権威
天媛の権威は失墜した。
たかが蔵人ごときに攫われ、宮中から姿を消したのだ。
計里勾人をギリギリまで説得し、計里氏を滅亡の淵から救いたかったーーなどのたまったところで、
かはそに朝のお膝元に絶対的な誇りを抱き、各領地を見下す町人からは、単なる世迷言、あるいは元求婚者との醜聞としか思われなかった。
天媛は、御座所に閉じ籠もった。
宮中では、重臣たちが膝を連ねて協議を重ねた。
ーー天媛の跡目は、誰が継ぐのだ?
有力候補は、
・宮中の上達部の青年
・蓮角氏の若君
・天媛の父方筋の男
しかし、いずれも決定打には欠けていた。
誰が継ごうと、かはそに朝は荒れるだろう。
重臣たちは扇をパタパタと煽りながら間を取り、時折茶をすすった。
黒髪の重臣は眉をひそめ、扇の先でゴザを軽く叩く。
「宮中としても、天媛守り切れんかったんや。
これは重い責任やで。なあーー皆の衆」
白髪混じりの重臣は目を細め、ぱたん、と扇を閉じ、茶を一口含む。
「……蓮角氏の若君は、救出に尽力してはるし、信任も篤いんやけど……
たかが一領主の跡取りや。
かはそに朝の宗主になるっちゅうのは、黙っとれへん」
髭の重臣は扇を小刻みに振り、ため息を漏らす。
「せやせや、他の領主まで我も我もとーーほっといたら、国中乱れるで」
眼光鋭い重臣は椀を飲み干し、微かに顎を撫でる。
「天媛の父方の血筋は、宗主としての資格には及ばへん。
直系の血筋あってこその宗女や」
威厳ある重臣は広げた扇を揺らし、視線を皆に巡らせる。
「せやな、亡き母君の直系やからや。
天媛こそが、かはそに朝の宗女になれるんやで」
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その頃の阿諛ーー長上は、肩に濡羽色の鳥を一羽留まらせながら、
天媛に番の鳥を献上した。
円理朝の太母からの、見舞いの品である。
「天媛、ご覧ください。
この瑠璃と金色の羽。実に見事な発色です」
「そっちの肩のも同じやろ? 顔つきとかまんまやん」
「さすがの慧眼です。
見た目にこだわらず掛け合わせると、すぐこうなるのです」
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都の宮中、重臣たちは会議を続けていた。
そこへ、しずしずと女官が現れ、先触れを告げる。
「お話中、失礼仕ります。長上が、ご挨拶にと――」
黒髪の重臣が扇をパタパタさせながら言う。
「ほう、律儀なやっちゃなあ」
白髪混じりの重臣が茶を含みつつ口を出す。
「わざわざこっちに挨拶まで来るか……ええ根性やな」
髭の重臣は小刻みに扇を振りながら。
「また天媛の見舞いやろ。にしてもこう頻繁に、少し怪しい気もするのう」
威厳ある重臣が視線を巡らせ、扇を揺らす。
「せやな……都におる以上、あちこち自由に動かれへん保証はない。
油断はできんわ。ーー女官、部屋に入れたれ」
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長上が一礼し、席に着く。
重臣の一人が口を開く。
「さて、長上――天媛の跡目は、誰に継がせるのがよろしいやろか?
あんさんは中々やり手やからな。ちょっと言ってみいや」
黒髪の重臣が扇を小さく揺らす。
「宮中の青年か、蓮角氏の若君か……あるいは、天媛の父方筋の男か……」
長上は穏やかに手を組み、静かに答える。
「いえ、変わらず天媛でよい。
天媛は壮健です。候補者方も、まだお若い。
じっくり素質を見定めるべきでしょう」
白髪混じりの重臣が微かに目を細める。
「なるほど……? ま、二心はなさそうやな。
帰ったってええで」
「では」
「待たれよ」




