菜蕗
あれから管媛の侍女は寵愛著しく、鈴媛の名まで授かった。
ただ使いっ走り根性がいつまで経っても抜けないで、管媛には言いなりの低姿勢を貫くものだから。媛達の中で、管媛は益々調子づいていた。
今日など旅芸人の一行が長上に招かれて、媛達の前で近頃流行りの曲を演奏し、いくつか披露したのだが。
「何という音色でしょう。得意部分らしき箇所は、どうにか音を外さないけれど……。それでいて聞くに堪えない。殆ど滅茶苦茶な音程で、他の者の演奏にも間に合ってないし、勝手に飛ばす。この程度でよく旅芸人が務まるものですね」
「管媛は手厳しいな。なまじ吹けるから、一家言あるようだ」
「当然です。笛の音にかけて、この管媛の右に出る者は居なくてよ」
鈴媛が長上に願い出て居室に下がり、横笛を持参して再び戻ってから、管媛にそれを手渡した。使い込んでいるだろうによく手入れされていて、古さは微塵も感じさせない。
〽菜蕗といふも草の名 茗荷といふも草の名
富貴自在 徳ありて 冥加あらせ給へや
管媛は、厭味ったらしい自慢屋だ。しかし矜持ある態度というのは、何も出自や家柄だけでなく、何かに秀でているからこそ裏打ちがあって、揺るぎ無く自然に身に付くものなのだろう。
楽曲解説∶菜蕗より引用
https://shakuhachi-genkai.com/analysis/analysis06-fuki.html
菜蕗
作詞:不詳 作曲:八橋検校
https://www2u.biglobe.ne.jp/~houmei/kasi/huki.htm