新内務
次の朝、内務室にはいつもより重苦しい空気が漂っていた。
淡い月光の残滓が障子を透かし、床に細く伸びる影を描いている。
内務は静かに書類をまとめ、重臣たちを出迎えた。
「蓮角河鹿を、次期内務に推薦します」
その言葉に重臣たちは一瞬、微かな動揺を隠せず、互いの顔を見合わせた。
「河鹿を内務に……? アイツ武官やろ……?
そないなこと、出来るかいな。前例もない」
内務は動じず、むしろ落ち着いた調子で続ける。
「前例ならある。
例えば蒿雀氏。才ある者を幅広く登用している。
将兵から軍医へ転身する者だって居る。
次に蓮角氏。
そもそも武門とはいえ、武勇だけでは、領地経営など成り立たない。
河鹿とて、蓮角氏に戻れば若君の姉として、
数々の政務を熟す、れっきとした内務家です」
その場に張り詰めた静寂が落ち、重臣たちの微かな息遣いさえ聞こえるほどだった。
内務は深く息をつき、辞職を宣言した。
「よって、私の職務はここで終わりとします。
新たに内務院を設置し、河鹿に全権を委ねる。
すでに天媛の承諾も得てある」
宮中の勢力図は音もなく、しかし確実に変化した。
重臣たちは沈黙のまま、口を開けて驚きを隠せない。
長年の計略も、経験則も、この一手で覆されたのだ。
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障子の向こうから射し込む朝の光が、内務院の旗を淡く照らす。
河鹿は静かに足を踏み入れた。
その動作ひとつひとつが落ち着いていて、まるで隙がない。
重臣たちは、怒りや不満、焦燥を押し込めながらも、河鹿の手腕を無視できないことを悟る。
中には目を細め、悔しさを噛みしめる者もいる。
「してやられたわ……まさか、こないあっさりと……」
河鹿は微動だにせず、内務として部下から報告を受けていた。
その姿勢からは、決意と冷静さが滲んでいた。
重臣たちは押さえきれぬ感情を胸に、しかし黙して見守るしかなかった。
内務院の発足は、宮中に新しい秩序をもたらした。
一日の始まりと共に、重臣たちの思惑は一歩遅れを取り、
河鹿の存在感だけが、いや増した。




