【自作】天探女(あまのじゃく)
勾人が都へ出て、数年経った。
かはそに朝の天媛は、殆ど宮中にはおられない。
都の区画を隅から隅まで把握し、まるで神出鬼没の天邪鬼だ。
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いけ好かない町人どもも、みな宗女の味方。
生真面目な求婚者たちは、宗女を探して右往左往。
町中のうわさとなってバカにされている。
町人どもはそれを、諧謔皮肉と呼んだ。
解さぬ者は、阿呆扱い。
よそ者は、元気なお登りさん。
それと屋敷が宮中に近ければ、近いほど良しとされる。
勾人には、どうでも良い話だった。
あれから、阿諛には会えていない。
門客から、一度母の遺髪を受け取った。
不思議と、まだ生きているような髪だった。
勾人はたまに取り出して、母の遺髪を撫でる。
「もし、旅の御方」
小料理屋の席で顔を上げると、見知らぬ老婆が立っていた。
小さな童子と、手を繋いでいる。
少し地黒の肌、阿諛の記憶が頭をよぎるが、彼ほどきめ細かくはない。
だが、なぜか目が離せなかった。
童子は指をくわえて、勾人の母の遺髪を眺めている。
急に目の色を変えて言った。
「ーー兄ちゃんだ! ……それちょうだい……」
勾人は慌てて懐に遺髪を仕舞った。
大事な品を奪われでもしたら大変だ。
「嫗、その子はお身内を亡くされたのですか?
……お気の毒に。でも譲る訳には参りません」
老婆はコロコロと鈴を鳴らすように笑った。
いやに若い声だ。
まるで声だけ、若い娘御から奪ったかのようなーー
「いえね、あなた様から……この童子の、兄の香りがしたものですから。
ーーさぞかしいい思い出ですことよ。
愉しかろう? この子の兄と過ごした三夜は」
「なんの話だ? 人違いだ。他を当たってくれ」
「アラアラ、申し遅れました。予は祈祷師でして。母と共に、旅をしておるのです」
勾人は席を立って勘定した。
祈祷師は、変わらずヒタヒタとあとをつけてくる。
「マアマア、お待ちなさいな。天媛の居所を知りたくはないかや? 未だに会えて居らぬのじゃろう。そろそろ路銀も尽きてくる頃」
勾人は、思わず足をとめた。
この老婆は一体なんだ。
町人どもの噂が出どころにしては、いささか知りすぎている。
天媛の関係者か?
「いいえぇ~。予は一介の祈祷師に過ぎませぬ」




