【閲覧注意】気配 ⚠️中絶に関する描写があります⚠️
宮中での仕事を終え、天媛はいつものように寝所へ向かう。
しかし足取りはいつもより少し重く、胸の奥で微かなざわめきがする。
(……今日もなんか、ちょっと気持ち悪いな……)
(……いや、あて、無理してるんやけどな……大丈夫や、平気平気……)
夜比古は寝所の入り口で待っていた。
「天媛、今日は少し顔色が悪いように見えるのですが……疲れているのかい?」
──やはり、目ざとく気づかれた。
天媛は咳をひとつして、顔を背ける。
(あー、やっぱり……ちょっとはバレてるんか……?)
(でも、まだ確定ではない。絶対、まだ知られたらあかん……!)
日ごとに、天媛は体調を整えつつも、微妙な変化を隠すのに神経をすり減らす。
些細な動作、席を外すタイミング、手を口に当てる仕草──
すべてが夜比古の目には、疲れや気配りの一環として映る。
(……外に出るのも、少し減らさなあかん……)
(でも、さりげなく……夜比古には悟られへんように……)
女官たちも変化に気づき、心配そうに目配せする。
天媛は微笑んで手を振る。
「ええ、ほっといてや……ほんまに、ほっといてくれや……」
夜比古は気づく気配もなく、従来通りに天媛の動きを見守る。
ただ、微妙に感じる“何か変だな”という違和感だけが、胸の奥に残る。
(……これ、いつまで隠せるんやろ……)
(……でも、まだ知られたらあかん……!)
夕暮れ、窓から差し込む柔らかい光が天媛の肩を照らす。
その光に、微かに膨らむ影が重なる──
けれど、夜比古はそれを、まだ見逃している。
天媛は小さく息をつき、胸元に手を当てる。
(……あと少し……あと少しだけ、誰にも言わんとこう……)
✦
震える手で、天媛は植物の実を口にする。古代の中絶薬──。
最初は何も起こらなかった。拍子抜けの安堵が、すぐに裏切られる。
「ふぐうっ……!」
強烈な痛みが腹部を貫き、嘔吐が止まらない。
立ち上がることすら出来ず、床に蹲る。
痛いいたいいたい……冷や汗が止まらない……
くるしい──息ができない!! だれか!
誰かたすけて………
女官が飛び込んできて悲鳴を上げ、すぐに医女が呼ばれた。
処置が行われるも、血は止まらない。
天媛の意識は朦朧とし、手の施しようもない。
✦
「一体どういうことだ! 医女は何をしていた!」
知らせを受け、夜比古は寝所へと駆けつける。
天媛の命は、風前の灯火だった。
自分との間に心当たりは──
一切ない。だから堕ろそうとしたのか?
相手はだれだ? そんな命知らずの不届き者は。
天媛は危なっかしい。
求婚者を集めていた時代は、彼らを道端でからかうために、わざと野宿までしていた。
いくら町人の目があるとはいえ、夜比古は気が気ではなかった。
だが、各領主からの求婚者集めはとっくに終わり、全員帰路に就いたはずだ。
今さら宮中に顔を出せるはずもない。
彼らには参内資格がないのだから。
天媛と交流があり、頻繁に出入りしていた人物──他の婿候補か?
いや、それならば……夜比古との婚約を解消するだけで済む。
結婚など出来ない相手。
近習か? だがその程度の相手、口を封じてしまえばよいだけだ。
天媛ひとりが泥をかぶる相手。
──よほどの情か?
或いは、利害ある相手からの暴行。
「そこの女官。
かはそに朝の合議場から、長上を呼べ。
連れも含めて全員だ」




