14、とある紳士
ある地域にある森の最奥に、ボロボロの古城が存在した。
そして、その古城を根城に、一人の中年男性の眉がピクリと動く。
「…………フゥム?」
男は、三十代後半ほど。
白い肌、七三分けの銀髪、フチなしの眼鏡をかけ、服装は貴族が纏うパーティー用の礼服であり、両手には金色の指輪が全ての指にはめられていた。
何より目立つ、最大の特徴……それは、大きな鷲鼻。
口ひげ、顎髭、鷲鼻と目立つ容貌をしている。
ボロボロの椅子に座ったまま、ひじ掛けに止まっていた小さなカラスを指で撫でる。
「……ホホゥ。スカラマシュが……逝ったのですネェ」
男もまた、魔族。
カラスを指であやし、顎髭を手で弄りながら言う。
「誰が、どうやって? フゥム……スカラマシュは『人間』担当。まさか、人間? そういえば……人間は百年定期で、魔族も多少驚くジョブ能力持ちが現れるとか。フゥム、まさか……人間に負けた?」
男は、人間の領地デラルテからかなり離れた場所にいるはずなのだが、スカラマシュの死を正確に理解していた。
「フゥム、まあどうでもいいことなのだが……少し引っかかる」
男が指をパチンと鳴らすと、数匹のカラスがどこからか現れた。
男のとがった耳に向かってキィキィ鳴くと、男は「フゥム」と顎髭を撫でる。
「数週間……ずっと居住地で女遊びをしていたが、急に出かけた。月初めの視察……これまでは数日遅れるのが当たり前だったのに、今回はきちんと出かけている。フゥム……なぜ?」
男は、スカラマシュを分析する。
序列十二位。執行官で最弱。時間にも女にもルーズ。同じ執行官だが誰も認めていない。
そんなクズが、今月になって視察をまともに、ちゃんとした時間に行った。
その理由は?
「…………ほかに、目的が、あった」
男は、言葉を切りながら確認するようにつぶやく。
魔族の目的、それは一つしかない。
「『魔王の骨』……まさか、人間界に?」
トントン、トントンと、男はひじ掛け部分を指で叩く。
カラスが数匹、その指にじゃれつく。
「…………フゥム」
魔王の骨。
それは、魔族にとって最重要アイテムであり、集めることが至上の命題とされている。
全部で七つ。現在に至るまで、どの部分も発見されていない。
わかっているのは、『魔神』が集めろと命令したこと、そして骨は世界のどこかに存在するということ。今、魔族はその骨を探すため、世界中を捜索している。
「…………」
男は指を鳴らすと、空間に穴が開き、小さなカラスが現れた。
そのカラスがキィキィ鳴くと、男の眉がピクリと動く。
「爆死、か。フゥム……この地に、スカラマシュは向かった。なぜ? あのクズが、金も女も関わらないような廃教会へ? 何をしに? ああ……そういう、こと、ですか」
男は立ち上がる。
そして、手元に無数のカラスが集まると帽子に、背中にカラスが集まるとマントに、手を差し出すと漆黒のモヤが集まりステッキになった。
「スカラマシュ。あなた……見つけたのですね? 『魔王の骨』を。そして、その地で罠にかかり死んだ。つまり……あなたを倒した何者かは、『魔王の骨』を知っている。そして、スカラマシュを罠に嵌めて倒した。フゥム……この推測、当たっているでしょうかねえ」
男はどこか面白そうに、口元を歪め、鷲鼻を軽く撫でる。
「ワタシが出向く価値はある。人間の国……フゥム、さてさて、何が起きることやら」
男……『十二執行官』序列六位、『鷲鼻』のプルチネラは、ゆっくりと歩き出した。