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孤児院の所長イーナ

 十二執政官序列九位『求愛』インナモラティ。

 海斗は当然、その正体、そして強さを知っている。

 洗濯ものを干し終えた孤児院の所長、インナモラティは、海斗をジッと見て言う。


「……そっか」

「戦う意思はない。俺は、あなたと話が……」


 次の瞬間、海斗の足元に大量の『蜘蛛』が現れた。

 現れたというより、いつの間にかいたという方が正しい。白黒の縞模様の蜘蛛、大きさは手のひらほどで、数は五十以上いた。

 凶暴性、凶悪性というより、そのビジュアル的なところで恐怖、嫌悪感を海斗は感じた。

 

「私を、殺しに来たの?」

「違う!! 俺はあんたと戦うつもりなんてない。あんたの平穏を壊すつもりもないし、ここの子供たちに危害を加えるつもりもない。俺は、あんたと話をして、あんたに頼みたいことがあるだけだ!!」

「…………」


 本能で察した。

 インナモラティは強い。見た目こそ人間の女性だが、瞳の奥には冷酷な光があった。

 残忍、邪悪ではない。この場を守るためならなんでもする……そんな、温かい冷酷さ。矛盾した光だったが、海斗にはインナモラティがこの場を愛しているからこそ、冷酷になれると知っていた。

 海斗は両手を上げる。


「信じてくれ。むしろ、俺はあんたを守りたいんだ」

「…………」


 すると、蜘蛛が消えた。

 インナモラティは海斗にゆっくり近づき、その目を覗き込む。


「……六人の執政官が死んだことは知ってる。あなたが?」

「俺は、スカラマシュ、スカピーノ、プルチネッラ、ザンニを倒した。タルタリヤとジャンドゥーヤはもう一人の救世主がやった」

「……嘘じゃないみたいね。それで、次は私の番?」

「違う。むしろ俺は、あんたに生きててほしい。そのために話をしに来たんだ」

「…………」


 インナモラティは海斗の目をのぞき込み……そして、人差し指で海斗の額を押し、小さく微笑んだ。


「わかった。信じてあげる……じゃあ、お話。の前に……そろそろ子どもたちのお昼なの。手伝ってくれるかな?」

「手伝おう。外に、俺の仲間もいる……安心しろ、あんたが執政官だってことは知らない。なんで俺が孤児院の所長に会いに来たかも理解していない」

「イーナ」

「……は?」

「十二執政官序列九位『求愛』インナモラティは、月に一度だけ海洋国オーシャンの国王に指示を出す執政官の名前。この孤児院の所長はイーナ……そう呼んでね」

「あ、ああ……わかった」


 こうして、海斗は執政官インナモラティこと、孤児院の所長イーナに会うことができた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ハインツたちが合流し、食事の支度が始まった。


「……おい、なんでオレらこんなことしてんだよ」


 ハインツは、大量の野菜をとにかくカットしていた。


「ふんふんふ~ん。あたし、料理そんなに嫌いじゃなくなったし、別にいいけどね~」


 ナヴィアは鍋をかき混ぜて味見。


「……知識はある。だが、実戦となると……むうう」


 マルセドニーは、各種香辛料を眺め迷っていた。

 そして海斗は、イーナの隣で肉を切っている。

 海斗のナイフを見て、イーナはクスっと微笑んだ。


「意外に料理上手なのかしら? お肉、斬るの上手いわね」

「俺の獲物がナイフだからだな」

「そうなの?」


 するとハインツ、マルセドニーに言う。


「なあ、イーナさんだっけ……めちゃくちゃいい女だよな。ケツも胸も立派なモンだ。マルセドニー、お前どっちが好きだ?」

「くだらないね。女性を性的な目で見たことなんてないよ」

「けっ、枯れてやがる。いや、終わってんな」

「ちょっとそこの二人~、失礼なこと言うの禁止~」


 イーナは、ハインツたちを見て微笑む。

 料理が完成し、海斗たちは孤児院の食堂へ運んだ。すると、子供たちが一斉にやってくる。


「はらへったー!!」「え、だれ?」

「あ、おかしくれた人」「わー、かっけえ!!」


 子供たちに野菜スープやパンを配り、海斗たちも一緒に食べることにした。

 子供たちは早々に食べ終わると、男の子はハインツ、女の子はナヴィアに集まる。


「お兄ちゃん、筋肉すげー!!」「かっけえ!!」

「むっきむきだね!!」「お兄ちゃん、かっけえよ!!」

「そ、そうか? ふふん。鍛えてるからな!! どうよこの力こぶ、腹筋!!」

「「「「「わーっ!!」」」」」


 ハインツは上半身裸になり、鍛えた身体を見せつけご満悦だった。

 ナヴィアも、女の子たちを撫でる。


「おねえさん、シスターってやつだよね」

「そうよ~? こう見えて、聖女なんだから」

「せいじょ?」

「そう。怪我を治したり、神様に祈りを……あらあんた、怪我してるの?」

「あ、さっきころんじゃって」

「仕方ないわね、ほれほーれ」


 ナヴィアは『治癒』で怪我を治してやると、女の子たちはナヴィアを尊敬の眼差しで見た。

 マルセドニーは興味なさそうだったが。


「お兄さん、ほんを読んでくれますか?」

「すごくあたまよさそう」

「……ほう。その歳でずいぶんわかっている子がいるようだ。フフフ、天才の素質があるかもしれん」


 マルセドニーは、数人の子供に本を読み始めた。

 海斗は、そんな三人を見て言う。


「……意外だな。こいつら、子守の素質あるのか」

「ふふ。みんな優しいのね、子供たちは任せて大丈夫そうね」


 イーナは、海斗に目配せする。

 海斗は頷き、ハインツたちに言った。


「お前ら、子供たちのこと任せるぞ」

「おう。ガキども、遊びたいヤツは外に出やがれ!!」

「「「「「わーっ!!」」」」」

「男って野蛮。女の子たちは、あたしと遊ぼっか。お化粧とか、髪の手入れしてあげるね」

「「「「「はーい」」」」」

「やれやれ。食後は静かに読書だろうに」

「「「「「はい、せんせい」」」」」


 活発系、オシャレ系、知識系と子供たちは見事に分かれた。

 心配することはなさそうなので、海斗はイーナと孤児院の裏へ出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 孤児院の裏には大きな木があり、海斗とイーナはそこへ移動した。


「ここ、海や砂浜がよく見えるの。向こうに大きな浮いているの見える?」

「……あれが、海洋国オーシャンの本国か」

「ええ。さっき、別の先生と子供たちがお出かけしてるって言ったよね? その子たち、もうすぐ孤児院を卒業する年長で、王都でお仕事したり住んだりしたい子たちが行ってるのよ」

「……そこに、オーミャって子はいるか?」

「え? ええ、今年卒業の子だけど……今日は王都に行ってるわ」


 海斗は考える。


(ストーリーはもう始まってるのか? いや、まだのはず。オーミャがリクトと接触しても、イーナの正体がバレるのはまだ先のはずだ。まだ大丈夫、手は打てる)


 イーナは、海から視線を外し、海斗を見た。


「順序よくいきましょうか。カイト……あなたの目的。大体、察しているけど」

「…………」


 海斗は頷いた。

 海斗は、イーナをまっすぐ見て言う。


「お前が隠している『魔王の左腕アームズ・オブ・アザゼル』を……渡してほしい」

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