仇
銀屏風の壮麗な光が、英賀手の震える肩を冷たく照らす。
夜比古の怒号が響き、重臣たちの非難が飛び交う中ーー
蒿雀亜久里は、柔らかに微笑んだ。
「我、蒿雀亜久里。
ねぇ、英賀手さま。お母さまって、呼んでもいいよ?」
「ねえねを、ばかにするなっ(# ゜Д゜)」
普段大人しい宗女の咆哮に、合議場は、一時静まり返る。
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重臣総代は、英賀手の怒りに勢いづいた。
「何でもかんでも、事前に相談せなアカンやろ!!
政務、跡目に関わる一大事、独断で既婚宣言とは何事や!!
王朝の運営責任、忘れたとは言わせんぞ!?」
重臣派閥も、追撃して巻き返しを図る。
「天媛のご遺志を継ぐ者が、こない私欲丸出しとは、どないなっとんねん!
あやぎり朝を汚すんやない!!」
「せやせや!!」
夜比古は、保護者モードを全開にした。
「身勝手な真似を…その立場を忘れたか長上!
英賀手さまが動揺するじゃないか!!
天媛を想い、英賀手さまの身を案じる者として、勝手など許せん!
これで英賀手さまが気に病まれ、寝込まれでもしたら……
どう責任取るつもりだ!!」
引き立て派閥も、夜比古の激怒にいよいよ活気づく。
「そうだそうだ!!」
宮中は、今日もおおさわぎ。
もはや争点は、万葉仮名使用問題どころでは無く、長上の進退にまで飛び火した。
英賀手は、亜久里(^_-)-☆♪の態度にカンカン(# ゜Д゜)で、後見人交代危機には、全く気がついていない。
長上は突如、誰もいない場所に湯飲み一碗を放り投げた。
茶器は粉々に砕け散り、室内に乾いた音が鳴り響く。
「誰が一人だけだと言った。
亜久里だけじゃない。今後もさらに結婚する」
(あたくしが……いちばんじゃなかったの(╯︵╰,)(哀))
英賀手の頭には、がーんがーんと鐘の音が鳴り響いた。
これでは実妹の天音どころか、嫁以下の他人に成り下がる。
「そして。政務上の都は遷都だ」
これには派閥を問わず、あやぎり朝の大人たちが食ってかかる。
「遷都なんかできるわけ無いやろ!
誰がキサマなんぞに従うかいな!」
「そっくりそのままお返しする。
主要な各領主たちは全員寝返った。
両属朝も円理朝も俺の味方。
最低限の施設はできている。
古都はーー祭祀でもしていろ」
長上は、宮中を政治の場とすら認識していない。
あまりの内容に、夜比古は失神寸前だった。
そもそも長上の大量嫁宣言の時点で、
古代プラトニック成人には、理解が追い付かない。
英賀手は、それにも気づけない。
頭の中は、遷都先での悲観的将来でいっぱいいっぱいだ。
ーーがーんがーん…
長上の嫁、たくさん…?
遷都先、長上嫁だらけ…?
ヨヨヨ(;∀;)…生きる希望……失う(哀)…
「英賀手宗女」
「ヨヨヨ(´;ω;`)?」
こんなに泣いているんだから、また涙を拭ってくれないかな?
英賀手のかすかな期待は、見事に打ち砕かれる。
「英賀手。ーー天媛を殺したのは、俺だ」
英賀手は、袖の袂をきつくきつく握りしめた。
重臣も夜比古も「は?」と凍りつく。
長上は続ける。
「成人したら、仇を取りに来い。
……できるものならな」




