幻
勾人は、しつりの瞳をまともに見つめることができなかった。
「そなたは兄と、何が違う?」
「俺……俺はーー」
言葉ははっきりしている。簡単な問いに思える。
しかし、答えられるはずもなかった。
胸の奥が張り裂けた。嫉妬、罪悪感、見たくもない欲望――それらがどろどろに絡み合い、何を選ぼうと口に出せない。
しつりは静かに頷いた。
「やはりな。天媛は正しかった」
勾人は噎せながら、何とか声を絞り出す。
「……そう、思ってくれていい……失礼する」
足早に屋敷を後にする。
背中に視線を感じながらも、振り返る余裕はなかった。
計里氏の都屋敷へ戻る途中、胸の奥で何度も呟く。
「阿諛……俺は……どうしたらよかったんだ……」
阿諛のことを考えれば考えるほど、心が痛む。
なにも答えられなかった自分に苛立ち、絶望し、嫉妬の炎が熱く燃える。
それでも、前に進まねばならない。逃げるしかない。
夜の闇に紛れて、勾人は息を切らしながら、ただ一心に家路を目指した。
夜遅く、都屋敷に戻ると。
家人の出迎える声が響く。
「どちらまで行って居られたのです? 都の夜は危のうございますよ」
勾人は、生返事をして部屋に戻った。
一睡も出来ない。考えれば考えるほどに、思考の渦に飲まれていく。
勾人は、床に突っ伏して目を閉じる。
夢の中、館の一室に鍵の音が鳴る。
阿諛が微笑み、手を差し伸べている。
「阿諛……すきだ……」
「えー……⁄(⁄⁄^⁄-⁄^⁄⁄)⁄」
くすぐったそうに笑う頬に手をのばす。
目線が合った嬉しさと同時に、気恥ずかしさが押し寄せ目を逸らしてしまう。
「こっち向いてよ……」
ーー全部、都合の良い妄想だ。
あの三夜ーー本当に想いなど通じていたのだろうか?




