救世主『偽善』の勇者リクト①
リクトたちは現在、海洋国オーシャンにある貸し切りビーチに来ていた。
貸し切りと言えば聞こえはいい。単純に、誰もいない隠れたビーチを見つけ、リクトとハーレムメンバー全員で遊んでいるのだ。
当然、海なので全員が水着である。
「眩しいぜ……」
リクトは、海パンになぜかサングラス、そして町で買ったビーチパラソルにビーチチェアを使ってくつろいでいた。
視線の先にいるのは、リクトのハーレムメンバーたち。
「……海、すごいね」
「トトネさん、海を見るの初めてなんですか?」
「うん。エルフだし、森の中にいたから……リリは?」
「私は、公務で何度か海沿いに来たことがあります。海洋国オーシャンの海は初めてですけど」
エルフの少女トトネ、そして妖精の姫リリティアラである。
名前が長いので「リリ」と呼ぶようになり、親しみも沸いた。
二人ともまだ子供体型だが、二人を見るとリクトはすごく和む。
「おいリクト、遊ぼうぜっ!!」
すると、リクトの元に獣人族の姫、シャイナがやってきた。
短パンにビキニと露出が多く、動くたびに大きな胸がゆさゆさ揺れる。リクトはそれを見て鼻を伸ばし、フラフラとシャイナに近づくが。
「こら、視線が嫌らしいぞ」
「あ……エステル?」
「……な、なんだ。水着姿で悪いか」
エステルも水着だ。
着やせするのか、競泳水着のようなぴっちりした水着がエステルらしい。身体を隠すようにしていると、翼人のネヴァンが上空から落下して砂浜に着地した。
「よっと。やっぱりこの国は暑いな……なんだリクト、泳がないのか?」
「お、おお」
ネヴァンは、チューブトップブラにパンツと露出多め。だが、羞恥心が薄いのか、リクトに見られても気にしていない。
すると、シャイナがネヴァンにボールを投げた。
「ネヴァン、遊ぼうぜ!! アタシ、こういう遊びあんまりしたことないんだ。楽しまないとな!!」
「いいね。リクトにエステルも行こう。あっちで呆けてるトトネたちも誘ってさ!!」
「……だな!! よーし、遊びまくるぜっ!!」
こうして、リクトたちは海を満喫していた。
もし、海斗がいたらこう言うだろう……『水着回』と。
◇◇◇◇◇◇
リクトたちは現在、デラルテ王国に帰る途中である。
海洋国オーシャンを経由し、ついでに海洋国オーシャンを統治する執政官を倒せればいいと思っていたのだが……エステルがクリスティナから手紙を受け取った。
リクトたちは、水着のまま今後の話をする。
「クリスティナ女王陛下が、『求愛』インナモラティには手を出すなと言っている。女王陛下は現在、海洋国オーシャンで行われる会合に出席するようだ。私たちは女王陛下と合流し、デラルテ王国に帰還することになるだろう」
「しつもーん。なあ、なんで倒す必要がないんだよ」
リクトが挙手すると、エステルも首を傾げる。
「詳細は不明だが、我々『救世主チーム』は手を出すな、とのことだ」
「……魔族はブッ倒す方がいいだろ。この国も、執政官の支配に置かれてることに代わりねえんだ。オレは救世主として、平和のために戦うぜ」
「リクトに賛成。その女王陛下が何を考えてるか知らないけど……ここ、敵の領地近くだしね」
トトネが言うと、リリもシャイナも頷く。
「ま、国を救うってんなら誰だろうとアタシはヤルけどね」
「わたしも、お手伝いします」
そして、ネヴァンが言う。
「なあエステル。女王陛下が来てるってことは、護衛もいるよな?」
「当然だろう」
「……その護衛。リクトと同じ『救世主』か?」
「あ、そっか。カイトも来てるのか?」
「……そうらしいな」
「おー、ひっさしぶりだなあ。あいつも強くなってんのかねえ」
「フン。リクト……言っておくけど、アタシはあいつへの恨み、忘れてないからね」
ネヴァンがギロリとリクトを睨むと、困ったようにリクトは言う。
「ネヴァン。お前の恨みは理解してるけどよ……カイトだって、敵だったお前を倒そうとしただけだ」
「……わかってるけどさ」
「オレがいる以上、お前はもう大丈夫だ。だから、その恨みをカイトにぶつけることだけは、しないでほしい」
「……うん」
ネヴァンは、微妙な顔をして頷いた。
リクトも頷いて言う。
「そういやこの国、魔族の自治区がけっこう狭いんだな」
「海人の国だからな。海人の国は、魔族の自治区を通って、国の中心にある海底へ続く道を通って進む」
「う、海の中か……」
「海人は、海水に触れると足がヒレになり、エラ呼吸に変わる種族だ」
エステルの説明に、全員が「なるほど」と頷いた。
リクトは言う。
「なあ、この国の魔族は、海人のことどう思ってるんだ?」
「……不明だ。そもそも、海洋国オーシャンは閉鎖国家だったからな。つい最近、鎖国が解かれ交流が始まった……だからこそ、女王陛下が交流のために会合に来たんだ」
「なるほどなあ……執政官はどんな奴なんだろうな」
リクトはそう言いつつ、ニヤリと笑って拳をパンと打ち付ける。
「まあ、オレが倒してやるけどな。海洋国オーシャンを、魔族の支配から解放するぜ」
◇◇◇◇◇◇
リクトたちは、町で宿を取って食事をしようと決めていた。
魔族の自治区は地上ではあるが、全てが魔族の自治区というわけではない。
海人たちの住む区画に宿を取り、そのまま買い物をし、食事をし、翌日にクリスティナに会いに行こうと決めた。
そして現在、六人で町を歩いている最中である。
「メシ~と……なあ、やっぱ魚が美味いのかな?」
「ああ、そうだろうな」
「魚……アタシは肉のが好きだけどな」
シャイナがじゅるりとヨダレを拭う。リクトがケラケラ笑った時だった。
「きゃっ!?」
「うおっ、悪い!!」
女の子とぶつかり、女の子の荷物が散らばってしまった。
慌てて落ちた本を拾うリクト。エステルたちも荷物を拾い、エステルが一冊の本を拾う。
「これは、薬学の本……薬師を目指しているのか?」
「あ、はい……」
「悪い。余所見してた。怪我ないか?」
「大丈夫です。わたしも、本を読みながら歩いちゃって」
十五歳ほどの少女だった。
海人の特徴である青い髪をしており、サンゴのような髪飾りをしている。
リクトは少女に本を手渡す。
「薬師かあ……すげえんだなあ」
「は、はい……その、わたしを育ててくれた人みたいな、立派な薬師になりたくて」
「へー……うん、なんとなくだけど、キミならなれると思うぜ」
なんの根拠もないが、リクトはガッツポーズで少女を激励した。
「あ、オレはリクト。しばらくこの町にいるからさ、何か困ったことあったら言ってくれよ」
「リクト、またお人好し……」
「まあまあ、リクトさんらしいじゃないですか」
トトネが呆れ、リリは苦笑する。
少女はポカンとするが、クスっと微笑んで言った。
「ありがとうございます。わたし、オーミャって言います。ではまた」
この出会いが、後に海斗とリクトの運命を捻じ曲げ、最悪の事態に陥ることになるとは、まだ誰も知ることはない。





