純愛
天媛が布団から手を伸ばし、父方筋の男ーー内務を指さす。
「ほら……おった……あて、この人がええ……」
女官たちは歓声を上げた。
「あぁ~~~やっぱりそうなんや~~!!!」
重臣たちの頭の中では、複雑な板挟みが生まれていた。
(あかんあかん。このままでは天媛父方筋の……)
(ご落胤として宮中入りし、非業の死を遂げた前宗主のーー)
(田舎モン親族たちが、えばりくさるだけやん!)
(やけど、天媛の“明確な指名”や。下手に動いたら政変の火種にも……)
(んで負けたら、今度こそしまいや……)
その静かな間に、内務は微笑みを浮かべ、静かに天を仰いだ。
「これで、ようやくなのかい……?
長上と噂になってよかったよ。今まで、縁談を跳ね除けた甲斐もあった」
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父方筋の面々は、心の中で静かに微笑む。
(これ……我ら千載一遇の機会では?)
圧勝ムードは、言葉なくして場を支配する。
一方その頃、英賀手は、天媛の養女入りが確定したことを知らされる。
そして喜びのあまり、せうびん氏の屋敷で庭中を駆け回る。
「わ~い! ねえねー♡」
せうびん氏一族も、ほっと胸を撫で下ろす。
「これで外戚の地位は、今後も安泰♡
英賀手が産まれた際は、男じゃないのを悔やんだものだが……
あー、よかったよかった~」
しかし、重臣たちの思惑には反していた。
英賀手を擁する、せうびん氏。
彼らなら、宮中とも繋がりが深い。
だが、英賀手養女化で、天媛側に渡った直後ーー
天媛が内務と結ばれれば——
「養母(天媛)+養父(内務)の悪魔合体が完成」
→かはせに朝の宮中では、
代々続く家臣派閥 VS ご落胤前宗主の引き立て派閥が対立している。
これはつまり、天媛の跡目がーー
養女・英賀手だろうが
実子・天媛と内務の子となろうが、
引き立て派閥の大勝利エンドである。
重臣たちの思惑は、完全に裏目に出たのだった。
天媛は熱でぼーっとしたまま、素の好みで選んだだけ。だが、政治地図は一瞬で塗り替わった。
ーー女官たちはすでに、心の中で純愛物語をしたためる。
「天媛がまだご幼少のみぎりから
ずっと陰に日向にお守りして……
女官の目が届く、月夜にしか現れず……
他の女性には目もくれず……
想い続けておられたん……?」
「せ、切ないやんか……でも、素敵やわあ……!!」
「だからずっと独身貫いてはったんや……
天媛だけを心に……!」
月夜にしか現れない、父方イケメンの、風流な姿。
天媛の快癒を願い、千人針を携えて迷わず参上——その姿に、宮中の空気は一変する。
「天媛……お幸せに……(泣)」
重臣たちも、もはや強硬手段を取りにくい。
宮中全てが、父方イケメン × 天媛CP支持の空気で満ちていた。
長上は両属朝の帰路で、ふと独り言を呟く。
「よかったな~、英賀手。これでいつでも、ねえねと一緒だぞ」
ーー天命も偶然も、すべてがこの月夜に収束する。
そして、父方イケメンの株は、宮中でノンストップ上昇したのだった。




