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絶縁

天媛は立ち上がり、控えていた女官が御簾を上げた。


「ほな両属朝行くで。阿諛に“別れよ”って言うてきな。

 嫌い、興味ない、縁切りたい――全部あんたの口から言うんやで。

 あての名前? 出してええよ。『求婚者どの』」





両属朝ーー勾人は手を震わせながら、御簾の前に立つ。

中から阿諛の声がする。

つややかで、無邪気で、

これから未来しかない若い声。


「あ、勾人さん。来てくれて嬉し――」


御簾が上がる。

阿諛はほころんだ花みたいに笑っていた。

その笑顔が胸に刺さる。


「……阿諛。話がある」

「ん? なにかしこまって……」


勾人は目も合わせずに言った。


「……もう、終わりにしよう。

 阿諛のこと……嫌いになった。

 興味もない。

 だからもう会わない」


「……え?」


「……天媛――いや、天邪鬼が阿諛を気に入った。

 俺は手を引く。

 お前はもっと上に行ける。俺は足枷だ」


阿諛の顔から血の気が引いた。

それからしばらく黙っていた。

震えた唇を噛みしめ、目を潤ませ、

それでも無理やり笑った。


「……そっか。

 いつか――ちゃんと後悔してね?」


阿諛は背を向ける。

肩が震えていた。

御簾が静かに下がる。

その直前、かすれた声が漏れる。


「……あなたの“足枷”でいたかったな…………」


天邪鬼が、柱の陰からゲラゲラ飛び出した。


「おぢ~~、よう言えたなあ!?

 阿諛の顔、真っ青やったで~~~!」


天媛が、扇子で口元を隠しながら笑う。


「お疲れさん。

 ほな、次の“献上物”の話でもしよか、勾人?」


勾人は返事をしなかった。

ただ、立ち尽くしていた。





牛車で遥々かはそに朝へ戻り、

宮中・禁裏宝物庫に通された。


勾人は“縁切り”任務を果たした直後。

天媛は無言で勾人の袖をつかみ、

宮中の奥へと連れていく。


「……天媛、どこへ……」


「献上物、って言うたやろ。

 “ほんまに大事なもん”を差し出してもらうで?」


重い石扉が開く。

中から、冷たい空気と香木の香りが漂う。





玉座級の宝石、神鏡、神器の写し、

古代王朝の木簡巻物、禁呪の札。

灯火だけが赤くゆらめく。


天邪鬼は、高い棚の上で足をぷらぷらさせている。勾人を見るとゲラゲラ笑う。


「おぢ~~、ついにここ連れてこられたかぁ。

 ここ、宮中でも十人くらいしか入れへん特別席やで?」


「な、なんで俺がこんな……」


天媛は一つの“木箱”を持ってくる。

白い布に包まれ、油紙で封じられた竹簡の巻物。


「これが何かわかる?

 “阿諛との縁”が全部書かれた大陸文字や。

 門客に書かせた」


「……俺の……?」


「せや。あんたは今日――これに署名(血判)して、

 “縁切り”を宮中に正式に届け出るんや」


「は……? いや待ってくれ、さすがにそれは――!」


天媛は竹簡を巻き直し、勾人の胸にぐっと押し当てる。


「両属朝で阿諛に言うたやろ?

 “嫌い・興味ない・縁切りたい”…全部あんたの口から。

 ほな、証拠残さなあかんやん?」


天邪鬼がケタケタ笑う。


「ほらおぢ~~、“口だけ別れ”で済むと思った?

 そんな甘い世界ちゃうでぇ~~!」





天邪鬼が巻物を広げて読み上げる。

そこには、はっきりと書かれていた。


『勾人、阿諛との縁を永久に絶つこと』

『以後いかなる保護・接触も許されぬ』

『違反すれば、累は計里氏一族に及ぶ』


「……っ……こんなの……ただの脅迫じゃ……!」


天媛は静かに言う。


「阿諛は“もっと上へ行く子や”。

 あんたみたいな中堅氏族に縛られてたら、未来が腐る。

 ……自覚しぃ。あんたは足枷や」


勾人の喉が鳴る。

天邪鬼はニタァと笑う。


「おぢ、拒否ってもええで?

 ただしその瞬間、阿諛は“あての庇護から外れる”んよなぁ~~」


天媛は、厳かに告げる。


「――選び。

 阿諛を自由にするか、

 阿諛を潰すか」


部屋が静まる。

灯火の音だけが、ぱち、と鳴る。





勾人の手が震える。

だが、天媛が刀を抜き、

勾人の指先を軽く切った瞬間――


ぽたり。


赤い血が巻物に落ちた。


「……はい。これで“公式の縁切り”は成立や」


勾人は、声が出ない。


天邪鬼? 天媛? が、コロコロ笑いながら天井を指さす。


「おぢ、これで阿諛は“もっとええ求婚者のところへ”行けるで?

 よかったなぁ~~?」


勾人は、何も言えなかった。

ただ、赤く滲んだ自分の名を、目の前で見下ろすだけだ。





巻物が巻き戻され、天媛の侍従が持ち去っていく。


その瞬間――


天邪鬼は飛び跳ねた。超絶笑顔で。


「よっっしゃああ!!

 これで阿諛はフリーやな!!!

 好きな求婚者、選び放題や(☞゜∀゜)☞!!!!」


「は?(ʘ言ʘ╬)」バンッッ!!!


勾人は、朱塗りの机を叩いた。

机から、木簡が転げ落ちる。

室内の、空気が一瞬で凍る。


勾人の顔は、


“失恋して数分の男に言ってはいけない言葉”のすべてに命中した顔。


天邪鬼は、まだそれに気づいていない。


「あの子、最近めっちゃ人気やったしな~?

 献上された別荘を次々と施薬院に改修工事。

 庶民ウケもバッチシや!

 ほら、宮中の上達部のアイツとか、武門の若君とか、

 なんならあての父方筋のあのイケメンも……」


「やめろ」(なぜ男候補しかいないんだ(⊙_◎)?!)


「これで全員、恋歌詠み放題やでぇえ!!

 おぢ、縁切って正解正解~!

 阿諛、上玉やから引く手あまたやわ(☞゜∀゜)☞!!」


「……ほんとに殺すぞ」


勾人の握りしめた拳が震える。

天媛は、机から転げ落ちた木簡を拾った。

それで口元を隠しつつ、微笑する。


「まあまあ、天邪鬼。勾人、今メンタル蒸発してる最中なんやから。

“阿諛がフリーになった”とか、今一番聞きたない言葉やで?」


天邪鬼は目を瞬く。


「え、なんで?

 だっておぢ……阿諛と別れたかったんやろ?」


「誰が!!!!(ʘ言ʘ╬)❌❌❌」


「え???さっき自分で“嫌いや”“興味ない”とか言うて……(☞゜∀゜)☞」


「あれは天媛が演出した状況だろ!!

 俺の本心じゃねえ!!

 なんでそこで祝福してるんだお前は!!!!!」


天邪鬼は、完全に悪気がないようだ。


「え、てっきり“阿諛の未来のために身を引いた、ええ男ムーブ”や思て……」


「ただの強制縁切りだ!!!!

 なんで俺が“阿諛が他のやつに取られる”前提で褒められなきゃいけないんだ!!!!」


「え?え?え?

 じゃあなんで血判押したん(☞゜∀゜)☞???」



「押ささったんじゃボケェ!!!!!!」





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