十二執政官序列九位『求愛』インナモラティ①
「俺たちはこの町で降りる。イザナミ、クルル、ツクヨミ……クリスティナのこと、頼んだぞ」
「……ああ」
「お任せください!!」
「おう、喧嘩売られたら買っていいか?」
海斗、ハインツたち三人は、陸の町で降りた。
この町からの定期船に乗り、クリスティナたちは海洋国オーシャンへ行く。
海斗は、イザナミたち三人に言う。
「もしクリスティナが死んだら、とりあえず骨だけでも持ってきてくれ。その場合、俺の力で動けるようにはなる……骨だし、喋れないし、意思はないけど」
「「「わかった」」」
「何言ってんですか!? ってか三人も頷かないでくださいよ!!」
クリスティナがツッコミ、海斗をギロッと睨む。
「とにかくカイト、用事を済ませたら本国に来てくださいね!!」
「ああ、たぶんな」
馬車は海斗たちを置いて行ってしまった。
残された海斗たち。海斗は振り返り、ハインツたちに言う。
「俺の用事が済むまで待機だ。ぶっちゃけ、何日か時間かかるかもしれん」
「それぁいいけどよ。どこ行くんだよ」
「それそれ。まだ教えてくんないの?」
「……いい予感はしないがな」
海斗は軽く肩をすくめて言う。
「今回は、本当に戦いも、スキルを使うこともないと思う。俺らが向かうのは、この町にある孤児院だ」
「「「孤児院?」」」
「ああ。海人の孤児たちが住む孤児院だ。とりあえず、町で宿を確保して、手土産買っていくぞ」
「「「……孤児院」」」
三人は首を傾げていた。
なぜ孤児院? と質問したいのだろう。だが海斗は近くの菓子屋に入って行った。
◇◇◇◇◇◇
町の外れにある、海岸沿いの崖際にある横長の建物があった。
浜辺では、海人の子供たちがボールを蹴って遊んでいるのが見える。
海斗たちは、町を抜けて小道を進み、建物近くまでやってきた。
「ここからは俺だけで行く。お前たちはこの辺で待っててくれ」
「はあ? んだよ、オレらは行けないのか?」
「ああ。最初は、俺だけでいい」
「「「……???」」」
三人とも首を傾げる……海斗の雰囲気が、妙に感じたのだ。
海斗は、菓子の入ったカゴを手に孤児院へ。
「……けっこう、デカいな」
引き戸をノックすると、扉が開く。
「……だれ?」
女の子だった。
海人。陸上では人間と変わらないが、海水を浴びると下半身が魚になり、首元にエラがうまれエラ呼吸となる種族。海中では魔力が倍増し、武器は槍を使っての高速戦闘を得意とする種族だ。
海中では魔族も手が出せない強さとも言われているが、海斗の腰より低い女の子は、海斗を見て少し覚えたようにドアに隠れる。
海斗はしゃがみ、女の子の頭を撫でた。
「ここに、孤児院の所長さんがいるって聞いてな。ちょっとお話がしたいんだ……どこにいる?」
「……うらで、おせんたくもの、干してるけど」
「そっか。行っていいか?」
「…………」
警戒されているようだ。
海斗は、カゴからキャンディを取り出すと、女の子に渡す。
「さ、お菓子をあげよう。おいしいぞ」
「キャンディ!! わあ、ありがとー」
あっさり警戒が解けた。
海斗は、カゴを女の子に渡し、「みんなで仲良く食べるんだぞ」と言う。
女の子はウンウン頷き、孤児院の中へ走って行った。
海斗は女の子を見送り呟く。
「裏……」
玄関のドアを閉め、海斗は建物を迂回して裏へ回る。
孤児院の裏はフェンスがあり、子供たちが崖から落ちないよう工夫されていた。
そして、木と木の枝にロープを結び、そこに洗濯ものを干している女性の背中が見えた。
「ふんふんふ~ん……」
長い黒髪が腰まで伸びていた。
白いシーツを丁寧に干してはシワを伸ばし、別の洗濯物を干している。
海斗が近づくと、女性はピクリと反応して振り返った。
「あら、お客様かしら? どなた?」
美しい女性だった。
シンプルなシャツ、ロングスカートにエプロンをした二十代前半ほどの女性。
いきなり現れた海斗に警戒するまでもなく、優しい微笑を浮かべている。
海斗はぺこりと頭を下げ、周囲を見た。
「お一人で、仕事を?」
「えーと……まあそうね。今日は、別の先生と一緒に、数人の子供たちで本国へ遊びに行く日なのよ」
「他の、子供たちは?」
「ふふ。みんな元気に遊んでいるわ。見える? 砂浜でボール遊びしたり、孤児院でお絵かきしてるのよ」
「そうですか……平和ですね」
「ええ。ところで、あなたは? 何か用事かしら」
女性は首を傾げつつも、海斗に向かって微笑んでいた。
海斗は頷く。
「あなたに、大事な話があります」
「えーと……あなた、海人……じゃ、ないわね。どこから来たの? お名前は?」
「俺は海斗。人間で……デラルテ王国から来た『救世主』です」
「……救世主」
「はい。わかりますよね、救世主のこと」
「…………」
女性は、うんともすんとも言わなかった。
海斗をまっすぐ見て、海斗の言葉を待っているように見える。
海斗は言う。
「あなたに話があってきました。十二執政官序列九位『求愛』インナモラティ……」
孤児院の女性ことインナモラティは、何も答えず海斗を見つめるだけだった。