デラルテ王国女王クリスティナと護衛たち②
「それでは、これからよろしくお願いします。オーシャン陛下」
「こちらこそ。クリスティナ女王、よき会合でした」
海洋国オーシャン、海底区にて。
クリスティナは、海洋国オーシャン国王、ブルース・オーシャンと会合を終えた。
デラルテ王国、そして海洋国オーシャンはこれから同盟を結び、協力関係を築いていくという話を終え、クリスティナは内心でホッとしていた。
クリスティナは言う。
「そういえば……こちらにも、魔族の方がいらっしゃるのですね」
「我が国は、魔族と良好な関係を築いております故」
地上は当然だが、まさか海底区にも魔族がいるとは思っていなかったクリスティナ。会議場内にはいないが、会場の外では、魔族による警護があった。
ちなみに、イザナミたちも会場の外で待機。傍にいるのはツクヨミだけで、どこか眠そうに欠伸をしていた。
魔族……クリスティナは、デラルテ王国に来た魔族に『豚』だの『ゴミ』だの言われた過去がある。まだ微妙に魔族に対し忌避感があった。
すると、ブルースは言う。
「ほっほっほ。ご安心ください。執政官『求愛』インナモラティ様は、我々海人だけではなく、他種族にも理解のあるお方です。そもそも、この会合も、インナモラティ様の発案によるものですから」
「それは初耳でした……すごいお方なのですね」
「ええ。月に一度、顔もお見せにならず、声だけでのやりとりですが、慈愛に満ちたお方とわかります」
「……なるほど」
海斗が『インナモラティは倒さない、話せばわかる』と言っていたが、どうやら評判はかなりいい。
デラルテ王国にいたスカラマシュがいかに適当、いかに人間に興味がなかったのか、クリスティナはため息を吐きたくなった。
「それでは、お部屋にお送りいたします。お帰りは明日、でしたな?」
「ええ。いろいろ、お世話になります」
こうして、海洋国オーシャンとデラルテ王国の会合が無事に終わり、クリスティナは女王として初めての外交を成功させるのだった。
◇◇◇◇◇◇
貴賓室に案内されたクリスティナは、イザナミ、ツクヨミ、クルルと四人でくつろいでいた。
イザナミは壁に寄りかかり、クルルは部屋の調度品を珍しがり、ツクヨミはロングソファに横になって大あくびをする。
クリスティナは、盛大にため息を吐いた。
「あ~……終わりましたあ。あとは、カイトとリクトの二人に合流して、帰るだけですね」
「……クッソつまんねえ。会議場の外に魔族いたけどよ、クソみたいな優男で武器持った農民のがマシなレベルだぜ。マジでつまらん」
「……同感だ。正直、ここの魔族に覇気を感じない。兵士と言ったが……あれでは、人間と大差ない」
「ぶ、物騒ですけど……装備はけっこういい武器でしたよ」
クルルが言うと、イザナミとクルルは興味を示さない。
クリスティナは言う。
「とりあえず、あとは会食だけで、それが終わったら明日は帰るだけ。どこかにリクトがいるはずなので、探すしかないですね」
「ケケケ、女王様自ら町を探すなんて聞いたことねえや」
「う、うるさいです。最低限の人間しか連れてこれなかったんですから。一応、エステルには地上区にいるよう伝えましたけど」
「……なら、問題あるまい」
それから、しばし談笑……クリスティナは言う。
「そういえば、海斗のは明日、ちゃんと来るんでしょうか」
「ああ? んだよいきなり」
「いやー……カイト、また変なことして、怖い目に合ったりとか」
「……カイトなら、何をしでかすにしても、執政官討伐のためになることだろう」
「まあ……そう、ですけど」
どこか心配そうなクリスティナ。するとクルルが言う。
「大丈夫ですよ。カイトさんはたぶん、この国のためになることをしていますから」
「そ、そうですよね……」
「女王様よ、何気にしてんだ?」
「いえ……カイトが何をしてるかもですけど、カイト、リクトのことあんまり好きじゃないみたいなので、再会して喧嘩でもあったら面倒だなあと」
「……嫌いなのか?」
「嫌いというか、偽善者とか言ってますよね」
「ああ……ザンニも言ってたぜ。一人は『役者』で、もう一人は『偽善者』だって」
ツクヨミが言うと、クリスティナが質問する。
「役者、ですか?」
「ああ。カイトは、物語の脚本家だけど、演じる方が多い役者って言ってたぜ。先の先の先、未来が見えてるような行動で、自分を駒にして劇を演じているとか……見ていて楽しいとか言ってた。で、もう一人は偽善者。目の前しか見ていない、周りがどうなろうと、自分が望む結果さえよければいいし、見ようともしないクズな偽善者だとさ」
「それ、リクトのことですか?」
「ああ。ザンニは言ってたぜ? 『傲慢な正義は悪と紙一重』だって。的を得てるぜ」
「…………」
悪……リクトが、悪。
クリスティナは、今のリクトを知らない。
ただ、優しい少年には見えた。お調子者で正義感が強いと、エステルの手紙にも書いてあった。
カイト、リクト……クリスティナにとっては、世界を救う『救世主』に変わりはない。
「……とにかく、二人が喧嘩しないようにちゃんと見ないとダメですね!!」
クリスティナは、ウンウン頷き気合いを入れるのだった。





