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祖霊祭

都を流れる川岸では、祖霊祭の準備が整えられていた。


天媛の父母が相次いで亡くなって既に久しいが、今日から数日間にわたって、宮中・諸侯・重臣たちが集う、大規模な追善が執り行われる。


祭壇には香と供物が並び、祈祷師たちが整然と動く。

古代の祖霊祭は、亡き人を天に送り、氏族や子孫の繁栄を祈る儀式だ。

鳥葬によって遺体は天に返されているものの、

宮中の人々は祭壇を囲み、供物を捧げ、祈りをささげる。


天媛は祭事の合間に、父方親族や各地の領主たちと、顔を合わせる。


「お母やん……お父やん……皆さまにお目にかける場です……」


淡い光の中、天媛は深く頭を下げる。


内務院を率いる河鹿は、祭壇の脇で参列者の動向を見守る。

重臣たちの視線は鋭く、策を練る気配が漂う。

元内務ーーその名を夜比古やひこは、重臣たちの隣で、腕を組みながら言った。


「さて……英賀手さまの許嫁候補もそれとなく、顔を見合わせておかねばなりますまい」


重臣の一人も、そっと口を開く。


「せやせや、まだ幼いとはいえ、相性を見ておくのも悪くないで」


天媛は頷き、子供たちを集めて遊ばせる。

川岸で鞠つき対決する英賀手と、許嫁候補たちの姿を、貴族や重臣が見守る。


争いを超えた静かな時間、子供たちは笑い、宮中は穏やかな空気に包まれる。


河鹿は胸の内で思う。

「この祖霊祭が、ただの追善ではなく、宮中の未来を整える機会になる……」


祭壇の香が立ち昇る。

遠くで鳥が空を舞い、天に父母の魂を運ぶように羽ばたく。


数日間にわたる祖霊祭は、追善の意味を保ちつつーー天媛の婚約者お披露目、英賀手の許嫁話を再浮上させる、絶妙な舞台となった。


天媛は穏やかな笑みを浮かべ、祭壇の向こうに父母の顔を思い浮かべる。

「お母やん……お父やん……すべて、この子らのために」


祖霊祭の静かな喧騒の中、宮中の未来は、ゆっくりと動き始めた。



川風がひゅうと吹き、鞠がふわりと浮いた。

英賀手は両手を広げて受け止める——つもりだったが、横からすばしこく伸びた手にさらわれた。


「英賀手さま、見ててえや! オレ、三回続けられるで!」


「いや、ぼくの方が上手や!」


許嫁候補の童たちは、まるで獲物を競う小鳥のように、英賀手の前でぴょんぴょん跳ね回る。


誰もが「自分こそが将来の婿であるぞ」と無言で訴えているのが、幼い英賀手にも分かった。


——でも。


(べつに……誰とも鞠つき、したくないんやけど……)


上手いのは分かる。着物も綺麗。礼儀もきっちりしている。

けれど、英賀手にとっては「ずっと交替してくれない鞠つきメンバー」にすぎず、

異性に対する気恥ずかしさから、「代わって」とも言えなかった。


(ひとりで静かにやりたいだけなのに……)


その瞬間。影が落ちた。


「ギャーー(ドサッッッ)」


一人の許嫁候補が地面に転がり、その上に女の童が落下してきた。


「助けてくれてありがとう!

 わたしは天音あまね! お兄ちゃんの妹です❤」


英賀手は目をむいた。

許嫁候補は、ジタバタと天音の下でもがく。


「重い重い重い!! どけ女の童ーーー!!」

「ごめんなさい! えっへへ!」


土埃を払って立ち上がったのは、目がくりくりした女の童だった。

髪に木の葉をつけ、着物もところどころ乱れている。


にもかかわらず、にっこーっと笑って言う。


「わたしが天音! お兄ちゃんの妹!   

 英賀手さま、おおきに!!」


あまりの勢いに、英賀手の返事は喉の奥でつっかえる。

天音は英賀手の困惑などお構いなしに、ずいっと顔を近づけた。


「わたし、ずっと見てました! 英賀手さま、ぜ~んぜん楽しそうじゃない」


図星だった。


「……あ、あの……」

「みんな、英賀手さまをちゃんと見ようよ!

 勝手に自慢ばっかしないで!

 そんなの、全然面白くない!」


天音は、誰かさんと似たように正論をバッサバッサと言い切った。

それから手鞠を拾い上げると、英賀手の手のひらに、そっと押しつけた。


「英賀手さま、どんな遊びしたい? 言ってくれたら嬉しいな❤

 わたし、いっしょにやる~」


英賀手にとって、初めて聞かれた言葉だった。

「あなたは何をしたいの?」と。


胸がちくりとして、喉が熱くなる。


(この子……やさしいわぁ……)


「……ひとりで、静かに……鞠、つきたいんや」


すると天音はにっこり笑って、


「素敵! わたし横で見てていい? 邪魔しないようにするから」


天音はあまりにも自然に、あまりにも新鮮に英賀手へ歩み寄った。

英賀手は、胸の奥が、ふわっと軽くなった。


「……おおきに……」


つい、ぽつりと言ってしまった。


天音は「えへへ」と笑い、膝に顎を乗せて英賀手を見守る。


さっきまで騒がしい喧騒だった川岸は、英賀手にとって、急に居心地のいい場所に変わっていた。





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