打診
内務室は淡い月光に照らされ、静寂が支配していた。
内務は書類の山を前に指を組み、深く考え込む。
膠着状態の宮中……重臣たちは尽く引き立て派閥からの後任は拒否、
重臣派閥に打診しても辞退……。
唯一の突破口は、派閥の外の人物。
宮中で発言権を持ち、信頼できる者。
天媛の護衛兼、観戦武官ーー河鹿しかいない。
「入りたまえ。河鹿」
「内務、何の用でしょう」
「後任として、キミを内務に任じたい」
河鹿の眉が、ぴくりと動く。
「それは……私の務めではありません。
観戦武官として宮中にいますが、管理や調整の役は……」
内務は静かに息をつき、思考を整理して言葉を紡ぐ。
「キミの立場は理解している。
だが考えてもみたまえ。
重臣たちは、歴史ある家の者しか後任を認めない。
引き立て派閥は拒否。
この膠着は、全て天媛に直接跳ね返る。
宮中の権力闘争は、彼女の権威を脅かすのだ」
河鹿は目を細め、黙る。
内務はさらに踏み込む。
「そして、キミならやれる。
普段の業務はもちろん、冷静な判断力と宮中での経験……
私は誰よりも、キミを信頼している。
この状況を脱するには、キミしかない」
河鹿は、首を横に振る。
「それでも……蓮角氏の一員として……
宮中の派閥間の抗争に私が関わるのはーー危険です」
内務は視線を固定し、理路整然と話す。
「こうも考えられないかい?
内務は辞職できず、結婚も先延ばし。
天媛は重臣たちの思惑により、政治の渦中で寝込んでいる。
キミが介入すれば、少なくとも天媛は守れる。
これは私のためでも、派閥のためでもない。
純粋に、天媛の安寧のためだ」
河鹿は言葉に押され、しばらく黙る。
内務はさらに、柔らかく言葉を続ける。
「無理にとは言わぬ。
だが、これもまた、天媛の護衛ではないだろうか」
河鹿は深く息をつき、膝を折ったまま視線を落とす。
「……承知しました。天媛のため、全力を尽くします」
内務は静かにうなずき、月光に照らされる河鹿の姿を見つめる。
「ありがとう、河鹿。
これで、状況を打開できるかもしれない」




