作戦
海斗たちは宿へ戻り、食事をしながら今後の話をする。
海沿いなだけあって海鮮は絶品だ。シンプルに塩焼きした海鮮がこうも美味く、ハインツは酒を飲む手が止まらない。ナヴィアも珍しく飲み、マルセドニーもガツガツ食べていた。
孤児院の子供たちと遊んだせいか、三人は疲れていたが、食事に夢中になっている。
「うっめええ!! 魚、貝、海老、とにかくうめえ!! エールにめちゃくちゃ合うな!!」
「同感!! ね、クリスティナがこの国の王様と仲良くやれば、この海鮮もデラルテ王国で食えるようになるんだよね!?」
「その通りだ。うむむ、食にこだわりはないが、これは美味い……うまいぞ!! おかわりだ!!」
料理を次々に注文する三人。
海斗は、食事をしながらぼーっと考え事をしていた。
その様子が気になったのか、ナヴィアが言う。
「カイト。辛気臭いにもほどあるけど、どうしたのマジで?」
「けけけ、知ってるぜ、お前……所長のイーナを口説いてただろ。まあ、確かにめちゃくちゃ美人だわ。胸もデカいしケツもいい。けけけ、お前も男だったんだな。よーし、あとでこのハインツ兄さんが娼館に連れてってやるぜ!!」
「くだらん。というかカイト、いい加減、この町に何の用があるか説明しろ。もぐもぐ」
現在、海斗たちは町の大衆食堂にいる。
周りには海人たちが、仕事を終えて一杯飲んでいる時間帯だ。
この陸の町は、海洋国オーシャン本国へ行く船が出ているほか、港町としても栄えている。魔族こそいないが、海人たちしかいない町だ。
食事席は個室だったが、海斗は周囲を確認して言う。
「あの孤児院の所長イーナは、執政官『求愛』インナモラティだ」
「「「ぶっふー!?」」」
三人はエールを盛大に噴き出した。海斗はナプキンで防御し汚れから身を守る。
「きったねえな」
「ままままま、マジか!? しし、執政官!? あの超美人が!?」
「ううううううっそ!? え、え、マジで!?」
「まま、待った。待ったカイト!! し、執政官……? どう見ても、あの姿は人間としか」
「姿を偽るなんて朝飯前だ。これまでの執政官や魔族は、そんなことする理由がないからやってないだけだ」
「……なんと」
三人は水の入ったコップを手にし、同時に水を一気飲み……テーブルにコップを置く。面白いくらいシンクロした動きに、海斗は「こいつらやっぱ三バカって感じだな……」と呟いた。
「俺の目的は、インナモラティ……イーナが封印している『魔王の骨』と、イーナの側近で幼馴染でもあるキリューネを止めることだ」
「キリューネ? 誰それ?」
「序列三位『狂医』ドットーレの配下だ。大昔から、インナモラティの部下として接している。こいつがいろいろ暗躍するんだが……」
「オレらで倒しちまえばいいんじゃねぇの?」
「それじゃ、インナモラティを敵に回す……それじゃダメなんだ。イーナは、執政官だけど常識人。海洋国オーシャンに必要な人材だ。くそ……キリューネが行動を起こす前に、なんとか説得しないと」
「……具体的に、どうするんだ?」
マルセドニーが口元を拭きながら言う。
海斗はため息を吐いた。
「わからん。キリューネを討伐すればイベントは起きないだろうがイーナを敵に回す。イーナを説得しようとしても、全幅の信頼を置いてるキリューネが裏切り者だなんて理解してもらえない」
「ねー、そもそも、そのドットーレの配下がなんでいるの?」
ナヴィアがエールを飲みながら言う。
海斗は言う。
「イーナのところだけじゃない。ドットーレは、自分より序列が下の執政官のところには、忠実な配下を送り込んでいるぞ」
「「「え」」」
「もちろん、デラルテ王国にもいたぞ。プルチネッラ襲来の時に、逃げ帰ったと思うけどな」
三人はポカンとしていた。当然だが、言われなければわかるはずもない。
「とにかく、リクトが動いてイベントが進む前に『キリューネの裏切りをイーナに理解してもらうこと』と、『リクトがオーミャと出会ってイベント進行』を妨げないと」
恐らく、オーミャとリクトは接触した。
だが、イーナがこの場にいる以上、本筋である『インナモラティによる部下の粛清イベント』は発生せず、目撃もすることがない。
明日、オーミャは孤児院に戻って来る……キリューネと共に。
「俺らも、オーミャと接触するか……それと、キリューネが裏でドットーレと繋がっている証拠でも掴んでイーナに見せれば……あーくそ、イベントストーリーが歪んでるから、俺の知るストーリー通りに進むのかわからねぇ」
海斗は果実水を一気飲み。
(……一応、ザンニにはリクトたちの見張りを頼んだ。コリシュマルドはザンニを見張るよう言った……ザンニはまだ仲間とは言えないからな。それと、ヨルハとカグツチはオーミャとキリューネの見張り。見張りである以上、明日にはこっちに来るはずだ)
海斗はジョッキを置く。
「明日は、港に行って定期船を待つ。そこで、オーミャたちと接触する」
「ね、あたしらは何すればいいの?」
「とりあえず、お前らの本業を思いだしておけ」
「「「……本業?」」」
三人は同時に首を傾げた。
海斗は呆れて言う。
「冒険者だろ。オーミャは、薬師を目指しているけど、同じくらい冒険者に憧れてるんだ」
◇◇◇◇◇◇
翌日、海斗たちは宿を出て港へ。
しばし港を散策する。
「魚くっせえ……」
「生臭い……あと、見てみて、すっごいガチムチ」
「漁師か。海の男というやつだな」
「マルセドニーなんか叩かれたらバッキバキにへし折れそうね~、もっとあんな風に鍛えたら?」
「けけけ、オレも負けてねえぜ。どうよ、貧弱くん」
「……やれやれ。天才に余分な肉は必要ないと、何度言えばわかる。キミたちこそ、余計な脂肪を蓄えるより、少しでも使える知識を頭に入れたらどうだ?」
「「あぁぁん!?」」
仲がいいのか悪いのか。
海斗はギャアギャア騒ぐ三人を無視し、港を眺める。
大量の小舟が留まり、大きな船がいくつか停泊している。大きな船は形状が全て同じで、どうやら定期船のようだ。
漁師たちは、木箱に入れた魚を運んだり、いきなり海から下半身が魚の海人たちが現れ、銛に突き刺さった魚を木箱へ入れている。
「へえ……すごいな」
「ふふふん、ねえカイト、今日も晩ごはんはお魚だよね~」
「酒もいいよな?」
「ああ、好きにしろよ」
「「やったあ!!」」
ハインツ、ナヴィアはハイタッチ。
真面目に取り組むようになってから、酒や化粧品などの制限をやめた。
ある程度のギャンブルも許可した。するとマルセドニーの視線が釘付けになっている。
「……」
「おい、どうした……ん?」
視線の先には、海沿いの酒場があった。
そして、外の円卓では仕事を終えた漁師たちが、お椀にサイコロを投げて賭けをしていた。テーブルには酒があり、さらにお金も置いてある……ギャンブルだ。
マルセドニーはウズウズするのか、海斗の呆れたような視線を見ると咳払いした。
「べ、別にやりたいわけじゃない。だが見たところ、サイコロを転がして偶数か奇数かを当てるだけの幼稚な賭けだ。が……シンプルだからこそ予想が難しいというか、なんとか」
「めっちゃ早口じゃん……」
「ほんとこいつ、賭け事大好きだよな」
「う、うるさい。くぅぅ……」
「……やるなら、夜にしろ。それと、破産するほどやるなよ」
「い、いいのか!?」
「夜だぞ。それと、俺らの仕事に支障出さないようにしろ」
「あ、ああ!! わかった!!」
マルセドニーはウキウキしているのか、急に背筋が伸びた。
そして、何かに気付いたのか海を指差す。
「おお、カイト。定期船が戻って来たぞ。恐らく、あそこにオーミャという子がいるのではないか?」
「……よし。接触するぞ」
定期船が到着……乗客が降りて来た。
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアが乗客をチェックする。だが、急にカイトが三人を掴み、近くの倉庫の隅に押し込んだ。
「なな、なんだよいきなり」
「ちょ、どこ触ってんのよ~!!」
「い、いきなり何をする」
「黙ってろ……!! くそ、想定外にもほどがあるぞ……!!」
オーミャが、いた。
海斗はすぐにわかった。同時に、あり得ない光景もあった。
オーミャの傍には、見覚えのある顔がいくつかあった。
「……なんで、オーミャの傍に、リクトがいるんだよ……!?」
オーミャは、なぜかリクトとハーレムメンバーに囲まれていた。





