黄昏
夕焼けが川面を朱に染める祖霊祭のたそがれ。
天媛は吐き気を抑えながら、門客の言葉を聞いた瞬間ーー、
胸の奥で、何かが音を立てて割れた。
(……オメデタ?)
(……あてが?)
心当たりなど………ひとつしかない。
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宮中に戻ると、医女がすぐに天媛の脈を診た。
「……むむ、脈の様子が、いつもと少し違いますね」
医女は眉をひそめ、慎重に続ける。
「この感じ……可能性としては、少し早いですが、ご懐妊の気配があるかもしれません」
天媛はぎょっとして、手に力が入った。
(脈だけでわかるんか……!)
(……いや、わかるっちゃわかるんやろな……)
医女はさらに続ける。
「ただ、確定ではありません。
月が変わり、体調を見ながら慎重に診ていく必要があります」
天媛は深く息をつき、袖で軽く顔を覆う。
(……いや、そない軽く言わんといてや……)
(どないしよう……! あて、どないすりゃええの……?)
「箝口令や。夜比古にも、重臣たちにも言ったらあかん」
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医女退出後、女官のひとりが小声でつぶやく。
「……さっきの医女、なんか言うてはりましたな……天媛さま、顔色悪いですわ」
別の女官も眉をひそめる。
「うちも見ました……手をぎゅっと握って、少し震えてはりますわ」
さらに年長の女官が口を出す。
「そないなこと……でも、これは内密にせなあかんことや。宗女のご身体に関わることですさかい」
若い女官が、心配そうに天媛をのぞき込む。
「天媛……あんまり無理せんと……」
天媛は顔を少し赤らめながらも、そっと手を振る。
「ええ、ほっといてや……ほんまに、ほっといてくれや……」
女官たちは、微かにざわめきながらも、天媛の意志を尊重して静かに離れた。




