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勾人日記連録:阿諛宮中観察

天媛は、反物を好む。

しかし、着道楽には程遠いため、

蔵には仕立てに出さない布地があふれる。


下賜する機会もほとんどないため、カビだらけになった布地は払下げるか、

あるいは宮中の掃除用具として使われる。


だが、それにすら適さない布地は、もうどうしようもない。

 

勾人は、蔵人として宮中の片隅に出仕する傍ら、布地を選別して明礬水に浸し、乾かして絵巻物や書付にほそぼそと供給するのが日課だった。

だが、大した数は作れず、また手伝う者も居ないため、こうして大陸当て字の練習がてら、ひそかに宮中日記をつけるのだった。



〇月〇日

阿諛、本日宮中行事にて初めての参内。

天媛より長上おさがみの地位を授かった。

地方領主達に次ぐ地位で、高くはないが、低くもない。

今までの両属朝は、円理朝の傀儡政権として、

円理下級貴族の地位しか持っていなかった。

しかしこれで、かはそに朝もまた、堂々と両属朝に干渉できるようになったのだ。


〇月✕日

今日は宮中の詠合わせ。

長上には隠しきれない育ちによる粗野な振る舞いが、所々垣間見え、御前の扇子を逆に持ちそうになったり、床几に腰掛けるタイミングを誤ったり。

しかし周囲はそれを、「風情ある逸材」と称え、阿諛本人も焦る素振りなく、静かに笑ってごまかす。

心中、私は苛立ちを隠せず、阿諛の自然体に嫉妬し、目を細めて見守る。


▲月△日

長上、宮中の茶会にて、天媛の推す女官と茶を酌み交わす。

一瞬、袖が触れたように見え、周囲が微笑を漏らすも、阿諛はすぐに距離を取り、軽く会釈して笑顔を保つ。

立ち話程度で和やかに振る舞う阿諛の姿が、私の胸をぎゅっと締めつける。

あの笑顔を誰も独占できぬのかと、無意味な苛立ちを覚える一日であった。


✕月●日

宮中行事、長上が御簾前で軽く躓く。

一瞬場が凍るも、阿諛は慌てず「失礼」と一言。

高貴なる方々はその態度に感心し、まるで雅や通の所作に見えると称賛。

私の心中は荒れ模様。阿諛の粗野さと謙虚さが同居する姿は、私の理性を揺さぶる。

己が蔵人として片隅に控える無力さを痛感する日。


◇月□日

浮名騒動、長上の前で数名の若き貴族が談笑。

阿諛は一瞬頬をゆるめるも、すぐに距離を取り、世間話で場を収める。

私は目を離せず、心中「なぜ誰とも結ばれぬのか」と自問。阿諛が笑いながら手を振る瞬間、その自由さと孤高さが私の胸を刺す。


☆月◇日

長上、本日御前の舞会で無理な作法を試み、扇を逆に持ちかける。

「それは裏表が逆……」と誰かが声を掛けるも、阿諛はにこやかに訂正し、周囲の笑いを誘う。

高貴なる者たちは「粋だ」と讃えるが、私の胸は冷や水を浴びたように締め付けられる。

あの人は、いつも誰よりも自由で、誰よりも注目されるのだ。


〇月◆日

月見の際、長上が天媛の推す男子と軽く会話。

その後、ふたりでどこかに消える。

戻って来ると、互いに無難な季節話で終わらせる。

その冷静さ、自然さが、私を苛む。

どうして彼の隣に立つべきは私ではないのかと、心の奥で叫ぶ。




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