表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/113

テンプレに従わない異世界無双

 『魔王の左腕』を使った瞬間、海斗の視界が塗りつぶされた。

 眼を開けると……真っ白な空間に立っていた。


「……え?」

『や、海斗』


 ゾクッとした。

 いきなり背後から声。振り返るとそこにいたのは……完璧なまでの『人骨』だった。


「うおぁぁぁ!?」


 人生で一番驚いた。

 理科室にあるような人骨模型が、カタカタ揺れながら動いていたのだ。

 何歩も下がる。武器を探したがない。アイテムボックスも開けない。

 『無限骨重(グラヴィオン)』を使おうとしたが、スキルが発動しない。

 自分の手を見て驚くと、人骨は言う。


『まあまあ、ぼくは敵じゃないよ。むしろ、味方かなあ?』

「……骨。なんだ、お前……リクトは?」

『安心して。ここはきみの内面……心の中。勘のいいキミは、もう理解できるんじゃない?』


 海斗は、人骨をジッと見てハッとする。


「お前、まさか……『魔王の骨』

『大正解。そう、ぼくはキミが取り込んだ魔王の骨、その意思だよ』

「はあ? 魔王の骨に意思って……そんなの」

『原作にもない、かな?』

「……お前、一体」


 警戒する。

 すると、人骨は言う。


『魔王の骨、大いなる意思、力の結晶、世界を変える力、始まりの魔族の骨……まあ、いろんな言い方があるね。そうだなー……ぼくのことは、狂骨とでも呼んでくれよ。それと、この格好じゃイマイチ決まらないかな? そーれっ』


 人骨こと『狂骨』がクルっと回転すると、マントに王冠が現れた。


『あっはっは。いいねこれ、海斗、キミの記憶から使わせてもらったよ』

「……俺の、記憶?」

『うん。「おれよろ」だっけ? どうやらぼくという意思のことは、触れられていないね』

「……なっ」

 

 狂骨はピンと指を立てる。


『この世界の魔神が生み出した最初の魔族、その骨……それが、ぼくという存在で、設定だ。つまり、ぼくは『力』なんだよ』

「意味が分からん。なんだよ、それ」

『設定の話さ。ぼくは物語において、ラスボスの力として存在する力。そして、原作では触れていない、魔王の骨にある力という意思。わかるかい? 本当に偶然なんだよ。この世界は「おれよろ」の世界だけど、実際にある世界……海斗の世界にある『原作』と同じ歴史、同じキャラが生きる世界なんだ』

「……そんな世界、あるわけ」

『ある。もしかしたら、何十年、何百年、何千年後かに、この世界の小説家が、『日本で生まれ育った少年の人生』みたいな物語を書くかもしれないよ? 海斗の世界のだれかが、この世界で生まれた小説みたいな人生を歩むかもしれない。つまり、この世界と、海斗の知る世界の小説の内容は、奇跡みたいな確率で起きた、偶然なんだよ』

「…………」


 そんな馬鹿な、と海斗は思う。

 「おれよろ」の世界は、海斗の生まれた日本のラノベ作家による創作。

 だが実際は、異世界という場所で、実際にあったこと。

 ラノベの内容、登場キャラクターが偶然一致し、ラノベのストーリー通りに進んでいるだけ。

 そういう、奇跡以上の偶然。


「……アホすぎる」

『だね。まあ、ラノベの世界じゃあ、ぼくはただの力で、ぼくという意思は存在しないんだけどね。それに、ラノベと違うのは、リクトは魔族を悪としか思っていない。うまくいってるように見えても、リクトからしたら魔族は消すべき対象ってことかな。きっとリクトは、海人のために、魔族を滅ぼすよ。それを海人が望んでいなくてもね』

「……クソ野郎が」


 海斗は歯を食いしばる。

 そして、狂骨をジロっと見た。


「お前、結局なんなんだ」

『だから、力さ。ラノベ世界じゃあ、魔神エレシュキガルの力の根源だけどね。でも……今は、キミの力だよ』

「……俺の?」

『うん。海斗、きみはこの世界で、きみの物語を歩めばいい。テンプレになんか従わなくていいし、ラノベ通りの歴史を歩むわけじゃない。だって、ラノベのストーリーと、この世界の歴史は違うんだから。偶然、同じような歴史を歩んでるだけ……未来を作るのは、今を生きてるヒトだけだ』

「……俺は」

『海斗。もう一度言う。ぼくは力。確かに……魔神エレシュキガルの器として、きみは相応しいよ。魔神の魂が注入されたら、きみは消えて、ぼくの力はエレシュキガルが使うことになる。でも……今、この瞬間は、きみの力だ』

「…………」

『海斗。ぼくを好きに使うといい。テンプレに従わないで戦えばいい。さあ』


 狂骨は、海斗に手を差しだす。

 海斗は、その手を掴む……まるで、握手するように。


「……俺は、リクトを潰す。あんな偽善者に世界を救わせない。俺が、俺のやり方で、テンプレになんか従わないで、この異世界を救ってやる」

『うん。がんばって海斗。ぼくはずっと、きみの傍にいるよ』


 頭蓋骨の眼窩が、笑ったように歪んだ。

 恐ろしいはずなのだが、海斗はなんだかおもしろく、つい笑っていた。

 

「ははは……じゃあ、使わせてもらうぜ」


 狂骨が粒子となり、海斗の身体に吸収される。

 海斗は両手を交差させる。


「第四の権能……『王骸武装(おうがいぶそう)』!!」


 ◇◇◇◇◇◇


 海斗の身体に異変が生じる。

 『幻骨』で、巨大な人骨が虚空から現れた。

 そして、身体中の骨がバラバラになると、海斗の身体に吸収されていく。

 骨の形状が変化し、まるで鎧のように海斗の身体を武装する。

 肌の露出が一切ない、人骨の鎧。

 魔王の骨、第四の権能『王骸武装(おうがいぶそう)』の力で、海斗は本当の意味で、戦う力を手に入れた瞬間だった。

 海斗は、リクトを指差す。


「リクト、お前に、この世界を救わせはしない。この世界は……俺が、俺のやりかたで救う」

「……はっ、カイト、今のお前の姿、まるで魔王だぜ」

「……はははっ、魔王ね」


 バキバキと、周囲の砕けた骨が復活し、立ち上がる。

 

「魔王……それいいなあ。じゃあ今日から俺は魔王カイト。この世界で悪さをする神と、偽善でしか動かない勇者を殺す、魔王になってやる」


 テンプレを無視し、最強の力を得て無双する。

 邪骨士、そして『魔王』となった海斗。

 

「さあ……ここからのストーリーは、俺が作る!!」


 魔王と勇者の戦い。

 まだ見ぬ執政官、そして残りの魔王の骨。

 魔神エレシュキガルの復活、海斗の未来。

 海斗の物語は、これからも続く




 ◇◇◇◇◇◇




 ◇◇◇◇◇◇




 ◇◇◇◇◇◇




 この勇者と魔王の戦いから一年後。


 勇者と魔王は相打ちになり、勇者リクトは二度と立ち上がることはできなかった。


 魔王は姿を消し……それからさらに一年後、執政官『黄金』が討伐された。


 そして、『狂医』が倒れ、『恋人』が倒れた……倒したのは、無数の骨を操る何者かと、その何者かに付き従う黒衣の部下たち。


 最後の執政官『道化』は、自分を依代に『魔神』を降臨させた。

 

 不完全な降臨だった。魔王にとって、魔神を殺す絶好のチャンスだ。

 

 それでも、魔神は強烈だった。

 

 傷つきながらも、魔神を倒し……魔王は願った。


「勇者リクトを、この世界から追放してくれ」


 デラルテ王国で眠っていたリクトは、忽然と姿を消した。

 

 その後、ハーレムメンバーたちによる捜索もむなしく……リクトは消失した。




 ◇◇◇◇◇◇




 ◇◇◇◇◇◇




 ◇◇◇◇◇◇



「はあ……」


 クリスティナは、二十歳となった。

 女王として、デラルテ王国で毎日忙しく政治を行っている。

 窓から外を見ると、騎士団が稽古をしているのが見えた。


「おらおら、気合い入れろや!!」

「「「はい、隊長!!」」」


 騎士団の第一部隊隊長となったハインツは、部下に気合いを入れていた。

 そして、王城内にある図書館司書となったマルセドニーが「うるさいな……」と言いつつ訓練場を通りかかり、シスター長となったナヴィアが「マジそれ」と同意する。

 クリスティナは微笑む。


「執政官が全て倒れて、世界に平和が戻りました……かあ」


 四年前……海洋国オーシャンでの海斗、リクトの戦いは苛烈を極めた。

 海斗はリクトを再起不能まで追い込み、「あとを頼む」と姿を消した。

 ツクヨミ、クルル、イザナミを連れ、その場から消えた。


「……カイト」


 それからだ。

 執政官が次々と消え、世界が解放され始めたのは。

 ストーリーに従わない……いや、ストーリーなんて存在しない。

 海斗は、『魔王』として執政官を倒し、さらに魔神すら倒したのだ。

 そして……リクトを、召喚した元の世界へ返した。ハーレムメンバーたちに無断で、この世界に不要だとでも言うように、いきなり。


「はあ……」


 噂によれば、執政官『道化』の管理していた世界の中心にある都市に魔族を集め、そこを王都として、魔族の国を作っているそうだ。

 海斗は、魔王として、この世界に残り魔族を救う道を選んだのだ。


「海斗、元気かな……ふふ」

「何黄昏てんだ、お前」

「いや、もう海斗に会えないのかなって……もう一度、お話して……へ?」


 窓から振り返って正面を見ると、海斗がいた。

 黒いコートを着て、身長も伸び、身体付きもがっしりしている。

 傍には、見たことのない少女が数人いた。


「よう、クリスティナ」

「……えと、カイト?」

「おう。魔王カイト、でもいいぞ。今じゃ一国の王様だ」

「……すみません。えと、頭が爆発しそうなんですが」

「リクトは帰ったか? 魔神を倒した時に発生した力を利用して、逆召還をした。リクトを地球に送り返したんだが、ちゃんと消えたよな?」

「え、ええ。その、大騒ぎになりましたよ。リクトのこと好きな女の子たちが、みんな一斉にいなくなっちゃって……今でも、探してるのかも」

「まあどうでもいい。とりあえず、茶でも出してくれ。喉乾いた。ああ、コイツラの分もな」


 ヨルハ、カグツチはウンウン頷く。


「そ、その二人は?」

「部下。というか、護衛でもあり、『魔王親衛隊』の部隊長だ。今日、ここに来るって言ったら無理やり付いて来た」

「……あの、マジで頭おかしくなりそうなんですけど。ほんとに、カイト?」

「そうだっつってんだろ。とにかく茶、あと、魔王として、デラルテ王国の女王様とお話したいんだがな」

「ど、どんな話ですか?」

「そうだな……女王と王様同士、後継者問題もあるだろ? その話をした時、お前のこと思い浮かんだ。まあ、俺とお前の子供なら、それぞれ人間の国、魔族の国と王に相応しいだろ」

「言っておきますが、あくまで後継者問題!! 主の『愛』は平等ですので!!」


 ヨルハが言うと、カグツチもウンウン頷く……どうやら海斗は魔界で楽しくやっているようだ。

 クリスティナは、大きくため息を吐く。


「いきなり後継者の話ですか。私が結婚してるとは思ってないんですか?」

「ないな。お前みたいな不幸女、男はみんな嫌がるだろ」

「ひどい!! ってか、うううううう……微妙に否定できないのがムカつくう!!」

「ははっ、とにかく、デラルテ王国と、魔族の国の未来について、話そうぜ」

「……もう、カイトの馬鹿!!」


 クリスティナは、笑顔で立ち上がり、海斗に飛びついた。

 その後、海斗はクリスティナと結婚……双子が生まれた。

 一人は魔界へ。もう一人は人間の国で王となった。

 遠く離れていたが、どういうわけか、海斗は普通に遊びに来た。

 魔界でも、親衛隊の女子との間に子供が生まれたりと、海斗は楽しくやっている。

 海斗は、こんなことを言っていた。


「リクトのこと、悪く言えないな。ハーレムなんて最悪と思ったけど……まあ、悪くない」


 平和になった世界で、『魔王』にして『邪骨士』、異世界転移者である海斗の物語は続いていく。

最終話です。

唐突な展開で申し訳ございません。

まだまだやりたいネタ、ストーリー展開、登場キャラクターなど出したかったですが、次回作に力を注ぐため、この物語はここで終わらせたいと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~
レーベル:GA文庫
原著:さとう
イラスト:山椒魚
発売日:2025年 5月 15日
定価 863円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
iafemxj63vzbenw1cozh6eykl32_k9p_k8_sg_2x9u.jpg



お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
なんか打ち切りみたいになってしまったが、投げっぱなしの作品が多い中、キチンと終わらせてくれたのは、好感は持てました。 次回作も期待しています。
急に終わるやん・・て思ったけどグッドエンドで安心した。打ち切りでも完結させてくれて感謝感謝!正直ネクロマンサーみたいなことして甦らせたりするのかなって実はちょっと期待してたけど、さすがにそんな虫が良す…
お疲れ様でした。 正直、ここからの盛り上がりに期待していたので残念ですが、次回作を楽しみにさせていただきます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ