デラルテ王国女王クリスティナと護衛たち①
海斗たちのいる町から、専用の連絡船に乗り、海洋国オーシャンの本国へ。
船の上では、クルルとクリスティナが酷い船酔いに襲われていた。
「ぐおええ……なんか、きもちわるいです」
「お、おなじく……ううう、地底では船なんて乗らないし、この、足元がないような、感覚……うげえ」
二人は真っ青な顔をしていた。
イザナミ、ツクヨミは全く酔っていない。
現在、クリスティナたちは定期船の一等客室にいた。デラルテ王国の女王が会合に向かうことなので、海洋国オーシャン側が専用の個室を用意してくれたのだ。
ツクヨミは言う。
「なあ、ガキっぽいけどいい身体したお嬢ちゃんよ」
「その言い方やめてって何度も言いましたよね……」
「はいはい。じゃあクリスティナ、その会合ってのはいつ始まっていつ終わるんだ? カイトの頼みとはいえ、戦いもねえ護衛なんてつまんねーぜ」
「始まってもいないのにこの言いぐさ……カイト、今更ですけど、とんでもない人を連れてきましたね」
クリスティナはゲンナリする。
イザナミがコップに水を注ぎ、クリスティナとクルルの傍へ置いた。
「……仕事はこなす。話では、魔族の自治区を経由し、海洋国オーシャンへ向かうのだろう?」
「ええ。正確には、海洋国オーシャン、海底区です。魔族の自治区は地上区、海人の住む海底は海底区。地上と海底を合わせて『海洋国オーシャン』なんです」
「……ううう、クリスティナさん。ほんとうに大丈夫なんですか? その……魔族の自治区を通るなんて」
魔族は支配者。それがこの世界の常識である。
いくら執政官の六人を討伐し、世界の半分が支配から解放されたと言っても、魔族の脅威は全く変わっていない。
クルルは言う。
「カイトさん、言ってましたよね……執政官の序列四位より上が存在する限り、魔族が支配者ってのは変わることがない、って」
クリスティナは頷く。
「序列四位『剣帝』……三位『狂医』に、二位の『恋人』……そして、序列一位にして魔族最強、『道化』アルレッキーノ……」
「ククッ、ザンニも言ってたぜ。『道化』がいれば、執政官十一人はいなくても問題ねえってな」
現状、海斗ですら「手は出せない」と言った執政官だ。
今は、残る執政官を倒すことを優先させると言っていた……が。
「カイトは、ここで何をするつもりなんでしょうか……あなたたち、何か聞いていますか?」
「……ここに、『魔王の骨』があると言っていた」
イザナミが言うと、クルルはウンウン頷く。
「ぜんぶで七つある『魔王の骨』……えーと、右腕に左足、背骨を手に入れたんでしたっけ」
「ここには『左腕』があると言っていた。残りは、肋骨に右足、頭蓋骨か」
「全部集めると、カイトはクソ強くなるんだろ? 執政官を倒す方法ってのは、その骨ぇ集めることか。なんか気味悪いな」
ツクヨミはゲラゲラ笑う。ちなみに、クリスティナも口には出さないが気味悪いと思っていた。
クリスティナは話題を変える。
「本国には、リクトもいるんですよね。どこにいるのか……会合が終わったあとにでも探して合流しましょう。そのまま一緒に、デラルテ王国まで帰れますしね」
「……カイトとは別の、救世主」
「どんな人なんでしょうねえ」
「前にも言ったろ? ザンニ曰く『偽善者』だとよ」
「……執政官の情報などアテにならない。私は、自分の目で見て判断する。カイトとはどう違うのか」
「わたしも、ちょっと気になりますね」
酔いが抜けて来たのか、クルルは椅子から立ち上がる。
クリスティナは水を飲みながら言う。
「とにかく。私たちは海洋国オーシャンで会合を成功させて、これから協力関係を結ぶことができれば」
「……どうなるんだ?」
「そうですね~……海洋国オーシャンのおいしい魚が、デラルテ王国でも食べれるようになるとか」
「わあ、それいいですね」
「おいおいおい。嬉しい話だが、一応ここには執政官もいるんだ。気ぃ抜くんじゃねぇぞ?」
ツクヨミは、ニヤニヤしながら三人に言うと、護衛であるイザナミとクルルはどこか、ムッとした表情でツクヨミを見るのだった。
◇◇◇◇◇◇
船は、半日もせずに陸に到着した。
港に降りると、出迎えがあった。
「デラルテ王国女王、クリスティナ様でいらっしゃいますね」
「はい。出迎え、ご苦労様です」
魔族の自治区だが、出迎えは海人だった。
海人は皆、青い髪を持つ種族。陸では人間と同じ姿だが、海水を浴びると下半身が魚になり、首元にエラが生まれ、手が水かきとなる種族である。
出迎えたのは、クリスティナより年上の、二十代後半ほどの男性だ。
「海洋国オーシャン、第一王子シャダイと申します」
「……第一王子、自らのお出迎えとは」
「ええ。解放された六国、唯一の会合参加国の女王陛下ですから。私がお出迎えするのは当然です」
シャダイは深々と一礼、護衛騎士も十名以上おり、背後には大きく豪華な馬車が見えた。意外にも馬車は馬車……しっかり馬が繋がれている。
「それはこれより、海洋国オーシャン、海底区へご案内します」
「ありがとうございます」
手を差し出されたので掴み、馬車の中へ。
クルル、イザナミ、ツクヨミも当然のように馬車へ乗ろうとしたが、護衛に止められる。
「あん? んだテメェら、喧嘩売ってんのか?」
「……我々は女王陛下の護衛だ」
「えっと……一緒じゃダメなんですか?」
この辺りの教育、というか常識を知らない三人。クリスティナは慌てて言う。
「しゃ、シャダイ殿……申し訳ございません。私の護衛も一緒に馬車へ、よろしいですか?」
「ははは。わかりました……では、どうぞ」
馬車は広かったので、五人乗っても広い。
イザナミは「私は外で見張る」と馬車の屋根に飛び乗り、護衛たちがドヨめく。だがシャダイが「そのままでいい」と護衛たちを宥める。
ツクヨミは足を組んでクリスティナの隣に、クルルはニコニコしながら隣に座る。
クリスティナが頭を抱えそうになるが、シャダイは笑う。
「ははは。なかなか、ユニークな護衛ですね」
「……あ、あはは」
「あん? おいおい王子様よ、喧嘩売ってんのか?」
「え」
「ああもう、黙ってなさい!! というか……あなたたち三人、絶望的に護衛に向いてない!! ああもう、カイトの馬鹿あぁぁぁ!!」
とうとう、我慢できずクリスティナが叫び、シャダイも何を言えばいいのかわからないのだった。