感謝
宮中の奥深く、緊迫の祭祀殿ーー
英賀手は、白幣に囲まれ、白い短刀を握りしめたまま、静かに倒れ伏していた。
重臣たちはしこたま驚き、目眩がした。
「どないしよう!?」
「宗女、大丈夫でっか?」
「神罰ーーいや、長上の呪いやないか! 呪詛返しや!」
空気が騒がしくも凍りつく中——
英賀手の瞼が、ゆっくりと開く。
その瞳には、異様な眼光が宿っていた。
重臣総代は、涙を流しながら喜んだ。
「英賀手さま! よくぞご無事で!」
英賀手は、神々しい微笑みを浮かべて言い放った。
「ねえねと長上の恋を讃える、
絵巻物を描きます! 用意なさい!!」
「こっ、これは……神託や! 神託が降りたんやあ!」
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宮中の絵房から、絵師・夜比古が血相を変えて駆けつけた。
「英賀手さま……いったいどうされた?
よりによって、そんな世迷言を神託などと!
天媛が、お可哀想でなりませぬ!」
英賀手は、じっ…と夜比古を見つめると、言い放った。
「無礼者。天媛の名を騙り、宗女の神託を否定しようなどと。
この者と係累は即刻、全員都から追放なさい」
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重臣総代は考えた。
しめしめ、これはまたとない絶好の機会♪
天媛亡きあと、引き立て派閥は死に体だ。
天媛の父であった亡き宗主ーーそして、
天媛の元婚約者まで。
次々と派閥から出した栄光が、忘れられないのだろう。
だが、天媛はもう居ない。
たかが宮中絵師の夜比古ごときに、しがみついたが運の尽き。
着々と復権を狙っていたのが仇となって、
宮中に味方の乏しかった長上にも媚を売らずーー
今こうして、英賀手宗女に引導を渡されようとしているのだから。
「衛士。
夜比古と一族郎党を、都から追放せよ。
これは宗女のお言葉や!!」
「お待ち下さい、総代どの!
私はただ、英賀手さまを!!」
「黙れ。絵師ごときがほざくでないわ。
亡き天媛に感謝することや!
現宗女の後見人を、二度も足蹴にして置きながら、まだそこに首があるんやからなぁ!!」
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亜久里の侍女・タマリスは、蒿雀氏の兵団と共にーー旧都の鬼門で、獲物を待ち構えていた。
「追放された皆さま!
我こそはと思う者は、霧越京へ参りませ~
どしどし門戸を開いております。
なお、暴力沙汰人は除きます」




