12、十二執政官・序列第十二位『短気』なスカラマシュ②
スカラマシュが向かったのは、ボロボロの廃教会だった。
側近の女性魔族たちと着陸すると、汗だく、肩で息をしていたクリスティナが、青い顔で笑顔を浮かべて跪いていた。
「ここか」
「はい!!」
視線も向けずに首を傾げるスカラマシュ。
クリスティナは笑顔を浮かべていたが。
(な~にが案内しろよ!! 場所知ってんじゃない!! 無駄に走らせて……ほんと最悪!!)
スカラマシュは、クリスティナなどどうでもいいのか歩き出す。
付いて行こうと立ち上がろうとすると、側近の女性が言う。
「誰が動いていいって言った?」
「あのね、ここから先は魔族の大事な領域」
「悪いけど、待っててね子豚ちゃん?」
「は、はい!!」
側近たちも教会内へ。
一人ポツンと、クリスティナは残されるのだった。
(……え、私、なんのためにここに来たの?)
◇◇◇◇◇◇
スカラマシュは教会内に入り、軽く周囲を見渡した。
「探せ」
「「「は~い」」」
荒れた教会だった。
かつて、魔神と魔族が世界を支配する前、祈っていた神が掲げてある。
倒壊していないのが不思議な教会。スカラマシュはどうでもいいのか、軽く欠伸をした。
『魔王の骨』
何か、聞こえて来た。
一瞬で背筋が伸び、目を見開き、周囲を探る。
『始まりの魔族、大いなる力、魔神の創造主……いろんな言い方があるなあ』
「……あぁ?」
すると、側近の魔族が戻って来た。
「スカラマシュ様、ありません!!」
「い、いくら探しても……」
「ほ、本当にここにあるんですか?」
「黙ってろ!!」
そう、スカラマシュが怒鳴りつけた時だった。
『──……着火』
次の瞬間、地面が膨れ上がった。
スカラマシュが理解したのはそこまで、視界が黒く塗りつぶされた。
◇◇◇◇◇◇
「──………」
「やあ、執政官スカラマシュ……気分はどうだ?」
スカラマシュが目を開けると、誰かが顔を覗き込んでいた。
少年だった。黒髪の、整った顔立ちをしているわけでもない、平凡な少年。
フード付きのコートを着ており、なぜかニヤニヤしている。
「おまッ、っごぶっふぇ!? あ、ぁ……?」
身体が動かない。
スカラマシュは喉奥からせり上がって来た不快な何かを吐き出すと、それは真っ黒な血だった。
何が起きたのか。少年……海斗は言う。
「原型が残ってるの、お前だけだぞ。お前の部下は粉々に砕け散ったのに……ああでも、お前ももう終わりだ。見えるか? お前の心臓」
「───っ」
心臓。
そう言われ、スカラマシュはようやく見えた。
魔族の弱点である心臓に、ナイフが突き刺さっていた。
そしてようやく気付く。
今の自分の状態……腰から下が消失し、左腕は肘から、右腕は肩から消失。真っ白な肌は焼けただれて黒くなり、全身がほぼ炭化していた。
「な、な」
心臓を破壊された影響か、身体が徐々に風化していく。
魔族は、心臓を破壊されると死ぬ。心臓さえ残っていれば、たとえ手足が吹っ飛んでも、魔力によって修復はできる。
だが、今のスカラマシュはもう、再生もできない。
「残念だったな。魔神から貰ったジョブを使うこともなく、俺の策にハメられて、戦うことなくお前は死ぬ……くくっ」
「て、めえ……なんで!! なんでここが!? 何をした!?」
「発破石」
海斗は、答えだけを先に言った。
ポカンとするスカラマシュ。
「お前がここに『魔王の骨』を探しに来ることは知っていた。だから事前に『魔王の骨』を取り出して、地下の隠し部屋いっぱいに発破石を置いたんだよ。で、お前たちが発破石の真下に集まった時、発破石を設置する時に置いていた『骨』のトカゲに火種を持たせて着火させた。結果はまあ、見ての通り」
廃教会は、核ミサイルの直撃を受けたように陥没していた。
傍では、爆風を受けてドレスがボロボロになったクリスティナが、唖然とした状態で爆心地を見ている。
「残念だったな。これで、人間の国デラルテは解放された」
「っは、はは!! 解放だぁ!? ふざけんじゃねぇ!! ってかなんでここに『魔王の骨』があること知ってんだ!? オレですら報告を受けたのは今日、ついさっきだぞ!?」
「俺は知ってんだよ。結果は見ての通りだろ?」
「は、ははは!! んなわけあるか!! それにテメエ……終わったぞ。オレが死んでも、代わりは」
「いないね。そもそも魔神はここ数百年、お前たち魔族の前に現れていない。お前たちは最後の言葉である『魔王の骨』を探せって指示を数百年かけてやってるにすぎない」
「…………なん、で」
「ははははは!! 俺はな、知ってるんだよ!! お前たちの目的も、何もかもなあ!!」
海斗は笑った。
楽しかった。あまりにも、物語通りだった。
歪めたストーリー通りに、戦いとは無縁の世界にいた海斗が、執政官の一人を追い詰めている。
海斗は、ハイになっていた。
「俺は、『十二執政官』を倒して世界を開放する。お前が最初の一人だ」
「く、そが……」
「さらに知ってるぜ。執政官同士は仲良しこよしってわけじゃない……お前が死んだところで、物語に影響なんてない」
「…………」
サラサラと、スカラマシュの身体が崩れていく。
「ああ、最後に見せてやる……こいつが、魔王の骨だ」
海斗はバッグから『右腕の骨』を見せる。スカラマシュは目を見開き、もう存在しない腕を伸ばすように身体を揺らし……そのまま、消滅した。