救世主『偽善』の勇者リクト②
無数の骨に、海洋国オーシャンの中央広場は支配された。
その中央に立つのは海斗。怒りに顔を歪め、リリの治療で回復したリクトを睨む。
リクトは立ち上がり、海斗に向かって叫んだ。
「な……何しやがる!!」
「うるせえ!! テメエ……何したかわかってんのか?」
「はあ? 魔族を、執政官を倒しただけだろうが!! オレは、魔族からこの国を解放しようと」
「ふざけんじゃねえ!! 偽善者が……何も見えてない、てめえの善悪だけで物事を測るクズ野郎が!! 見てわかんねぇのかよ!!」
「はあ?」
リクトは、見えていない。
魔族の母親が、子供を抱いて震えて泣いている姿が。
魔族は悪……それだけで、自分の想いだけで、全てを断罪しようとする『偽善者』が海斗の目の前にいる。あまりにも胸糞悪く、吐き気がした。
すると、シャイナとネヴァンが海斗に向かって来た。
「!!」
「リクトに手ぇ出すんじゃねえ!!」
「オマエ、ブチ殺してやる!!」
海斗は骨を操作。だが、ネヴァンもシャイナも骨を蹴散らす。
(強くなってやがる!!)
海斗はナイフを抜き、ネヴァンに右手を向けた。
「『無限骨重』!!」
「あがっ!?」
ズドン!! と、飛んでいたネヴァンが地面に激突した。だが、海斗も動けない。
すぐにスキルを解除するが、シャイナは目の前で拳を振り上げていた。
海斗はククリナイフを向けるが、あっさりと拳で砕かれる。
「ごはっ!?」
「へ、格闘できんのか? アタシに付いてこれるか!!」
マークス仕込みの格闘技で対応する。だが、海斗の側面から緑色の炎が向かって来た。
「あなた、前から嫌いだった」
「!!」
エルフのトトネによる『精霊魔法』だ。
そしてさらに、オーミャが槍を手に向かって来た。
「園長先生が魔族だったなんて……でも、友達は殺させない!!」
「くっ……」
馬鹿が勘違いしている。と、海斗はオーミャを睨む。
すると、起き上がったネヴァンが上空へ飛びあがり、急降下してきた。
そのまま、海斗に向かって飛び蹴りを放つ……回避できず、海斗はバックステップで後ろに飛び、蹴りの威力を最小限になるよう守る……が。
「ぐ、ぁっ!?」
凄まじい威力だった。
リクトがハーレムメンバーたちに向かって、聖剣を向けていた。
勇者のスキル『鼓舞』により、強化されていた。
海斗は吹っ飛び、神像に激突する……だが、すぐに起き上がる。
「『幻骨』」
先端が尖った大腿骨が数百本、浮かんでいた。
十秒で消える。その前に、海斗は手をリクトに向ける。
「『牙骨豪雨』!!」
一斉に発射された骨。だが、ハーレムメンバーたちは素手て叩き落とす。
エステルが剣を振って骨を叩き落とし、海斗に向かって接近。
海斗は予備のククリナイフを抜き、エステルの剣を受け止めた……が。
「無駄だ」
ククリナイフが砕かれ、蹴り飛ばされる。
再び地面を転がり、ネヴァンが蹴りを、エステルが剣を、シャイナが拳を振り、後ろではオーミャが、そしてトトネが魔法を発動しようとしていた。
(クソ……)
このままでは敗北する。
そう、思った時だった。
「なっ」
「む……!?」
「チッ……」
ネヴァンの蹴りを蹴りで受けとめた。
エステルの剣を、同じ剣が受けとめた。
シャイナの拳を、交差した両腕で受けとめた。
「ハハッ!! やっぱ来て正解かあ? なあ、カイト!!」
「……敵なのか、カイト」
「あの、暴力はダメだと思います!!」
ツクヨミ、イザナミ、クルルが現れた。
そして、その間を割り込むように、つかつかとクリスティナが現れる。
「いったい、何を、してるんですかああああああああ!!」
そして、絶叫した。
◇◇◇◇◇◇
海斗は身体を起こし、口の中の血を吐き出した。
「下がってろ……リクトは、このクソ偽善者は、俺がここで始末する」
「「「……っ」」」
ツクヨミ、イザナミ、クルルは息を呑んだ。
海斗の殺気が尋常ではない。
クリスティナも息を呑むが、意を決して言う。
「カイト、何があったんですか?」
「リクトのクソ野郎が……執政官インナモラティを始末した。そして、この国の魔族を……!!」
「……えっ」
クリスティナは知っている。
インナモラティは、海人と魔族の橋渡しを上手くやっていた。海人も感謝しており、互いに協力関係がしっかりできていた。
すると、リクトが言う。
「執政官インナモラティは、人身売買してたんだ。言ってたぞ、海人を他国に売りさばいていたって」
「クズ野郎が!! それはインナモラティじゃねえ!! インナモラティは、自分の部下が海人を売りさばいていたのを許せなくて、粛清したんだよ!!」
「はあ? 知らねえよそんなの。ってか、執政官は敵だろうが。倒すのが当然だろ!!」
あまりにも短絡的な思考に、海斗は噛んでいた奥歯が割れた。
そして、ゆっくりと前に出る。
「クリスティナ……お前は、どっちを信じる」
「……え」
「執政官は全て殺すべきか? 信じることができるやつもいるかもしれないか? 俺は……俺は信じた」
「……カイト」
「孤児院の子供たちの未来のために、自分が死ぬかもしれないからって鎖国を解除した執政官インナモラティを。自分が悪になることで、悪い執政官を討伐した『英雄』が、海洋国オーシャンを救ってくれると信じたように。魔族と海人の関係を悪化させないために、全てを被って死んだ執政官を……俺は信じた」
「…………」
「死ぬべきじゃなかった。イーナは……死ぬべきじゃ、なかったんだ」
海斗は拳を握る。
これほどまで、苦しい声を出す海斗をクリスティナは初めて見た。
「リクトがやったのは、執政官の殺害と……何の罪もない魔族を、敵と決めつけて攻撃したことだ。見えてないのかよ……魔族の親子が怯えて、海人たちが困惑してるのを。海人は、解放なんて必要ない。そもそも、縛られてなんかいない……!!」
「……カイト」
「俺は、決めたぞ。リクト……あいつは危険だ!!」
魔族からの解放。
シナリオの修正力なのか、リクトはそれしか見えていない。
魔族が友好的でも、リクトにとっては敵なのだ。
だから、ここで止める。
「たとえ、この世界のシナリオが、物語の通りに修正されようとしても」
海斗は、左手に『魔王の左腕』を手にする。
「そんなシナリオは、間違っている」
託された。
ハーレムメンバーたちが構える。
ツクヨミたちも構えるが、海斗は手で制する。
「さあ……ここからのシナリオは、この世界のシナリオは、俺が作る!! 『魔王骨命』!!」
魔王の左腕が砕け、海斗の左腕に吸収された瞬間だった。
◇◇◇◇◇◇
『ようやく、つながったね、カイト』
◇◇◇◇◇◇
海斗の頭に、何かの声が聞こえてきた。





