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10、わからないこともある

「さて、三人揃ったな」

「「「…………」」」


 現在、訓練場にハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人がいた。

 そして、怪訝そうな表情をしているタックマン、マークス。

 タックマンは、海斗に聞く。


「なんだカイト。冒険者の三人は野外演習の時にしか依頼しないという話だったが」

「そうなんですけどね。実は……三人を団長さんに鍛えて欲しくて」

「「「はぁ!?」」」

「何? 鍛える?」

「ええ。まあ、団長さんは気付いていると思いますが……この三人、雑魚です。ジョブを持ってるだけで、その辺の農民以下の強さです」


 きっぱり言うと、ハインツがキレた。


「ふっざけんな!! 農民以下ぁ!? オレぁ『聖騎士』のハインツだぜ!? 舐めんじゃねぇよ!!」

「だから何だ。スキルの一つも持ってないくせに」

「そ、それはその」

「団長さん。こいつら、徹底的に鍛えてやってください」

「納得いかないね。ボクは『賢者』だ。魔法使いであるから」

「こいつらの言葉は全部無視で。これは、救世主としての権限でお願いしています」

「はぁぁ!? それ、オーボーだし!! ふざけんな!!」


 マルセドニー、ナヴィアも吠えるが海斗は無視。

 救世主としての権限……タックマンは頷いた。


「救世主としての命令なら従うしかないな」


 基本的に、救世主として召喚された海斗、リクトの二人は、王家から『命令された場合、その命令に納得ができるのなら従え』と言われている。

 過去、粗暴な勇者も多かった。言われるがまま命令に従ったこともあったらしい。

 なので、王家は教訓として『救世主の命令は絶対ではない』と残したそうだ。だが、やはり世界の命運を託す以上、権力は与えなくてはいけない。

 海斗は『指南役の冒険者を鍛えろ』という命令が、間違ってはいないと思っていた。そして、タックマンはその命令を聞いてくれた。


「よし。マークス、カイトはお前に任せる。こちらの三人はワシが自ら指導しよう」

「わかりました。ではカイト、基礎訓練から始めましょうか」

「はい。じゃあ三人とも、しっかり鍛えろよ」

「「「…………ッ!!」」」


 三人は、海斗を呪い殺さんばかりに睨む……だが次の瞬間、ハインツが殴られ、マルセドニーが腹に一撃、ナヴィア頭にゲンコツが落ちた。

 激痛に蹲る三人。タックマンはにこやかに言う。


「最初に見た時から、甘ったれのクズだとは思っていた。だが、貴重なジョブ能力者として見過ごしてはいたが……くくく、どうやらお前たちを鍛えることができるようだな」

「ぐ、お……な、何しやがるこのジジイ!!」

「い、いきなり殴るなんて、頭おかしいのか!?」

「そ、そうよ!! あたし女の子よ!?」

「黙れ!!」


 空気がビリビリと振動し、三人は「ひっ」と黙り込む。


「教えてやる。お前たちのような甘ったれのケツを叩く一番の方法は、痛みを与えることだ。これより、お前たちに地獄の訓練を課す……ワシについてこなければ、容赦なく殴り飛ばす」

「「「ひっ」」」

「さあ立て!! まずは鎧を着て王城周辺の走り込みだ!!」

「「「ひいいいいいいっ!!」」」


 三人はタックマンから逃げだした。タックマンは恐ろしい笑みを浮かべる。

 その様子を、海斗はややドン引きしながら見ていた。


「体罰を与える系の鬼教官だったのか……まあ、これで少しは真面目にやればいいけど」

「タックマン団長のあの姿を見るのは久しぶりですね……懐かしい。私も毎日殴られました。しかし、不思議とやる気になるんですよね」

(……そういえば、団長のジョブって何だろう。原作でも名前だけのキャラだしわからんな。というか……)


 海斗は、少しだけ不安があった。


「ではカイト。訓練を始めましょう」

「は、はい」


 海斗は構え、マークスと模擬戦を始めるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人は、騎士宿舎へ部屋を用意され、そこに住むことになった。

 そして、救世主の仲間としての鍛錬、スキルの獲得訓練が始まったのである。

 海斗は自室で、考え事をしていた。


「ざまあキャラ三人を使うことに決めたけど……不安もあるんだよな」


 そもそも、ざまあキャラ三人は原作一巻で消えるキャラだ。

 そして、『聖騎士』、『賢者』、『聖女』のジョブは、その後出てくることはない。完全に名前だけのジョブで、リクトのハーレムメンバーですら持っていないジョブなのだ。

 なので、どういう力があり、どういうスキルを持つのか、原作を読破した海斗にもわからない。


「それだけじゃない。名前だけのキャラクターも、ちゃんとジョブを持ち、生い立ちだってある。この世界は間違いなく『オレよろ』の世界だけど……個人のキャラ設定は原作者が考えたものなのか?」


 まず、タックマン。

 タックマンというキャラクターは原作には存在する。

 デラルテ王国騎士団、騎士団長。それが原作の設定。

 最初に海斗やリクトを鍛えるために現れ、その後は名前の描写もなく、最終巻でも出てこない。

 だが実際は、『大剣士』というジョブを持つ。原作では名前だけのキャラなのに、だ。

 海斗は、持っていた羽ペンをくるりと回す。


「原作者がこの世界設定を考えたんじゃない。この世界の物語を、原作者が知って日本でラノベとして書いた? いやそんなことはどうでもいい……問題は、物語通りに進むのかってことだ」


 海斗はカレンダーを見る。

 この世界は一週間が七日、四週で一月、一年は十二月の三百三十六日設定だ。

 今日は一月の二十五日。


「……そろそろ月末だ」


 イベントが起きる時期が、近づいてきた。

 海斗は、忘れないように書いてある『イベント』と書かれた羊皮紙を手にする。


「『十二執政官(コライドン)』の一人が、城にやって来る日が近い」


 この世界は、十三の種族が存在する。

 そして、世界は十二の領地に分かれ、それぞれの種族が暮らしている。

 だが、この世界は十三番目の種族、『魔族』によって管理されている。

 魔族は十二の領地に自治区を持ち、『魔神』より特別なジョブを与えられた十二人の『執行官』が管理している。現在、デラルテ王国に『王』は存在するが、それはあくまで飾り。実際は『執行官』が人間に指示を出し、領地を運営しているのだ。

 

「『十二執政官(コライドン)』序列第十二位。人間の国デラルテを管理する執行官、『短気』なスカラマシュ……さて、まずはこいつを倒さないとな。そのための仕込みは……よし」


 海斗は、『仕込み』が完璧にされていることを確認。その後のイベントを改めて確認するのだった。

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