵」
「……知らんかった」
「でも、人間はひ弱。鬼族には負ける。エルフの精霊魔法はドワーフに効く。十二の種族は、それぞれ弱点と強みがある」
「へえ~」
なんとなく、リクトはゲームの『得意属性』や『弱点属性』みたいな物かと思っていた。
そして、歩きつつ思う。
「じゃあ、妖精族の弱点は?」
「小人族。それよりリクト、人間の女が追って来るけど……知り合い?」
「へ?」
トトネが振り返り、リクトも振り返る。
それから数分後、なんと一人の少女が走ってきた。
金髪のロングヘアをお団子にし、騎士鎧を装備し、腰に剣を差した女の子が、息を切らせながら走って追いかけてきた。
そして、リクトの姿を見つけると、汗だくの顔を歪めて喜び、リクトに抱き着いた。
「リクト!!」
「うおおお!? え、エステル!? な、なんでお前がここに……!?」
「なぜ勝手にいなくなった!!」
「え、あ」
「全くお前は……もう一人の救世主に聞いたぞ。奴隷の少女を送り届けるために、エルフの領地へ向かったと!!」
「あ、ああうん」
「ね、リクトに女騎士さん……すごく目立ってるけど」
と、ここが妖精族の町で、しかも往来ということに気付いた。
リクトとエステルは顔を見合わせ、周りにペコっと頭を下げ、トトネの手を掴んで走り出した。
◇◇◇◇◇◇
三人は、宿屋へ。
三部屋取り、三人はリクトの部屋に集まった。
リクトはエステルに聞く。
「いやー、よくここがわかったな」
「デラルテ王国から行けるルートは、ドワーフの国か妖精族の国のどちらかだけ。ドワーフの国は入国審査が厳しく、妖精族の国は素通りできる……エルフの国に向かうならこっちのルートしかないと思っただけだ」
「なるほどな。で……なんでお前が?」
エステルはため息を吐いた。
「お前は自分の立場を理解していないのか? お前は、デラルテ王国が召喚した救世主だ。奴隷を送り届けるという理由だけで、自由にさせるわけがないだろう」
「あ、ああ……そりゃそうだよな。じゃあ、連れ戻しに?」
「……それもある。だが、監視と護衛がメインだ。どうせ、その子を送り届けるのをやめるつもりはないだろう? それに……救世主に命令できる立場ではないからな」
「エステル。じゃあ一緒に来てくれるのか?」
「ああ。ただし、エルフの領地に行くまではかなり過酷だぞ。道中、私がお前を鍛えてやる」
「ああ、頼むぜ!! へへへ、これでオレの『勇者』も覚醒するかもな!!」
「……ね、女騎士さんも一緒?」
「エステルでいい。キミは?」
「トトネ。エステルは、リクトの恋人?」
「え!? ちち、違う!! わ、私は彼の剣の師匠で」
「ふーん」
トトネは微妙なジト目でエステルを、そして理解できず首をかしげるリクトを見た。
「コホン!! とにかく、私のジョブは『剣士』だ。戦闘は任せておけ」
「私もいるよ。私は『精霊魔術師』だから」
「……オレ、『勇者』だけど……まだ不完全」
こうして、リクトは二人の仲間を連れ、妖精族の国を進むことになった。
エステルはこれからの方針を語る。
「とにかく、エルフの領地までは遠い。なるべく目立たないように進むぞ」
「え、なんで? せっかくの妖精族の国だぜ? いろいろ見たいぜ」
「馬鹿。忘れたのか? 十二の国はそれぞれ、十二執行官が支配している……お前はデラルテ王国が召喚した『救世主』だ。真の力が覚醒するまでは目立たない方がいい」
「……ボスキャラかあ」
リクトはどこか嬉しそうに、ウンウン頷く。
どうも緊張感に欠けているのか、エステルは言う。
「妖精族の国は、『十二執行官』序列第十位『盲目』タルタリヤが管理する国だ。言っておくが、魔神が直々にジョブを与えた魔族の強さは、一国を容易く滅ぼすぞ……お前の行動次第で国が消えることもある。忘れるな」
「お、おう」
未だに、魔族の強さがぴんと来ないリクトなのだった。