違和感
母は、ため息をついた。
まさか、水汲みに――阿諛――息子の相手まで同行するとは。
「俺も喉が渇いた。一緒に行っていい?」
息子が阿諛の手をそっと取り、軽く握った。
「道に迷わないようにね」
阿諛も自然に応じ、二人の手が絡む。
その距離感に、思わず視線が釘付けになる。
二人は水面に映る自分たちの影を見つめながら進む。
肩が触れ、手のひらがぴったり重なる。
もはや、ただ仲の良い兄弟分では済まされない。
どこか危ういものが、混じって見えた。
「禁足地?」
「古き祠があるのさ。計里氏に伝わる勾玉を祀った……」
勾人は楽しげに語り始める。
阿諛はくすりと笑い、首をかしげながら聞き入る。
母には、二人のやり取りの軽さが、信じられないほど重くのしかかる。
「この川が枯れたことがあったんだ」
勾人は身ぶりを交えて続ける。
「計里氏の許嫁の娘が、水不足に悩む村人を救うために、海に身を投げたんだ」
「そんな……」阿諛の声が小さく漏れる。
「でもね、二月後には雨が降り、川は復活した。
氾濫する川に、計里氏の祖先が許嫁の形見である勾玉を投げ入れて祈ったんだ。
もう二度と、生贄には頼らない」
阿諛はくすくす笑い、勾人も嬉しそうに頷く。
息子はさらに、明るい声で付け加える。
「ほら、見えてきた。あれが祠だ。形見の勾玉が祀られている」
「えええ? 川に投げ込んだんじゃ……」
「疑うのか? きっと治まった後に拾ったのさ。
もしくは沢山持ってたんだ。許嫁は勾玉を――」
母は思わず心臓を押さえ、息を呑む。
浮かれた息子、微笑む阿諛、絡めた手のひら――全てが重なり、どうしようもない絶望感を齎す。
――わたしがおかしいの?
領主の館に呼ばれて以来、この子は変わってしまった。
だが古代社会では、個人の素朴な疑問など、初めから無視される。
母はただ、子離れできない女――
計里氏の未来を邪魔する女――と見なされるだけだ。
少し気むずかしい――そんなところは、伯父に似た。
今まで冷遇してきた、
不義の子を。
息子を。
求婚者に仕立て上げ、都へ送る――
そのためなら、手段は問わないというの?




