海斗の欲しいもの
海斗は、物陰からリクト、そしてハーレムメンバー、さらにオーミャの様子を見た。
「クソ……よく考えたら、オーミャはハーレムメンバーの一人だ。ストーリー上では必ずフラグが立つ……それこそ、歪んだストーリーでも関係なく」
「おいカイト、何すん……あれ、あいつ」
「なんか見たことあるよ~な」
「……やはり物覚えが悪い。あれは、カイトと一緒に召喚されたもう一人の救世主、リクトだ」
「「ああ、そういやそんなのいたっけ」」
三人はリクトを思いだしたようだ。
ナヴィアが、リクトをジト目で見て言う。
「……なんか、女の子ばかり連れてるね」
海斗は目を見開いた。
「……あの野郎、取り逃がしたネヴァンまで連れてやがる。魔族の手先で、あいつがどれだけデラルテ王国の人間を殺したか知らねえのかよ」
エルフ族のトトネ、人間族のエステル、翼人族のネヴァン、妖精族のリリティアラ、獣人族のシャイナ、そして海人族のオーミャ。
リクトを含め七人。六人のハーレムメンバーが揃っている。
「リクトは『勇者』の力が真に覚醒したって言ったな……それに執政官も二人討伐している。クソ、めんどくさいことにならないといいけど」
「カイト。身を隠す理由が不明なのだが、これからどうするんだ?」
マルセドニーが言う。
海斗は悩んだ。
(オーミャは間違いなく孤児院に帰ってイーナに街での出来事を報告するつもりだろうな。どういう経緯でリクトと一緒になったのか不明だが……このまま行かせたら、リクトはイーナと出会っちまう。クソ、どうする……?)
自分が顔を出すのはなるべく避けたいと海斗は思っていた。
少なくとも、イーナ、オーミャがいる状態でリクトと接触はしたくない。どのようなフラグが立ち、ストーリーが進行するかわからないからだ。
ふと、海斗は思った。
「……待てよ?」
「「「?」」」
ハインツ、ナヴィア、マルセドニー。
この三人は本来、ざまあキャラとして消えるべき存在だ。だが、今は海斗の仲間としている。
もしかしたら、この三人なら……と、海斗は思う。
「よし。ハインツ、マルセドニー、ナヴィア。お前ら三人で、リクトたちをオーミャから引き離せ」
「は? おい、どういうこった?」
「とにかくやってくれ。メシに誘うのもいいし、話を長引かせてオーミャが離れるのを待つのもいい。あと、絶対に俺がいることを言うなよ」
「……ふむ、よくわからんが……報酬はあるのか?」
「あ、報酬っていい響き。ね、カイト~?」
「……報酬はやる。とにかく、偶然を装って近づけ。俺のことを絶対に悟られるなよ」
「「「はーい」」」
三人は物陰からリクトの元へ向かった。
その隙に、海斗は建物の裏に回り小声でつぶやく。
「ザンニ、コリシュマルド、いるなら出て来い」
「はいはーい」
「ええ、いるわ」
すると、いつの間にか隣にザンニが立っていた。
こそっと、反対方向からコリシュマルドも出てくる。
「リクトたち、なんでオーミャと一緒にいるんだ?」
「いやはや、偶然だったね」
「ええ……偶然、リクトがオーミャにぶつかってね、散らばった荷物を拾ってあげて、話が弾んだの。それで、女の子の一人歩きは危ないからって、リクトが家まで送るって言いだしたのよ」
「……マジかよ」
「ああ。恐ろしい偽善者だねぇ、見ていて胸糞悪くて殺したくなる」
ザンニは笑いながら、手に巻き付いた蛇を撫でていた。
「気付いたこと、変わったことは?」
「魔族がいたよ」
ザンニがニンマリ笑い、巻き付いた蛇に命じてクネクネ躍らせながら言う。
「インナモラティの配下かどうか知らないけど、かなりの手練れの魔族が、オーミャを監視していたねえ……始末した方がよかったかい?」
「いや……恐らく、それはイーナの配下だ」
「合計で三人見つけたわ。一人はかなりの手練れ、あと二人は平凡だったけど、まあ強い方ね」
一人は間違いなくキリューネだろう。
もう二人のうち片方は、イーナが粛清する魔族である可能性が高い。
「お、あそこにいるよ。ふふ、綺麗な顔をしているけど、相当な強さだねえ」
オーミャの傍に、長い髪をお団子にした眼鏡の女性がいた。
シンプルなシャツ、スカート、眼鏡を掛けた優し気な女性で、オーミャが楽しそうに話しかけると、同じくらい笑って返事をしている。
「あれが、執政官補佐のキリューネか」
「へえ、序列九位の補佐かあ……うんうん、いい子を持ってるね、インナモラティは」
ザンニは羨ましそうに言う。
コリシュマルドは、周囲を観察しながら言った。
「一人は、海洋国オーシャンに残ったわ。もう一人は……いるわね。一般人に扮してる。恐らく、キリューネ以外は孤児院と関りのない、執政官の部下ね」
「……お前らの姿はバレてないか?」
「当然。元執政官五位『悪童』ザンニが、力が落ちたとはいえあの程度の魔族にポカすると思うかい?」
ザンニが胸を張る。コリシュマルドを見ると小さく頷いた。
「まあいい……よし、お前らは引き続き監視を頼む」
「うむ、任せたまえ」
「ええ、わかったわ」
二人は霧のようにその場から消えた。
そして、海斗は周囲を見渡し呟く。
「ヨルハ、いるか?」
「はい、主殿」
ヨルハは、近くの木の枝にいた。
海斗の声で木から飛び降り隣へ。
「やっぱりいたか……カグツチは?」
「カグツチは、本国へ残してきました。三人、配下と思わしき魔族がいまして、二人が船に乗り、もう一人は残ったので、残った方の監視を任せています」
「大丈夫なのか?」
「ええ。ちょっと悔しいですが……カグツチ、あの子は才能の塊です。何をやらせてもこなしてしまう。ふふふ、鍛えがいのある弟子です」
「そうか……それで、キリューネは?」
「かなりの手練れですな。隙だらけのように見え、まるで隙がない。拙者でも尾行は厳しかったです……ですが、もうヤツの呼吸を見切りましたので、特に問題ないかと」
「よし。気付いたことは?」
「……特にございません。驚いたことに、本当にあの娘……オーミャの保護者をしていました」
「気を抜くな。あいつは序列三位『狂医』ドットーレの配下だ。間違いなく、ドットーレと接触するか、手紙か何かで連絡手段を取るはずだ。その時を見逃すな」
「承知!!」
今、海斗が欲しいのは『イーナとキリューネの絆を壊す証拠』だ。
それには、キリューネがドットーレと繋がっている証拠さえあればいい。
「引き続き、頼む」
「はっ……では、これにて御免」
ヨルハは消えた。
海斗は、いつの間にか足を止め、ハインツたちと仲良く喋っているリクトを見た。





