人漁り
今宵も宴だ。ぜひ泊まっていくようにとの領主のお誘いは固辞して、門客は阿諛と館を後にした。最寄りの食堂で不貞腐れる元勁槍将軍――いや長いな。少し早いが、匪躬に変えて正解だ。を回収し、宿屋に戻って人心地ついた。
「宴なんか開いてる場合か。確かに要は漁村の回復だけど。これを期に、事前に糧食財産を安全地帯に確保しておくとか。状況が落ち着いたら、いざという時の逃げる算段を、統治者と住民総出で考えて練習するとか。他には――」
指折り数える阿諛を見て、やはりあれは皮肉混じりの諫言だったなと得心した。
「そうだな、阿諛。何事も未然に防ぐのは無理だ。肝心なのは日頃の備え。誰が主君だろうが、いつか不幸は起きる。それは今日かも明日かも知れないが、立場によっては大した影響もないからな、あまり実感も湧かぬのさ」
門客としてはまだまだ語りたいところだが、匪躬め、阿諛もまだ考えている様子なのに。食堂で買ったらしき菓子を口元に差し出して、気を引こうと躍起になって。そこへ何ともお誂え向きな事に、門客を頼って来訪者が現れた。山椒漁の親方だ。
「門客、うちの娘を何とかしてくれ。毒もみ女と恐れられ、嫁の貰い手が一向に現れない。せめて身なりだけでも、年頃らしゅう振る舞ってくれれば~、あれでは益荒女よ」
「それは大変お困りですなあ。でももう心配ない。なあ阿諛」
「ええ~、俺また結婚すんの。この前別れたばかりなのに。門客って、ほんと仲人趣味だ。いっそ口利き屋に転職したら」
言いえて妙だなあ。もし長生きできたら、老後はそうするとしよう。




